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【文献レビュー】遊具の安全規準の意味とは

 日本で屋外遊具の安全規準が初めて制定されたのは2002年である。これは、1978年にドイツで世界初の安全規準「DIN7926」¹が制定されてから約20年後のことである。

 リスクマネジメントの研究者である松野は安全規準の制定までの歴史から、日本の安全規準の特徴を述べている²。当時の都市公園法に安全性の規定がないまま公園の供給が推進されていた状況歴史から、日本の安全規準の特徴を述べている²。当時の都市公園法に安全性の規がないまま公園の供給が推進されていた状況歴史から、日本の安全規準の特徴を述べている²。当時の都市公園法に安全性の規がないまま公園の供給が推進されていた状況に対して、1990年代後半から国土交通省は公園施設に起因する事故の調査を開始した。1998年には箱ブランコの死亡事故³に対する民事訴訟が注目されたことをきっかけに、屋外遊具の事故に関する調査が本格化し、2002年には国土交通省が「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」を公表した。指針の策定にあたって、アメリカの安全規準「ASTMF1487」⁴と欧州連合の国際安全基準「EN1176‒1177」⁵が参照された。

 この指針では遊具の持つ危険性が、リスクとハザードの2つの観点から定義されている。リスクとは子供が予測可能な危険のことで、子供の成長にとって必要なものである。一方ハザードとは子供が予期できない危険のことであり、管理者の過失によって発生する。そして、遊びの環境を整備するためには、リスクを極力残しながらハザードを徹底的に排除することが必要であるとされた。ISO(国際標準化機構)の指針が、ハザードは危険の源で、リスクは起こりうる危険のことだと定義しているのと比較すると、日本の指針ではリスクとハザードを善悪の二項対立にしている点が特徴的である。

 この指針をもとに日本公園施設業協会5が同年2002年に具体的な数値基準「JPFA-S:2002」を策定し、全国の公園管理者に通知された。
(松野敬子 2013)

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遊具の安全に関する規準 JPFA-S:2014
改定が重ねられ、現在では2014年版が最新である。8000円。
出典:一般社団法人 日本公園施設業協会

 以上から、安全規準JPFA-S:2002の規定寸法は、リスクとハザードの境界を厳密に規定するためにあることがわかる。数値基準は遊具の危険性をすべて排除するためにあるのではなく、リスクの存在を肯定して、遊具に必要な危険性を保持させているといえる。

 JPFA-S:2002の公表は遊具業界に強い影響を与えた。当時安全規準を遵守する法律は特になかったが、事故が起こった際の責任の所在を追求するために安全規準が使われることがあったため、2002年以降ほとんどの企業が安全規準を守って遊具を設計するようになった。また、規準の制定前に製作された遊具のほとんどは規準寸法を満たしていなかったことを考慮して、JPFA-SP-S:20146には基準不適合遊具への対応について以下の通り記載されている。

解説1.2-2(既存の不適合遊具の取り扱いについて)
 本基準は、子供にとっての「遊びの価値」を尊重しつつ、重大事故を予防するという観点から定めた推奨基準である。会員企業のために策定したものを一般にも公開したものであり、JPFAは「共通の資料」として広く活用されることを望むが、外部に強制する立場にはない。既存の不適合遊具については、不適合であることがすぐ重大事故につながると考えるのではなく、その可能性の大きさを判断することが大切である。暫定的な対処によって十分安全に使える方法を包含した管理計画を策定し、優先順位に応じて最新の基準に適合した状態にすることを推奨する。(JPFA-SP-S:2014,p.50)

 このように、JPFA-SP-S:2014は規準に不適合の遊具であっても、リスクを維持しつつハザードに該当する部分のみを改善するよう推奨している。例えば事故の多かった箱ブランコや回旋塔は、可動部に生存領域が確保できない点や、自力で停止できないという点で撤去が推奨されている。また、それ以外の可動遊具は、安全規準の範囲内では設置が認められた。また大型の造形遊具などは一部基準に満たない部分があっても、部分的な修繕をすることで設置が許可されている。

 しかし安全規準が設定されて以降、規準に不適合の遊具がすぐに撤去される事例が頻発している。ブランコやシーソーなどの可動遊具は安全規準の範囲内であっても動かないように固定され、多くは撤去された。また、大型の彫刻遊具の多くもまた撤去された。これは、リスクとハザードが適切に評価がされないまま、管理者が事故の責任を回避するために撤去を選択することが増えたからだと考えられる。さらに、2018年から「都市緑地法等の一部を改正する法律」が可決、成立したことにより、年に一度の定期的な点検が義務化された。この法律では点検で危険とみなされた遊具には直ちに必要な措置を講ずるように定められている。この時参照されるのは国内で唯一の安全規準JPFA-SP-S:2014である。よって、JPFA-SP-S:2014に不適合の造形遊具は、今後急速に撤去が進むと考えられる。


1 世界初の遊具の安全規準。遊びの価値を重視して策定されたが、「遊びを規格化している」という批判もあった。
2 松野敬子, 遊具の安全規準におけるリスクとハザードの定義に関する一考察, 社会安全学研究 第3号(2013)3 別名「安全ブランコ」。日本全国の多数の公園に設置されたが、使用中の骨折事故が相次いだことで撤去が進んでいる。
4 1993年にアメリカで策定された安全規準。ハザードの除去に重点が置かれている。
5 1998年にヨーロッパで策定された遊具の安全規準。DIN7926をもとにして策定された。遊びの価値を重視し、リスクをいかに残すかという安全対策を行った。

評者

中尾直暉 (@_nko_nok)
1997年 広島県広島市生まれ
1999年 長崎県佐世保市で育つ
2016年 早稲田大学創造理工学部建築学科 入学
2020年 早稲田大学創造理工学部・研究科 吉村靖孝研究室所属

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