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【Opera】Operanaut『ホフマン物語』

バリトンの須藤慎吾さんが立ち上げたグループOperanautの旗揚げ公演が五反田文化センター音楽ホールで行われた。上演されたのは、今年生誕200年を迎えるオッフェンバック作曲の『ホフマン物語』。私も好きなオペラだが、この作品、一種のオムニバス形式になっている上、上演時間も長めなので、集中力を途切れさせることなく観通すのは実はハードだったりする。今回、初めて演奏会形式で聴いたのだが、これがなかなかよかった。何しろストーリーは奇想天外だし、人形や舞踏会やヴェネツィアのゴンドラなど刺激的なアイテムが数多く登場するので、舞台上演ではつい「目」に注意が奪われがち。それが演奏会形式だと「耳」に集中できるのだ。その結果、音楽が前面に出てきて細部まではっきりと立ち上ってくる。適当なカットが施されていたことも功を奏し、全曲を通して実に活き活きと物語の世界が描き出されていた。

もちろんそれは、出演した歌手陣が実力派揃いだったから可能だったのはいうまでもない。タイトルロールの所谷直生さん、甘く艶のある声でホフマンにピッタリ。芸達者なので、ぜひこの役を舞台でも演じてほしい。主宰である須藤慎吾さんは、リンドルフ・コッペリウス・ミラクル・ダペルトゥットの4役を見事に歌いこなし、その迫力ある「声の演技」に耳が釘付けになった。アンドレア・コシュニーユ・フランツ・ピティキナッチョの小山陽二郎さんのいい具合に力の抜けた演技も心地よい。ミューズ/ニクラウスを演じたメゾ・ソプラノの鳥木弥生さんの白燕尾服のカッコよさには目を奪われたが(笑)、響きの良すぎるホールの特質を理解した上での抑制の効いた細やかな歌唱はさすがである。通常歌われないこともあるニクラウスのアリアの美しさを再確認できたのも嬉しい。

特筆すべきは、たいていの舞台では4人で演じ分けるオランピア・アントニア・ジュリエッタ・ステッラをソプラノの天羽明恵さんが1人で歌ったこと。漏れ聞くところによると直前に体調を崩して本調子ではなかったとのことだが、熱のこもった歌唱で、聴衆を作品世界に引き込む。4役の歌い分けも見事で、またそれぞれにドレスとウィッグを変えて登場するのも楽しかった。

ピアノは江澤隆行さん。この複雑でドラマティックで優美で洒落た音楽をピアノ1台で支える力量には舌を巻く。いや、それが「仕事」なのはわかってはいるけれど、本当に見事なピアノだった。オペラの世界ではこういうピアニスト(彼はコレペティトゥアである)が実に重要な役割を果たしていることが見えるのも、ピアノ伴奏の演奏会形式というスタイルの良いところかもしれない。

Operanautの次回公演はまだ未定だそうだが、ぜひ色々な作品の新たな一面を見せてくれる充実した演奏会が続いていくことを期待したい。

2019年7月23日、五反田文化センター音楽ホール

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室田尚子
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