稀な三者のアンサンブル〜【Concert】MARI ADACHI presents「聖なる子守歌」
Hakuju Hallで行われたヴィオラの安達真理、カウンターテナーの藤木大地、ピアノの佐藤卓史によるコンサート。タイトルの「聖なる子守歌」は、コンサートの最後におかれたブラームス《2つの歌》の中の1曲だが、全体を通して信仰、あるいは聖性、あるいは人の祈りといったモティーフをもつ、感じとれる作品が選ばれている。長く続くコロナ禍にあって、疲弊して乾いてしまいがちな心に、音楽がじっくりと沁みてくるような2時間だった。
安達真理のヴィオラは、感情表現の幅が広く、また深い奥行きを感じさせる。素晴らしいヴィルトゥオジティを垣間見せる場面もあるが、技巧よりも感情表現を大切にしていることが伝わってくる丁寧な演奏で好感が持てる。ピアノの佐藤卓史も同様に卓越したテクニックでヴィオラと歌を背後から支えたが、後半のソロ、ブラームス《間奏曲》でみせた深い精神性が印象に残った。カウンターテナーの藤木大地は、さらに表現力を向上させていることが、はっきりとわかった。声のまろやかさが増し、ダイナミクスがより豊かになっている。後半1曲目のマーラー《リュッケルトの詩による5つの歌曲》など、まるで1篇のオペラを聴いたような感慨さえ抱かせる。
カウンターテナーの豊かな高音、ヴィオラのまろやかな中低音、それらを支えまとめあげるピアノという、あまり組み合わされることの少ないこの3つの「楽器」が見事にひとつの世界を構築し、「アンサンブル」というものの醍醐味を存分に味わうことができた。
ビーバー 《ロザリオのソナタ》より「パッサカリア」
加藤昌則 《落葉》
ダウランド 《リュート歌曲集第1巻》より「もしぼくの嘆きが」
ブリテン 《ラクリメ〜ダウランドの投影》
ブリッジ 《3つの歌》
マーラー 《リュッケルトの詩による5つの歌曲》
ヒンデミット 《葬送音楽》
ブラームス 《間奏曲》op.119-1
ブラームス 《2つの歌》op.91
2021年2月27日、Hakuju Hall。