見出し画像

ミャンマー国境での特殊詐欺事件について

ここ数日、ニュースとして頻繁に上がってくる、ミャンマー国境での特殊詐欺について、タイ在住の筆者が解説します。(記事画像はイメージで、実在のものではありません)

stand.fmでの音声はこちら。https://stand.fm/episodes/67b99b7095230faa911ae78f

日本のメディアが報じるミャンマー詐欺事件

「ミャンマー国境の特殊詐欺拠点に宮城県の高校生含む12人の日本人が巻き込まれる」(TBS)、「ミャンマー国境警備隊、日本人監禁の詐欺拠点を封鎖」(テラスタニュース)など、ショッキングな見出しが並びます。FNNプライムオンラインでは「なぜ日本の高校生がミャンマー詐欺拠点で監禁生活を送るのか」、goo newsでは「ミャンマー外国人特殊詐欺 日本の準暴力団チャイニーズドラゴン関与か」などの報道もありました。

これは単なる詐欺事件ではなく、国際的な人身売買や組織犯罪の側面も持つ問題です。

ミャンマーという国

まず、ミャンマーの地理的・政治的背景について簡単に触れます。
ミャンマーは東南アジアに位置し、かつて「ビルマ」と呼ばれていました。筆者の住むタイの隣国で、人口は約5000万人。タイ(7000万人)より、少し少ない規模です。ただ、こういった国では、日本でいう国勢調査のような調査がしっかりできないですし、戸籍がない人も多数いると思われ、実際はもっと人口が多い可能性はあります。

歴史的に長く軍事政権が続いた国であり、2010年に軍事政権が解散。その後2015〜2016年にかけて民主政権が成立し、アウンサン・スーチー氏が指導者として活躍しました。しかし、軍は完全に権力を手放したわけではなく、2021年に再びクーデターを起こし、軍事政権へと逆戻りしてしまいました。

このクーデターの背後には中国やロシアの影響があるとも言われています。民主政権時代には海外からの経済支援が活発化しましたが、軍政復活により再び国際的な経済制裁を受けることになりました。

軍事政権下の無法地帯

現在のミャンマーは、政府の統制が行き届かず、特に国境地帯は無法地帯と化していると言われています。今回の詐欺事件の舞台となったのは、ミャンマー東部のミャワディ。ここはタイのメーソートと国境を接する地域であり、軍の影響が及びにくい場所のひとつだと思われます。

このような統治の空白地帯に目をつけたのが中国人マフィアであり、おそらく現地の武装勢力と手を組んで詐欺拠点を確立したと考えられます。詐欺を行うには電力やインターネットが不可欠ですが、ミャンマーの一部地域はタイから電力や通信インフラを輸入しており、ミャワディが詐欺拠点として選ばれた理由の一つとも言えます。

日本人など外国人がミャンマーの不法地帯まで拉致された経緯

日本人をはじめとする外国人がどのようにしてこの詐欺組織に取り込まれたのか。手口はシンプルで、ネット上で「高待遇の仕事」を謳い、渡航を誘導したようです。現在、ミャンマーは軍事政権化のため、簡単に入国できないというのもあるのでしょう。タイでの求人を装い、バンコクの空港に到着後拘束され、そのまま国境のメーソートまで連れて行かれ、正式な出国手続きを経ずに、ミャワディーに密航させられます。

タイと中国の首脳会談が起点に?詐欺犯罪拠点の閉鎖の背景

2月6日、タイのペートンタン首相が中国で習近平国家主席と会談しました。ペートンタン首相は、以前クーデターで追放されたタクシン元首相の次女です。この会談を境に、ミャワディーでの詐欺犯罪に対する取り締まりが急速に進展していったように感じます。

おそらく、中国政府からの圧力が背景にあったのではないでしょうか。これらの詐欺犯罪は、中国人をターゲットにしたものが多く、中国政府としても見過ごせない問題でしょう。違法なオンラインカジノや詐欺グループが中国人を狙って活動していたため、中国政府がタイ側に対し、これらの拠点を一掃するよう要請した可能性が高いと思われます。

電力供給の停止で急展開

タイがすぐに取れる対応の一つが、電力の供給を止めることでした。詐欺拠点の電力供給が絶たれると、当然ながら活動ができなくなります。これにより、長らく監禁されていた被害者が次々と解放され、拠点の閉鎖が進んでいる状況です。

しかし、現時点で詐欺を主導していた人物が逮捕されたという話はほとんど聞きません。この地域は無法地帯に近く、犯罪組織のトップたちはまた別の場所へ移動し、同様の違法行為を続けるのでしょう。

場所を変えて繰り返されるこの手の詐欺犯罪

今回はミャンマーのミャワディの詐欺拠点が注目されていますが、少し前まではカンボジアのシアヌークビルが同様の犯罪の温床として話題になっていましたね。

僕も昨年の半年間、シアヌークビルに滞在していました。街の雰囲気は、カンボジアとは思えないほど異様なもの。まるで中国のマカオのように、カジノビルが乱立し、街の看板や標識はほとんど中国語。カンボジア語の表記もありますが、街全体の雰囲気は完全に中国の都市のようでした。

当時のシアヌークビルは、中国資本による違法オンラインカジノの拠点となっており、多くの中国人が関与していたとされています。現在は一部の違法カジノがまだ残っているものの、取り締まりが強化され、以前ほどのダークさはなくなっています。しかし、このような犯罪組織は一箇所が潰されると別の場所に移動して活動を続ける傾向があり、今後も政府の実効支配が緩い地域を中心に、新たな拠点が生まれる懸念があります。

いいなと思ったら応援しよう!