愛と哲学のヘンテコ小説――『缶詰サーディンの謎』書評
第8回翻訳者のための書評講座に参加しました。
この講座では講師の豊崎由美さんが選んでくださった課題本で書評を書いてもいいし、自分で選んだ本で書評を書いてもいい、ということになっています。
どの本について書くか毎度悩むのですが、今回は書店で表紙を見て即決。
インパクトある表紙に一目惚れしました。(ぜひ書店でご確認を!)
そして読んでみたらこれがまたすごい小説で……。
その捻りの効きまくった面白さをうまく伝える手段はないものかと考え、ちょっと思いきった文体で書いてみました。
どんな風に受け止められるのかハラハラドキドキだったのですが、なんと初めて書評王になることができました。
さてこの書評、noteを読んでくださってる方たちにはどのように読まれるのだろうかと今またドキドキしてますが、読んでいただけると嬉しいです。
(一言でも感想をいただけるとさらに嬉しいです)
さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。世にも奇妙なヘンテコ小説のご紹介だよ! え? 何がそんなにヘンなのかって? よくぞ訊ねてくださいました、感謝感激雨あられ。それじゃぁお話しいたしましょう。
まずは表紙にご注目。どこかで見たことのある二人の裸体の女性になにやら立派な邸宅と海、黒いプードル、魚の缶詰、そしてこちらをじいっとみつめる不気味な目がひとつ。どうです? なんかヘンテコで落ち着かないでしょう? ひとつひとつがてんでバラバラ、なんの繋がりがあるのかまったくもってわかりません。でもね、それこそがこの小説のキモなんでございます。
ロンドンにある大作家がおりまして、この御仁、憎しみを活力源として小説やら詩やらを書き続けていたのですが、ある日列車の中で頓死してしまいます。で、残された奥方と作家の秘書とがご対面とあいなります。ここでははんと思ったそこのあなた、大正解。秘書は作家の愛人でございました。さぁ丁々発止の戦いが始まるぞと思いきや、この二人、いきなり懇ろになっちまうんですな。でもって仲良くスペインはマヨルカ島に移り住み、近くのホテルで夜な夜な踊りを披露して、周囲からダンシング・レディースなんて呼ばれるようになるんでございます。そしてある日、一人の青年が二人の元を訪れ、ヘンな質問を投げかけたところで場面はスパッと切り替わります。
イギリスの海辺の家に住む三人家族が、朝の会話を交わしております。この家族がまたなんともヘン。なにせ夫婦の会話があまりにも哲学的。物の本質がどうたら、偽物の地球がどうたら。朝っぱらからですよ。娘は娘で登場するなりスワッピング……いやそのまぁ、ヘンな夢の話をおっぱじめたりするんでございます。で、翌朝、この家族の家に向かって大きな黒いプードルが全力疾走いたします。夫がそれに気づくのですが時すでに遅し。大事件が勃発して一家はマヨルカ島で保養することになり……。
とまぁこんな具合に、強烈な面々が登場しては、奇妙な物語が次から次へと繰り広げられてまいります。もし途中で語の筋がわからなくなってもノープロブレム。気にせずどんどん読み進めちゃっていただきたい。もしご心配なら、誰と誰とがどんな関係かとか、ちょいとメモしていただければもう完璧。ときたま登場する、サーディンの缶詰工場の場所を訊ねる男の正体が見えたとき、この小説の全容が明らかになるのでございます。
ひとつひとつの物語のユニークさにめくるめく快感を覚え、ところどころに挟み込まれる哲学、歴史、数学などの蘊蓄に脳細胞を刺激されまくることは間違いなし。ポーランド出身の前衛作家、ステファン・テメルソンが描く愛と哲学のヘンテコ小説『缶詰サーディンの謎』、とくと味わってお読みあれ。
想定媒体=書店の販促小冊子
本文のみの字数=20字×59行