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出席簿#49「万葉仮名で綴る思いは」

【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」

2月23日、月曜日。なかなか春が来てくれなくて、三連休もまだ寒波?皆さまはいかがお過ごしでしたか?

寒いと私はついつい出不精になりがちなのですが、先週はたまたまご近所さんに誘われて息子と2回も遊びに行ってしまいました。寒い日、こたつのある家に招かれると……断れませんよね?親子ともども、ご近所のシニア層様に甘やかされております笑

月木に更新しているnoteですが、月曜日には拙著『おしゃべりな出席簿』お試し版として、連載当時の作品とそれに寄せて今の思いなどを気ままに綴っています。今回は、久々に国語っぽいお話です。2021年に書いたものの再掲ですので、2023年に向けての企画が登場したりと、やや古さもあるのですが、いろいろな意味で時を超えた「漢字クイズ」を、一緒に楽しんでいただけると嬉しいです。

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「万葉仮名で綴る思いは?」

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刺されると痛い「八千」、狩野で出会った「十六」、なーんだ?

真ん中に漢字クイズ、右下には小さく地域の偉人・人麿公。ビタミンカラーのチラシができた。「万葉仮名で暗号ラブレターを書こう」、大人も子どもも対象にした、ワークショップ企画が動き出した。

発端は小学校に勤める知人からの提案だった。

「一緒になんか仕掛けていかない?」

一説に、私がいる益田は歌聖とよばれた柿本人麿公終焉の地。2023年には没後1300年祭が予定されている。

それに向けて地域を盛り上げ次世代への継承へとつなげたいが、子どもたちと楽しめる企画ができないものかと、知人に白羽の矢が立ったらしい。

「文化の継承って聞くと身構えちゃうかも」
「子どもも大人も楽しめそうなゲームは?」

話し合いの末にたどり着いたのが“暗号ラブレター”だった。万葉集は漢字で書かれている。厳密には万葉仮名という、この時代特有の表記方法。文字を持たなかった日本人は、思いを伝える工夫として、漢字の音や訓を組み合わせ、遊び心も重ねながら、思いを発信していた。

簡単な万葉仮名一覧を準備して、クイズ形式で解読したり作成したり。これならできそうだし、楽しそう。古典大好き国語教員として、ここは腕の見せ所だ。

当日は小学生からシニア層まで、多様な世代が集まった。

「なんて書いてあるでしょう?」

クイズからスタートすると、「はいっ」、すぐさま小さな手が上がる。どうやら子供たちの方が得意みたい。

さて、冒頭のクイズ、「八千」はハチ(蜂)、読み方の組み合わせだ。八も千もカタカタの元になっているから、そのままでもなんとなく読めそう。十六はシシ(獅子)、こっちは算数の九九で、四四=十六となることから。

実際の万葉仮名をいくつか解読すると、今度は書いてみたくなる。

「じゃあ本題、暗号ラブレター書いてみよう」

日本語は音数の少ない言語だから、当て字をするには数ある同音の漢字から「選び取る」という段階を踏まないといけない。

あるお父さんの便せんには、文末に「真珠」。

しばらく考え込んで「あ、ですますの『ます』ですね」。それは、パートナーへ日々の感謝を伝えるお手紙だった。

妹にお手紙を書くんだと鉛筆を走らせるお兄ちゃんもいれば、「私の母に……」と丁寧に清書をする女性もいる。選び抜かれた漢字たちが、それぞれの便せんで輝きを放っていた。

ワークショップの締めくくりには、もういちど、人麻呂公の和歌を万葉仮名で読んでみる。

最後にみんなで思いを馳せたかった。

「どうしてこの字にしたんだろう」

本当のところは、書いた本人しか知りえないのかもしれない。でもその思いに手を伸ばしたら、遠い昔の恋歌が、身近に引き寄せられそうで・・・・・・。

ワークショップが無事終わり、ほっと一息ついていると、「先生、どうぞ」、参加した高校生が、含み笑いとともに一通の手紙を差し出してきた。「今日者、素敵七働店 二七五三一升」さて、この暗号、読めますか?

(2021/05/09 朝日新聞島根版掲載)

作品に寄せて

お読みいただきありがとうございました。

時を超えた漢字クイズ、お楽しみいただけましたでしょうか?
答えは……本文の最後で!笑

いろいろなことを雑多に書いていますが、これでも一応、国語教員(の”かなり”はしくれ)。ときおり、学校を飛び出してワークショップのお話などをいただくこともあります。

なかでも楽しかったのが、このワークショップ。万葉仮名って、漢字クイズみたいで本当に面白いんですよね。

万葉歌人の時代から今に至るまで、漢字も形を変え、ものによっては字義が変わってしまった字もあることでしょう。現代の認識で、当時の「字」のチョイスから和歌に込めた思いを推察するなんて言うのは乱暴でおごった話なのかもしれません。

それでも、万葉仮名ってときに遊び心が見られるし、時にハッとするほど美しい字があるので、もし機会があったら見ていただきたいな、と思っています。たまには感じ暗号文で家族や友だち、パートナーとやり取りなんてのも面白いかもしれません(懐かしのポケベル的な)。

ちなみに、クイズの答え。
「今日者、素敵七働店 二七五三一升」
→「今日は、素敵なワークショップ ありがとうございます」
だそうです。

蛇足かもしれませんが、モヤっとする人がいるといけないので解説しますと

「者」=「は」※中国漢文と同様の用法。日本でも主語を示すため(いわゆる主格の助詞として)「者」が用いられてきた

「七」=「な」※当て字。こういうのは万葉仮名によく見られます。

「働店」=「ワークショップ」※これは生徒のオリジナル。こういうところ、発想の柔軟さに頭が下がります。

「ニ七」=「ありがとう」※「2かける7」が「39」であることから「サンキュー」

「五三一升」=「ございます」※当て字

とのことでした。お見事!正解だったよという方、遠慮なくコメント欄に喜びの声をお寄せください。皆さんの自作「漢字暗号」もお待ちしています。

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