ネメシスの裁き
その部屋には6名が入った。出てきたのは5名の人間といくつかのゴミ袋に入った赤黒いパウダーであった。
黒服の男達は「元少年N」の前に立っていた。顔に被せられた麻袋を取り顔を確認する。
「なぜ処刑されるか分かるか?」
「元少年N」は何も知らず、人違いであることを震える声で主張しているが男達は聞く耳を持たない。黒服達は日本人と見受けられるが、互いを洋名で呼び合っていた。
ムッシュと呼ばれる背の低い男。一本の体毛も持たぬ紳士風の男はトランクケースを開け、検査キットを取り出し、淀み無く黒色のゴム手袋を装着した。フランツと呼ばれる長身筋肉質な男は、屈強な腕で「元少年N」の頭を強く地面へ押さえつけ、同時にムッシュが長い綿棒を鼻腔へ突き刺した。二人の動作は反復による洗練を経ていた。試験管へ綿棒を入れたり、何か試薬を混ぜたりと、まるで家のプリンタのインク交換のように手慣れた様子で検査を進めるムッシュ。その後、静寂の2時間が経過した。
ノートパソコンの画面を凝視していたムッシュは画面の反応に立ち上がり静かに言った。
「西真二郎、ネメシスの御名において、お前を処刑する。」
「元少年N」は縛られた手足を力一杯動かしながら叫び始めた。コンクリート打ちっぱなしの部屋に響く、屠殺場の豚に似た悲鳴。フランツは膝で頭を圧迫しながら手際よくガムテープで口をぐるぐると巻き、ムッシュは続けて罪状を読み上げた。
殺人2名、殺人未遂1名
金槌で児童2人を殴り1名殺害、1名障害の残る重症、ナイフで児童の腹部刺傷(重症)、児童1人を靴紐で絞めながら暴行し絞殺、遺体の首を切断し射精、切断した頭部に対し、ナイフで口の両端を耳まで切り裂き、目を刺し潰す、遺体の血を飲む、自宅風呂場で遺体頭部を洗いながら射精、頭部の口に犯行声明文を入れ中学校校門へ置き晒す。等
読み上げたのちムッシュからの目配せを受け、フランツは金槌を振りかぶった。頭蓋骨の砕ける音、少しずつ小さくなる叫び声、繰り返し振りかぶるフランツ、飛び散る脳漿。
ムッシュの指示で黒の防護服のようなものを着た処理班と呼ばれる者3名は素早く遺体を処理し始めた。部屋には圧力鍋、数多くのミキサー、乾燥機だけが並んでいた。
琵琶湖の見える山の豪奢な別荘。西洋式神殿に場違いの土下座をしているムッシュとフランツ。額を大理石に擦り付けるムッシュ。その頭部を10代とおぼしき少女が素足で踏みつけている。それを車座になって見守る50名程の白服達。
「ムッシュよ、苦しみが足りません。悲しみが足りません。凌辱が足りません。よく考え次に繋げなさい」
足をのけ、黒大理石の椅子に腰かける少女。正座のまま真っ直ぐに少女を見るムッシュとフランツは落涙と嗚咽を漏らしながら感謝の言葉を述べた。