第1話「シンオウ地方で目覚める、新たなトレーナー達」
――寒い……――
冷えた体をちぢこめて、アカリは目を覚ました。
「……へっ?」
寝そべっていたアカリは小さく声を漏らし、体を起こす。
手に触れたのはいつものベッドの感触、ではなくふかふかな土の感触。目に映るのは見慣れた部屋の風景、ではなく広大な湖の風景。
そもそも、思い返してみればアカリが眠りについたのは自宅、ではなく仕事帰りの電車内だったはずで。
「……なんなの……?」
アカリは頭がまっしろになった!
◆
西暦二〇二一年一一月一九日、金曜日。
この日は、およそ十五年前に発売した『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』のリメイク作品『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』の発売日だった。
――ポケットモンスター、略して“ポケモン”。
たくさんの謎を秘めた不思議な生き物。人間と仲良く暮らすものもいれば、海辺や洞窟、草むらなど、さまざまな場所に生息する野生のポケモンもいる。
そんなポケモンを捕まえて、育てて、戦って……。
それが『ポケットモンスター』というゲームである。
ダイヤモンド・パールの発売当時、小学三年生だったあかりは、クリスマスにサンタさんから初めてのゲームを貰い、念願だったポケモンとの冒険に出発した。
それからずっと。いや、それ以前からずっと。あかりはポケモンと共に人生を歩んできた。
十五年の時を経てリメイクされた思い出のゲームは、賛否両論を巻き起こしネット上などで大いに荒れもしたが、あかりはそのリメイクを純粋に楽しみにしていた。
なのに……。
「あかりちゃん、ごめん。ちょっと残れる?」
その一言から始まった残業は、あっという間にあかりが指定していた荷物の配達希望時間帯を過ぎてしまい、発売日当日にゲームを受け取れなくなってしまった。
――ごめんなさい、配達員さん……――
そんな罪悪感と、楽しみにしていたゲームを明日まで始められない悲しさを胸に、とぼとぼと帰路につくあかり。
そして、新型コロナウイルス感染症蔓延防止のため、窓開けによる換気が行われていて肌寒い電車内で、日々の疲れからついうたた寝してしまったことは思い出せた。
でも、それがなぜ、寒空の下で寝ていたのか。来たこともない湖にいるのか、まったくわからない。
アカリは辺りを見回す。何がなんだかさっぱりわからないけれど、それでもだんだんと、今の状況と周囲の景色がアカリの頭に入ってくる。
――待って、ここ……――
初めて来た場所のはずなのに、アカリはなぜかこの場所に懐かしさを覚えていた。それだけじゃない。どこか、見覚えのある景色な気がした。
――待って……。嘘でしょ。そんな……――
そう思ってふと、草むらの先に視線を落としたアカリの目が大きく見開かれる。
「タマゴ……?」
若草色の水玉模様の白っぽいタマゴ。見覚えのある、何度も見て来た、初めて見るタマゴ。
「待って……。嘘でしょ……」
アカリは思わずそうつぶやいて、ゆっくりとそのタマゴに向かって歩き出した。草むらの中を、歩き出した。
「むっくっくっくっくっくるーっ!」
「わっ!」
突然のけたたましい音にアカリは声を上げる。
ナニカが草むらの中から飛び出して来た。
「嘘でしょ……」
それは、アカリがよく知っているもの。
「むっくっくっくっくっくるーっ!」
むくどりポケモン、ムックルだった――。