#13 パラリンピック
パラリンピックを観戦して大興奮!選手たちの姿に触発されて、私もヨガとバランスボードでがんばる、の巻。
この年は、ちょうどバンクーバー冬季オリンピック開催の年で、バンクーバーの街はお祭り騒ぎだった。
世界各国から集まった人たちで街はいっぱいで、あちこちで賑やかにイベントが開催されていた。
実は私は倒れてからというもの、人混みが極端に苦手になっていた。人が大勢いるところでは、頭がいっぱいになり、すぐに疲れる。
Sensory overload、つまり感覚に負荷がかかり過ぎるのだ。目から、耳から、鼻から、体全体から入ってくる情報が多すぎて、脳が処理するのにフル回転してパンクする。
一度オットと一緒に近所のスーパーに買い物に行った時、店内に置いてあるものの色や形、文字、食べ物の匂い、店内の音が一気に頭に入ってきて、めまいがして息が苦しくなり、慌てて店外に逃げ出した。
しばらく道端でうずくまっていたほど、私の頭はオーバーヒートしていた。
そんな状態だったので、人混みに長くはいられなかったが、それでも街のお祭り的な雰囲気を味わいに時々は出かけたし、いくつかの競技を観に行くこともできた。
オリンピックではカーリングを、パラリンピックではスレッジホッケー(パラアイスホッケー)を観戦した。
どちらもとても楽しかったが、特にスレッジホッケーは準決勝で日本がカナダに勝ったゲームだったので、もう私も妹も大興奮だった。
選手たちはみなスピード、スタミナ、パワー、テクニック、どれを取っても超人並みで、NHLのゲームに引けを取らないほどの熱戦だった。
パラリンピックをもっと多くの人に観て欲しいし、もっともっと評価されるべきだと思う。
ほんの一時でも手足が不自由になり、車椅子や歩行器を使うことになって、リハビリを経験した私は、世の中を見る目が、もう二度と以前のそれとは同じではなくなった。
駅の構内や建物の中ではスロープやエレベーターはあるのかが気になるし、レストランのトイレに入る時には、車椅子でも入れるか、手すりがあるかが気になる。
信号が変わりそうな横断歩道を車椅子や杖をつく人やお年寄りが渡っている時には、いつでも駆け寄って手助けができるように、立ち止まって身構える。
カナダでは身体が不自由でも、比較的色々なことが自由にできる。
例えば、ヨガやカヤックなどのアクティビティは、身体の不自由な人たち向けにプログラムが組まれているし、車椅子で行けるハイキングコースも多数ある。
そういう意味で、恵まれた環境でリハビリに励むことができたのは、本当にありがたいことだ。
私はアダプティブヨガと呼ばれる、身体の不自由な人でも動くところだけを動く範囲で使って行うヨガのクラスに通った。
車椅子のままやる人、壁に寄りかかってやる人、椅子に座ったままやる人、付き添いの人に手を貸してもらってやる人など、様々な人が様々なやり方で行う。
私はバランスが悪かったので、片足で立つことができず、片足のポーズの時は両足でやった。
相変わらず色々なことがちゃんとできず、自分のダメさ加減に笑ってしまうのだけど、誰でも安心して安全にのびのびと体を動かせる空間だった。
誰もが遠慮せずやりたいと思ったことができる社会であるべきだと、倒れてからはなおさら強く思う。
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バランスが悪いので、着替える時は壁に寄りかかりながらでなければできなかった。片足で立てないからだ。
近所のコミュニティセンターのジムに通って、マシーンの上で歩いたり、理学療法士に教えてもらったエクササイズをマットの上でやったりしたが、なかなか良くならなかった。
そんな私の様子を聞いて、友達のジョエルが木の板で小さなシーソー状のバランスボードを作ってくれた。
バランスが取れれば、その上で真っ直ぐ立つことができるが、ほとんどの場合、左右どちらかが床につく。
足元がおぼつかないというのは、今でも私には恐怖なのだけど、それでもこのボードのおかげで、足元がぐらついても前ほど怖くはなくなった。
少しずつ仕事に戻ってからひと月するかしないかのうちに、すっかりフルタイムで復帰した。
3ヶ月ほど身の回りの世話をして、自宅療養に付き合ってくれた妹も、仕事に完全復帰した私を見届けると、日本に帰って行った。
倒れてから自宅でまるっきり一人になるのは初めてで、またしばらく夜寝る前に少し不安になる日々が続いた。
Wiiで一緒に遊ぶ相手もいなくなり、私はまた仕事に多くの時間を費やす悪い習慣に逆戻りした。
そしていまだに私の中にガンコちゃんが居座っているために、仕事、回復、全てのことに、脇目も振らず猛突進していく日々が続くようになった。
あんなに淡々と回復に向けてリハビリを続け、あっという間に職場復帰を果たして、ようやく落ち着いたはずなのに、気づくと次第に心も身体も疲弊し始めていた。
(#14へ続く)
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