アルバム・レヴュー #01 daniwellP 「MKLYPN」
4人の音楽好きが1枚のアルバムで交差するⅩレビュー。第一回目のアルバムは、daniwellP の「MKLYPN」です。
daniwellP 「MKLYPN」
2019年1月にリリースされた6曲入りのボーカロイド作品集。作者のdaniwellP は、ニコニコ動画で100万回再生を記録している人気ボカロPである。
4つ打ちを基調としたダンス・ビートにのせて心地よい歌メロが繰り返され、まったく飽きさせることもなく、ずっと聴いていたいという気持ちにさせる。このループの快感はなかなかのもの。痒いところを最適なリズムで掻いてもらっているような感じとでも言おうか、曲が終わってしまう時にはやめないでくれ、と切なくなってしまう。
この歌メロには、ポップというだけでは言い足りない、より普遍的な何かを感じる。試しにアコースティック・ギターをフォーク調で、あるいはファンク調で弾きながら本作の歌メロを口ずさんでみると、それがどんなアレンジにも耐えうるような強い骨格をもった旋律であることがわかる。ギター1本の伴奏だけでも成立してしまう楽曲の生命力は強靭。
アレンジも流石。各パートが丁寧に必要なだけ配されており、過剰で耳ざわりな音圧とも無縁で大変聴きやすい。M2では、全体にかかるイコライザーがローからハイへ、そしてまたローへという周期で、寄せては返す波のような具合に処理されている。クラブ・ミュージックではよくある演出なのかもしれないが、私のような耳には新鮮だった。秀逸。
さて、兎にも角にもボーカロイドである。なぜボーカロイドなのだろうか。かく言う私もボーカロイドで楽曲制作をしていた時期があったのだが、その理由のひとつは死人に歌って欲しかったからというものだった。生きてはいない人に歌ってもらえば、「からっぽな感じ」をうまく表現できるかもしれない、そんな風に考えていたと記憶している。
からっぽな感じ。時々思うのだけど、この世でいちばんリアルなものは空虚感ではないだろうか。虚無感と言ってもいいが、そうした自身の感覚と世界とをすり合わせ、調律し、歌わずして歌おうとする時、ボーカロイドは最適なツールとなる。
さらに、本作の特徴であるループという手法もまた虚無的である。例えば父、という漢字を凝視し続けていると次第にそれが父とは見えなくなっていくように、ループは今鳴っている自身の音そのものを曖昧にする。
このアルバムの魅力は、全編を覆っているそうした空虚感、虚無感にもあると感じ、その流れでミニマルやダブといった音楽も連想させられたのだった。
それにしてもこの歌詞、何を歌っているのかまったくと言っていいほど聴きとれない。これ、もしもすべてが作者の造語だったりしたらさらに虚無っていてカッコいいんだけど、どうなんだろう。
2020/12/06 浅井直樹
Ⅹレビュー #01
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