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アルバム・レヴュー #03 R.E.M. 『Chronic Town』

4人の音楽好きが1枚のアルバムで交差するⅩレビュー。今回は私がお題を出させていただきました。(執筆者は五十音順)

R.E.M. 「Chronic Town」(1982)                      
                                                                                                 
浅井直樹

 R.E.M.が1982年にリリースした5曲入りのデヴュー・ミニアルバム。
 アメリカのジョージア州アセンズという小さな大学町で結成されたR.E.M.は、大学生が運営し、限定的なエリアに向けて情報発信を行う学生向けラジオ局、いわゆるカレッジ・ラジオによって人気を獲得した。
 その後1985年には英NME誌のインタヴューで「10年後にドアーズやベルベット・アンダーグラウンドみたいな感じで聴いてもらえたらいい」と自分たちの将来について語っていたが、そのわずか2年後には米Rolling Stone誌において“America's Best Rock & Roll Band”と称えられ、やがて地球規模の成功を収めていくことになる。
 高校生だった私は、アメリカのヒットチャートを紹介するテレビ番組でR.E.M.と出会った。時は80年代前半。シンセサイザーや、マッチョに歪まされたギターが中心となり、大金をかけて過剰にプロデュースされた、イメージでいえばハリウッド映画のようなヒット・ナンバーが次々と紹介されるなか、突如鳴り響いたリッケンバッカーのジャングリーなアルペジオ。うつむいて目を閉じながら、告白か懺悔でもしているかのようにボソボソと歌うボーカリスト。まったくもってスター然とはしていない佇まい。伝統的なフォークやカントリーを基調としているのに、なぜか陰鬱な印象を受ける楽曲。
 その時に感じたのは、衝撃や新鮮さというよりも、それまで身体に不足していたものが明らかになってそれが補給されていくような安心感だった。
 そう、彼らが1992年にグラミー賞を獲り、その後オルタナティヴという概念がより一般的なものとなっていった時、多くの人が感じたのは驚きや興奮というよりも安心感だったのではないか。
 さて、このChronic Townはデヴュー・シングルに続くR.E.M.初の作品集ということになる。ここには彼らの音楽の重要なキャラクターである、自らの深いところへ耳を傾けようとする内向性と、英国ポストパンクに通ずるような陰鬱さが他のI.R.Sレーベル時代のアルバムに比して高い純度でパッケージされている。
 摩訶不思議なアートワークや怪奇なSEによる演出とも相まって、さながら見世物小屋的な雰囲気を醸し出しており、後のアルバムにはない特有の陰影がある。5曲という収録曲数だが、これ以外は考えられないというほど効果的な曲順で配置されており、A面からB面へのスイッチも絶妙。
 そして、このバンドのトレードマークとも言うべき音像がこの時点においてもうすでに完成していたことがわかるアルバムでもある。
 例えばピーター・バックの1、2弦あるいは4弦を開放にしながら3弦で主たる旋律を紡ぐ特徴的なアルペジオ奏法や、マイケル・スタイプのアメリカ人でもその歌詞を聴きとることが困難というボーカル・スタイルとそれを支える堅実なバック・コーラス、SEの使用法、そしてメロディアスな複数のパートが緻密に接続される曲構成、などがそれである。
 R.E.M.の音には不思議なところがあると長年思い続けている。彼らのアルバムはどれもそうなのだけど、一聴して気に入るというよりも、何となくレコードに手が伸び続けているうちに、ある時完全にそれに魅了されていることに気づき、その後は依存するかのように聴き続けてしまい、しかも何十年経っても飽きることがなく、むしろ聴くたびに新鮮ささえ覚える、というものだ。それはほとんど魔術的ですらある。この辺りの魔術はビートルズのそれにも匹敵するのではないか。
 最後に私の好きなエピソードをひとつ。R.E.M.はメンバーが1人でも抜けたらその時点で解散する、とかねてから公言していたのだが、1997年にドラムのビル・ベリーが自らの脱退をバンドに伝えた。しかしそれには条件があり、それはもし自分の脱退によってバンドが解散するのであれば、脱退は撤回するというものだった。
 彼らのように「誠実」という形容がふさわしいロック・バンドもそうは無いだろう。R.E.M.と同時代に歳を重ねてきたことを幸福に思う。 
                              

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                              EPOCALC

R.E.M.は数ある80年代のバンドの中でも最も異質であるように思う。
同年代のどのバンドの音楽にも似ていない上に今の耳で聴くと、やっていることや音像などもろもろがレディオヘッド等の90年代後期オルタナ系のそれのように感じるのだ。時代を先取りした、というのは手垢でベットベトになっている評かもしれないが、70年代のC.C.R.と並び、90年代の音楽に多大な影響を与えたのは確実であろう。
今作「Chronic Town」はそんなR.E.M.の音が初めて世に出た記念碑的EPである。

一作目というと、名作が多めであると同時に焦点が定まっていない感じを受けることも多いがもうR.E.M.はこの時点で完全にR.E.M.R.E.M.している。流石。
ただまだ「ジャンル不定」感はあまりなく、また若さゆえか元気いっぱいで
それ故彼らがどんな音楽を志向していたのかがよく分かる。

実はあまりR.E.M.を聴いていなかったので大丈夫かな...と思っていたのだが、
一曲目のイントロを聞いて安心。高校時代に買ったベストに入っていた。
また、他曲もそのベストに入っていたものばかりなのでちょっとしたノスタルジーも感じつつ聴く。

さて色々聴いた今もう一回聴いてみるとなるほどあなたたちギターポップとだったのか...となる。
しかし、ギターポップにしては攻撃的かつ前衛的であり、ジャンル割り切れない面白さも内包している。
それがR.E.M.がR.E.M.たる所以なのであろう。

だが、あえてジャンル分けするならこれは何に近いだろうか...
延々と続くきらびやかなアルペジオ、凝ったメロディーライン。
ハタと気が付いた。これはエモロックではないか!?!?!?

さきも述べた通り、皆もよく知るR.E.M.はレディヘ感があるのだが、
その前の段階では彼らはエモロック的な音像を鳴らしていたのである!!!
90年代ロックは所詮R.E.Mの掌の上っ...!!!
...というのは言い過ぎだろうか。
これを聴いた後だとそんなこともないように思えてしまうのは僕だけだろうか。

                       
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                               JMX

R.E.M.で一番好きなアルバムは1stの『Murmur』。なんて公言しておきながら、実はまだまともに聴いたことが無かった、その1stの直前に発表されたデビューEPが、本作『Chronic Town』です。なので個人的には結構楽しみに聴かせていただきました。これ内容的には英語版のWikipediaが端的に説明してくれていて、初期R.E.M.らしさが既に出そろっているEPなんですね。曰く、きらびやかなギター、アルペジオのコードプレイ、呻くようなボーカル、そして抽象的な歌詞。 真似できそうで真似するのは至難の技というようなシンプルだけどもの凄く個性的なバンドサウンドがこの時点であらわれています。なので内容的には『Murmur』と地続きで、曲目をシャッフルしてもあまり違和感ないでしょうね。ただ楽曲の強度はやはり『Murmur』の方が上で、『Chronic Town』で比較的自由な創作活動ができたからこそ『Murmur』が名盤になったんだろうなと思います。

1. "Wolves, Lower"
『Murmur』でいったら”Catapult”の下敷きになっていそうな曲。

2. "Gardening at Night"
キラキラしたギターが美しい曲。マイケル・スタイプのうたい方も恍惚としたようなささやくようなうたい方になっています。この曲を整理すると『Murmur』のLaughingのような曲になるのかなと。

3. "Carnival of Sorts (Box Cars)"
しっかりとしたギターのコードリフが推進力になっている曲。この曲に見られる急性さなんかはパンクの影響をやっぱり受けているなとおもうんですけど、どことなく牧歌的なのがR.E.M.の個性だと思いますね。邦楽でいったらブルーハーツに影響を受けつつも同じことはできなかった(しなかった)初期スピッツを想起させます。この路線をもうちょっと洗練させたのが『Murmur』の”Moral Kiosk”あたりかと。

4. "1,000,000"
サビが「俺は100万年いきるかもしれない」とくり返す変な曲。この曲もパンク、ニューウェーブの影響を感じます。特にドラミング。「呻くような」と冒頭でそのボーカルスタイルを形容しましたけど、これなんかまさにその典型ですよね。日本人にとってはお経的にも聞こえます。

5. "Stumble"
これも『Murmur』の”Shaking Through”や、サビなんかは本作以前に発表された大名曲”Radio Free Europe”を想起しますね。

まとめ
ということで『Chronic Town』、『Murmur』の前哨戦というような見方で論じてみました。かなり偏ったとらえ方ではありますが、初期R.E.M.の要素がすべて出そろっている、という意味では彼らのディスコグラフィー上でもかなり重要な作品であることは確かだと思います。『Murmur』もそうですが、結構渋い味わいですので、入門編には適さないがファンは避けて通れない一枚かと思います。
                
              
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