3日目_夜_41ばんすいどう?
――ここは アサギ みなと
こうそくせん のりば――
「‥‥‥」
決して広くはない格安の客室で、ベッドに腰を下ろし、アヴュールは静かに壁の方へ視線を落としていた。
しばらく前に“アサギみなと”を出発したこの船は、今頃“うずまきじま”と“コガネシティ”の間を南下している頃合いだろうか。膝の上にモンジャラを乗せたアヴュールは、窓のない壁の先に真っ暗な海を望むように座っていた。
「もうしばらくしたら、ジョウトともお別れだね」
「もじゃぁ‥‥‥」
細長い部屋の中を、しみじみとした空気が満たしている。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
モンジャラもアヴュールも、喋らなかった。
特に何か、理由があるわけではなかったけれど。ただ、なんとなく、二人は黙っていた。
旅の余韻にひたるように、旅の終わりの寂しさにひたるように。ただ、二人は静かに前を向いて座っていた。
「‥‥‥ねえ、モンジャラ。楽しかった?」
「もじゃー!」
「ふふ。よかった‥‥‥」
うれしそうに微笑んだアヴュールを、膝の上でモンジャラが振り返る。
「もじゃー?」
「うん。私も楽しかった」
「もじゃ~!」
二人はなにげない言葉をかわして、なにげない幸せをかさねて、なにげなく微笑み合った。
「‥‥‥お風呂、行こっか」
「もじゃー!」
アヴュールに優しく頭をぽんとされたモンジャラは、膝の上からぴょんと飛び降りる。
「帰りもオーシャンビューらしいよ? あっ! コガネの夜景、見れるかな?」
「もじゃー」
お風呂セットを準備するアヴュールの手が急ぎ出す。
「せっかくだし、見たいよね。急がなきゃ‥‥‥」
「もじゃー」
焦るアヴュールをなだめるように、モンジャラが優しく鳴いた。
「うん、大丈夫。行こう」
「もじゃー!」
アヴュールとモンジャラは客室を出て、大浴場へと向かった。
残りわずかなジョウト旅行を、まだまだ楽しむために。
――人とポケモンが二人、旅してる。
――船の窓から星が見える‥‥‥。
THE END