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病院、デイサービス

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#認知症

病院にて 〜 赤いワンピース 〜

病院にて 〜 赤いワンピース 〜

 まだ、コロナの影が露ほどもなかった頃の事。患者のAさんの元に、ご主人が毎日面会に来られていた。Aさんは六十歳前半の認知症の方。でも、トイレも着替えも食事も自立されており、童顔で可愛いらしい女性だった。

 Aさんは病気のせいもあって感情的になることも多く、ご主人の面会が遅いと携帯電話でヒステリックに叫んでいた。「何で来ないの!早く来い!」そして「バカにすんな!」それが彼女の口癖。

 ご主人は、

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記憶が溢れても居ていいんだよ

記憶が溢れても居ていいんだよ

 上品な言葉がほろり「ありがとうございます」「貴女も忙しいでしょうけど、お身体に気をつけてね」いつも相手を気遣う言葉を発する人。今はもう、記憶が曖昧で、認知症と診断された人。

 70代の齢のアイさんは若い頃、都会で雑誌の編集に携わっていたという。英語も堪能で(私が英語を喋れず会話する機会がないのが口惜しい!)海外の雑誌記者とも交流があったらしい。「あの頃は面白かったわよ」昔の記憶がいっとう鮮やか

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君の記憶に灯るものは?~たんたん先生の遠い思い出

君の記憶に灯るものは?~たんたん先生の遠い思い出

 たんたん!テーブルを叩く音がする。ここは病院、いつものように朝食が終わって後片付けが終わる頃、いつものように元教師、通称たんたん先生の演説が始まる。

 「みなさーん、これから遠足が始まります。出発まで一列に並んで待っていてください」

 「何言ってるんだ!どこにも行けるわけないやないか!」

 「はいはい、落ち着いて、お口は閉じて。お利口にしていてくださいね」

 また始まったとばかり苦笑いを

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