【TV】探偵ナイトスクープ『探偵とデートしたい男!』
凄かった。
「非モテ」「コミュ障」「スクールカースト」「こじらせ」などなど、“残念な人たち”に対するカテゴライズがかつて無いほど充実している現代においてでも、なお掬い上げられない人の悲哀を慟哭を強烈に描いたドキュメンタリー作品だった。
恋愛はおろか、そもそもコミュニケーションの取り方、人とのふれあい方が全くわからない依頼者男性(34)が、結婚も諦め、恋人を作ることも諦め、恐らく自分がこの先女性とデートすることすら無いであろう現実に絶望し「男女問わず、とにかくデートしてほしい」と探偵局に依頼する。
探偵は、カンニング竹山。
最初は「中年男性同士のデート」という変わったシチュエーションを笑うギャグ回のようなテンションで始まった収録も、依頼者のコンプレックス、トラウマ、理想の女性像、性欲、敗北感が露呈するに伴って、張り詰めた空気が漂い始める。
中でも強烈だったのが「(指を絡ませるように)手を繋ぎたい」という依頼者に対し、竹山探偵が「いきなりは・・・・・徐々に徐々にでいいんじゃない?」と返すと、突如大声になり「(それは)無い・・・無い!」と返すシーン。
そして、群馬のセクキャバで嬢とキスをしたときの感想を聞かれ、虚ろな目で「何にも感じない」「(くちびるが)冷たかった」と依頼人がつぶやくシーンだ。
この依頼者にとっての恋愛って、映画やドラマにしか存在しなかったものなんだと思う。「デートの時は絶対に指を絡ませないといけない」「キスをするときは夜景の前じゃないといけない」などなど、中学生レベルの恋愛イメージでガチガチ。晩飯に焼肉店を選んだのも、長年付き合った(より露骨に言えば、肉体関係のある)カップルのイメージを模倣したかっただけじゃないか。
そういえば、依頼者は基本関西弁なのに、竹山探偵に話しかける時だけ「どこか、行きたいところある?」「男、女、関係ないんだ!デートがしたいんだ!キスがしたいんだ!それだけなんだ!」と、不自然な、トレンディドラマ調の標準語になっていた。
虚構のサンプリングで出来上がった依頼者のデートに、最初は付き合っていた竹山探偵。だが、あまりの幼稚な恋愛観にイライラしはじめ、本音で依頼者とぶつかりあう。「俺酒飲みてぇわ!オマエの言ってること理解できねえし!」「オマエ童貞なんだから黙ってろ!俺の言うこと聞いとけって!間違いないんだから!」「オマエは諦めが早い!そして余りにも自信がなさすぎ!自分で自分のことダメにしすぎ!」・・・・・・竹山探偵優しいぜ!これまで、依頼者の親戚、友人にこんな人が1人でもいたなら、もっといい男になれただろうに。
優しい竹山探偵は最後に「オマエのこと愛してくれる人いるって!」と声をかけていたけど、それはどうなんだろう、と考えてしまった。どんなに優しい女の子だって、こんな卑屈で、独善的で、ヒステリックな男性と付き合ってあげる義務なんて無い。
勇気を出して行った婚活パーティの告白タイムでは、相手に顔を背けられた。行きつけの焼肉屋の大将は彼に憐憫の眼差しを向けている。スタジオの松尾依里佳はVTRを見終わった後、とんでもない化け物を見てしまったような表情をしていた。
(焼肉屋の大将)
(VTR終了時の松尾依里佳)
現時点で、依頼者のことを本当に想ってくれた人は、竹山探偵しかいない。こんなこと考えたくもないけど、依頼者は竹山探偵との一度きりの擬似デートの思い出を、一生抱えたまま、誰にも愛されず老いて、死んでいくかもしれない。
そして、おそらく日本のあらゆる地方には「竹山探偵との擬似デートの思い出」すら抱くこともなく、孤独に生きて死ぬ男性がたくさんいるんだと思うと、これまた絶望的な気持ちになる。