#7 Dancing with the Stars

もし、私の話が誰かの記憶のどこかに少しでも残ったなら、私もいつかどこかで誰かの力になれるかも知れない、という思いで、病気のこと、回復の過程のこと、あの頃思ったことなど、少しずつ書くことにしました。もしご興味があればのぞいてみて下さい。そして私が今振り返って笑っちゃうことを、一緒に笑って頂けたら嬉しいです。

看護師さんにはフィリピン系の女性が多い。国民性なのだろう。彼女らは総じて優しく、明るく、面倒見がいい。その中の一人は、よく私の病室にテレビを見に来ていた。

退屈しないようにとオットがテレビをレンタルして私の病室に入れてくれていたが、日中はリハビリや何やらで忙しく、夜はいつもだいたい誰かが訪ねて来ていたので、あまり観ている暇はなかった。

その看護師さんは、その頃放送されていた ”Dancing with the Stars” という番組が大好きで、放送日に夜勤だと、私の病室にちょっと見せて欲しいと訪ねて来ていたのだ。

私が病室にいない時でもご自由にどうぞと言ってあったので、何人かで交代で見ていたらしい。

芸能人やアスリートがプロのダンサーとコンビを組んでダンスで競い合うという番組だった。

お気に入りのコンビがどうだったとか、衣装がどうだったとか、色々報告してくれるのだが、ほとんど見たことのない私にはさっぱり分からなかった。

だけど彼女たちが楽しそうだと、私も明るい気持ちになる。

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病院の人手が減ってしまう週末は、帰れる人には一時帰宅が許される。私は経過も良く、軽症だったこともあり、比較的早くから毎週末一時帰宅できた。

初めて一時帰宅できた日には、トモとセシとオットと外で食事しようということになって、お昼に飲茶をすることにした。

その時はまだ車椅子だったので、車椅子で行けるレストラン選びから始まった。

せっかく選んで行ったのに、その日に限ってエレベーターが故障していて、たどり着けず他のレストランを探さざるをえなくなった。

今思えばそんなに大したことではないし、どうしてもそのレストランでなければなかったわけでも何でもないのに、私はただただみんなに申し訳なくて、情けなくて泣き出した。

脳卒中患者によく見られる後遺症に、感情のコントロールが効かなくなることがあるが、私も発症後は感情のアップダウンが激しくなっていた。

オットは私が脳卒中を発症してから感情が剥き出しになりやすくなったと言う。もともと喜怒哀楽が激しいけれど、確かに前よりも抑制が効きにくくなっていると自分でも思う。

前よりもすぐに怒る。そして最終的には怒りとフラストレーションのあまり泣く。そうなると、そばにいるオットに一番とばっちりが行くことになる。トモにもセシにも何度もきつくあたったと思う。

思う、というのは実はあまり自分で覚えてないからだ。でも、彼女たちの困ったような悲しいような表情をぼんやり覚えているから、絶対やっているはずだ。

何てひどい恩知らずと罵られても仕方がない。彼女たちは決して罵らないけれど。

自分でも悪いと思っている。でもコントロールが効かなくて、はっと気づいた時にはだいたいいつもすでに手遅れだ。相手を傷つけて、自分も傷ついている。

みなさんにはもう一生償っていくしかない。

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病院には、トモ、セシ、オットはもちろん、他の友達も代わる代わるお見舞いに来てくれた。同室のシェリルばあちゃんにはほとんど誰も面会が来ないので、病室には友達を入れづらく、たいていはロビーで会った。

バレーボール仲間も代わる代わる訪ねて来てくれたし、朝出勤前に顔を出してくれる友達もいた。

ある日、もうすぐ結婚式を控えたジムとカイリーが予告もなくお見舞いに来て、ジムが車椅子を押して二人で外に連れ出してくれた。

救急車で運ばれてから、まだ一度も外に出ていなかったので、11月の冷たくて湿った空気を吸って、枯葉がたくさん落ちているのを見て、外に出られることがこんなに嬉しいのだと初めて思った。

知らないうちにもうだいぶ秋が深まっていた。

ある時、友人のソフが、ご主人のレンと一緒に訪ねてきた。レンは数年前に脳卒中を発症して回復した、言わば私の先輩である。私の顔を見て、

「元気そうで良かった、今日は自分の脳卒中の経験をシェアしに来たよ」

と言った。ソフと二人で、ゴムボールをしょっちゅう握っていると、握力が戻ってくるとか、痺れて感覚が麻痺している腕には、ざらざらした表面のたわしみたいなものでこするといいとか、具体的なアドバイスをたくさんくれた。

中でも印象に残っているのは、リハビリしているとあるところで必ず停滞するけれど、そこでやめてはいけないということだった。

これは本当にその通りで、あるところまでは急激に回復するが、その後長い長い停滞期がやってくる。

でも諦めずにリハビリを続けていれば、また少しずつ回復する。

レンが教えてくれなかったら、私はこんなもんかと途中で諦めていたかも知れない。

トモとセシも、外見からはとても脳卒中を患ったとは思えないレンと会って、こんなに回復する可能性があるんだと知り、希望の星だと言ってとても喜んだ。

(#8へ続く)

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