2日目_深夜_しぜんこうえん【18歳以上の方向け🔞】
――いこいの ひろば
しぜん こうえん――
深夜一時半を回った頃。
人気のない公園の南側にあるベンチに座って、アヴュールはモンジャラと一緒に夜風に当たっていた。
「ねぇ、モンジャラ。明日には、帰らなくっちゃだね‥‥‥」
「もじゃぁ‥‥‥」
アヴュールとモンジャラの前では、鮮やかなピンク色の花たちが、夜の暗がりの中で時折りそよそよと揺れていた。彼女たちの座っているベンチは公園の角にあるベンチで、街灯の明かりはあまりやってこない。
秋の夜長が、刻一刻と過ぎていく。
「ねぇ。もうちょっとだけいよう‥‥‥」
「もじゃぁ‥‥‥」
アヴェールのはいているハイソックスでは隠しきれない慎ましやかな太ももの上で、モンジャラは穏やかに返事をする。
「‥‥‥あっ、ちょっと。モンジャラ、くすぐったいよぉ」
「もじゃっ! もじゃぁー」
モンジャラがアヴェールを振り向き、申し訳なさそうに鳴く。
「ふふ、大丈夫」
そう言って微笑むアヴェールの顔を見て、モンジャラは再び花壇の方へと顔を向ける。
「‥‥‥んっ」
モンジャラの頭をなでながら、アヴェールはモンジャラが気にしないように抑えつつ、くすぐったさで小さく声を漏らした。
モンジャラの全身をおおうブルーのツルには、細かな毛が生えている。だから、ツルに触れると少しくすぐったいのである。
アヴェールはもう何年もモンジャラと一緒にいるため、ある程度は慣れていたが、それでもやっぱり裸の太ももにモンジャラを乗せていると、ちょっぴりくすぐったさに身をよじりたくなることもあるのだ。
「ねぇ、モンジャラ。ずっと、こうしてたいね‥‥‥」
「‥‥‥もじゃぁ」
「でもさ。私ももうそろそろ、彼氏とか、できてもいい歳だよね」
「‥‥‥‥‥‥もじゃぁ‥‥‥」
「私に彼氏ができたら、こうやってモンジャラと二人っきりで過ごす時間も、きっと減っちゃうね‥‥‥」
「‥‥‥」
「もしかしたら、こうやって二人だけで旅行に来るのも、これが最後かもしれない‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥もじゃ‥‥‥」
静かな沈黙が流れる。遠くで微かに虫ポケモンの鳴き声がしたような、しないような。心地よく体をなでていく風が運ぶ、夜空の雲のような、ゆっくりとした時間がながれてゆくようだった。
「‥‥‥ふふ、ふ」
「‥‥‥」
「ふふふ。ねぇ、モンジャラ。嫉妬した?」
「‥‥‥もじゃぁ」
弱々しく鳴くモンジャラの後頭部に、アヴュールはイタズラっぽい笑みを向ける。
「さみしくなっちゃった? ごめんね、モンジャラ。冗談だよ。もうしばらく、彼氏はいらないかなぁ。私には、モンジャラがいるし」
「‥‥‥もじゃぁ」
遠慮がちなモンジャラの鳴き声に、アヴュールは微笑む。
「大丈夫だよ。私がモテるの知ってるでしょー。でも、みんな顔でよってくるような男ばっかで、いい人なんてそうそういないからさ。ゆっくり探すの‥‥‥」
「もじゃぁ‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥私。顔以外。魅力、ないのかなぁ‥‥‥」
さびしそうに小さく呟いたアヴュールを、モンジャラはパッと振り向いた。
「もじゃっ!」
「‥‥‥ふふ」
目を丸くしたアヴュールの唇から、笑い声が零れる。
「ありがとう。大丈夫。‥‥‥でもさ、なかなか言えないじゃん。こんなこと。自慢っぽくてさ。嫌味みたいで。そりゃ、かわいいって言われてうれしくないわけないけど、みんな見た目ばっかり褒めるんだもん。ちょっと。ちょっとだけ、悲しくなるよね‥‥‥」
「‥‥‥」
「メイクだってしてるし。そりゃぁお洒落も多少は気を使ってるし。‥‥‥でも、だから。わがまま言うとさぁ。そういう見た目だけ褒められても、ちょっと、さみしいよね‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥!」
「?」
突然、アヴュールの膝からモンジャラが飛び降りる。驚くアヴュールから少し離れたモンジャラは、舗装された公園の地面の上で彼女の方を向き直り、体をおおうツタを伸ばして激しく揺すった。全身をおおうツタをアピールするように、モンジャラはツタを伸ばして揺すって鳴いた。
「‥‥‥ふっ、ふふっ。それ、着飾ってるの。モンジャラ、そのツタ、着飾ってるの。ふふ、ふふふふふ。それじゃあ私とおそろいだね」
「もじゃ~」
「ふふふ。モンジャラとおそろいかぁー。それならうれしいかなぁ」
「もじゃぁ~。もじゃー!」
可笑しそうに笑うアヴェールの笑顔を見て、モンジャラはうれしそうに鳴いた。ツタの間からのぞくモンジャラの目も、笑っている。
「はぁー、おかしい。‥‥‥モンジャラのそういうところ。優しいところ。モンジャラの中身が、私、大好き」
「もじゃぁ~。もじゃー、もじゃー」
「ありがとう。‥‥‥さぁ、おいで」
「もじゃぁ~」
アヴュールはベンチに座ったまま身を乗り出し、両手を出す。そこへモンジャラがちょこちょこと駆けてくる。
「よいしょ」
再び膝の上に乗ったモンジャラは、また静かにアヴェールと花壇を眺める。
「‥‥‥ありがとね、モンジャラ」
「‥‥‥」
風が二人をなでる。アヴェールがモンジャラをなでる。時が、そこかしこをなでて進んでゆく――。
「んっ‥‥‥」
「もじゃ」
微かに体を動かしたモンジャラのツタが、そこに生える細かな毛が、艶やかな太ももにこすれてアヴェールが声を漏らした。
「‥‥‥ねぇ、モンジャラ」
「‥‥‥もじゃ?」
「さっき、彼氏はまだいらない、って言ったけどさ‥‥‥」
「‥‥‥もじゃ」
「私も年ごろの女の子だし。ちょっと、さみしくなる日もあるんだよ‥‥‥」
「‥‥‥」
「いろんなところが‥‥‥」
「‥‥‥」
モンジャラは、空に視線を向けた。そこにあった月は欠けていたが、モンジャラの頭の中には、まんまるのお月さまが浮かんだ。
「ねぇ、モンジャラ。もうちょっとだけ、夜更かししよっか」
「‥‥‥」
アヴュールの手が、優しくモンジャラのまぁるい体をなでる。
「んっ‥‥‥」
その手はわざと、くすぐったさを楽しむような力加減で、モンジャラのツルを優しくなでる。
優しく頭の上に乗せられた左手と、ゆっくり体をなでながらまんまるいモンジャラの体をなぞっていく右手。
「はぁっ‥‥‥」
アヴェールの熱い吐息が漏れる。
優しい右手が、ゆっくりとモンジャラの下の方へ、うつっていく。
「‥‥‥もじゃっ!」
小さくモンジャラが鳴いた時、アヴェールの細くて白い右手は、モンジャラの足と足の間に入っていった。絡まるツタの奥の方に、中の方に。
「ふふ。ねぇ、ここ。なんか、すごいことになってるよ?」
「もじゃっ」
モンジャラのツタが、腕のように一本すーっと伸びていき、アヴュールの腕を遠ざけるように押す。
でも、そのツタに、腕を遠ざけるほどの力は伝わっていない。
アヴュールの手が、指が、モンジャラのツタの中で、ゆっくりと動く。
「‥‥‥嫌?」
「‥‥‥もじゃ」
「嫌だったら、逃げてもいいんだよ? 私のこの手。左手。モンジャラの上に乗ってるけど、そんなに強く捕まえてないでしょ? こーやってー‥‥‥んっ、なでてるだけだよ? ‥‥‥はぁーっ」
「‥‥‥もじゃっ」
モンジャラのツタが、弱々しくアヴュールの腕を押す。
「嫌? 嫌だけど、力入らないくて、逃げられないの? だったら、大きな声出していいんだよ? さっき、おまわりさん警備してたよね? ポケモンバトル挑まれそうになったでしょ? あのおまわりさん、大きな声出したら、気づいてくれるかも。ねぇ。そしたら私、どうなっちゃうんだろうね? どんな目で見られちゃうんだろう‥‥‥」
アヴュールが不安そうな声で言う。
「もじゃ‥‥‥」
「それは嫌? 私が、白い目で見られたり、怒られたりするのは、嫌?」
「‥‥‥もじゃ」
「モンジャラ、優しいもんね‥‥‥」
「‥‥‥」
不意にアヴュールの手が止まる。
「でも、ほんとに嫌なんだったら、私も嫌だなぁ‥‥‥」
「もじゃ‥‥‥」
「嫌がってるのに、大好きなモンジャラに、嫌がってることはしたくないかなぁ‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥もじゃっ!」
また、アヴュールの手が優しくいじわるに動き出す。
「嫌じゃ、ない‥‥‥?」
「‥‥‥も‥‥‥じゃぁ‥‥‥」
「そうだよね? だって、モンジャラ。いつもこーゆーことしても、逃げないもんねぇ。途中でやめても、逃げないし。本気出せば、私のこと、そのツタで抑えつけたりだってできるはずなのに、しないもんね? そーゆーこと」
「‥‥‥もじゃっ」
モンジャラのツタが、滑るようにアヴュールの腕に力を伝える。弱い、弱い、力を‥‥‥。
「嫌じゃないけど、ダメ?」
「‥‥‥」
「人間とポケモンが、私とモンジャラが、こんなことしちゃダメ? いけないことだから、ダメ? ‥‥‥でも、嫌じゃない? ダメだけど、嫌じゃないの?」
「‥‥‥もじゃ‥‥‥」
「ふふ‥‥‥」
アヴュールの手が、モンジャラのツタの中で、ゆっくりと、ゆっくりと動く。
「‥‥‥ぁっ」
くすぐったさに吐息を漏らす。
アヴュールはモンジャラを抱きかかえるように前かがみになって、ツタの間から目だけが見えるその顔をのぞき込む。
「‥‥‥あぁ、かわいい。その顔好き」
「もじゃっ‥‥‥」
「ダメ。目見て? あぁ、かわいい。ねぇ、モンジャラ。かわいい。好き」
「もじゃぁぁ‥‥‥」
「あぁ、モンジャラ。‥‥‥んっ。くすぐったいよ。‥‥‥はぁっ。あぁ、好き。モンジャラ、好きだよ?」
「もぉ‥‥‥じゃぁ‥‥‥」
「ダメ? ダメ? これダメ? 目見られるの、ダメだもんね?」
「‥‥‥っ、じゃっ‥‥‥」
モンジャラのツルがアヴュールの手に巻きつき、きゅっとしめる。
「はぁ‥‥‥、すごい。モンジャラ、すごいよ? あぁ、もうダメ? これダメ? あぁ、かわいい。モンジャラ。かわいい」
「‥‥‥っ、っ」
モンジャラの奥がきゅんとして、もうその先にいってしまいそうになったその瞬間、アヴュールの手は突然止まった。
「‥‥‥」
「ねぇ、モンジャラ。私、もう我慢できない‥‥‥」
そう言いながらも、モンジャラに押しつけられていたアヴュールの体は離れ、その顔はモンジャラの視界から消えた。
「あぁ、手洗わなくっちゃ。こんなんじゃ、このままホテルまで帰れないよ‥‥‥」
モンジャラの後ろから「ちゅぱっ‥‥‥」とひかえめな音が聞こえる。
「じゅっ、じゅるっ」と小さな音がして、吐息を最後にまた静かになる。
「‥‥‥」
アヴュールは地元の地方で流行りの電子端末を取り出し、時間を確認する。
「ねぇ。チェックアウトの時間、十時だったよね? 今から戻っても、十分七時間はあるよ?」
「‥‥‥もじゃ」
「ねぇ、モンジャラ――」
アヴュールの唇がモンジャラによせられる。
「――早く戻ろ」