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『생각에 생각을』(思考に思考を) 정진호 

정진호(チョン・ジンホ)さんの『생각에 생각을』という絵本を読みました。このタイトル、直訳すると「考えに考えを」という意味ですが、なんと訳したらいいのか생각중(考え中)です。

チョン・ジンホさんは大学で建築を学んだのちに絵本作家になったという経歴をお持ちの方で、線や図形の表現がおもしろく、代表作の『벽』(壁)などでも「どこから見るかによって見え方が変わる」、「立場によって見える世界が違う」ということを表現しているように思います。
『위를 봐요!』(上を見て!)と『벽』(壁)でボローニャ国際児童書展ラガッチ賞を2度も受賞している実力派の絵本作家さんです。

『생각에 생각을』は大人の読書にも

『생각에 생각을』
白と赤のコントラスト、ゆるやかな曲線の美しい表紙


表紙は目を閉じて物思いにふける人の顔になっていて、タイトルの文字がまつ毛に見えるように配置されています。タイトルの下に作家名を入れると顔の邪魔になってしまうので、右上に小さく縦書きで「정진호 그림책」と書かれています。こんなとき臨機応変に縦書きにもできるのがハングルの強みですね。

韓国の絵本はもともとカバーなし、帯なしが一般的ですが、この絵本はあえて帯をつけてデザインを完成させています。まっ白な本と、ゆるやかな曲線にカットされた赤い帯。はっきりと色が分かれていますが、実は見返しではこのふたつの色が混ざり合ってグラデーションになっています。
帯に載せる情報量も最小限に抑えてある印象です。帯にはこう書かれています。

‘깊은 사유에 새로이 물성을 더하다’
이야기라는 공간을 탐구하는 작가 정진호 신작

『생각에 생각을』 裏表紙

「思惟」の絵本

‘깊은 사유(深い思惟)에 새로이 물성을 더하다’というのはどういう意味だろうと作家さんのインタビューを探してみたところ、この絵本は国立中央博物館の「사유의 방」(思惟の部屋)に展示されている「半跏思惟像」からインスピレーションを得た作品なのだそうです。なるほど、つまり表紙のお顔と裏表紙の指も、絵本の冒頭で物思いにふける人の姿勢も半跏思惟像をモデルにしているんですね。インタビューを読むまで「ロダンの考える人とはちょっとポーズが違うしなあ…」なんて思っていましたが、ロダンよりも「半跏思惟像」のほうが東洋的でなんだか親近感が湧くのでした。

問いの連続

昼ごはん、なににしよう。
歯みがきしたっけ。
ちょっと太ったかな。
暗証番号なんだっけ。
なに着よう。
車どこにとめたっけ。
……

ページをめくるごとに日常にありふれている自分への問いかけがつづきます。

そして、クライマックス。ここからがこの絵本のいちばんの見どころなのですが、使われている紙が薄い透ける紙に変わり、そこからもっと根源的な問いと思考の時間が続きます。さて、その問いと作者さんの答えとはいったいどんなものでしょうか。

色は白と赤の2色だけ(線の黒はありますが)、ことばも極限まで少なくした作品ですが、深い余韻が残るとても素敵な絵本です。

書籍情報

題名:생각에 생각을(思考に思考を)
著者:정진호(チョン・ジンホ)
出版社:위즈덤하우(Wisdom House)
発行日:2024年4月30日
ISBN:9791192655710
シリーズ名:스콜라창작그림책(スカラー創作絵本)
ページ数:68ページ
定価:17,000ウォン
教保文庫リンク:https://product.kyobobook.co.kr/detail/S000213078742


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