第3話「特訓!マサゴタウンから二〇一番道路へ!」
「カレー! ひっかく!」
「ひいーぃ!」
アカリの指示に答え、ヒコザルが目の前のムックルを“ひっかく”!
“カレー”というのはアカリがヒコザルにつけたニックネームである。
その昔、小学三年生だったアカリがヒコザルにつけたのと同じニックネームで、ヒコザルのお尻の炎と配色から、楽しかったキャンプファイヤーと今までで一番美味しかったカレーのことを思い出してつけた、思い出あふれるニックネームだった。
――が、そんな思い出にひたっている場合ではなかった。
「むっくっくっくっくっくるーっ!」
ムックルの“たいあたり”!
「ひいーぃ!」
カレーはたおれた!
「カレー!」
もう何度目だろうか。アカリは慣れた動きで素早くヒコザルを抱き上げると、急いでマサゴタウンのポケモンセンターまで走った。
●
昨晩。シンジ湖を出たアカリはがむしゃらに二〇一番道路を走って、やっとのことで辿り着いたマサゴタウンのポケモンセンターに助けを求めた。
幸いヒコザルのダメージは大したことなく、取り乱していたアカリを見たポケモンセンターのお姉さんが休む場所を提供してくれたので、落ち着いて一晩をすごすことができた。
「こんにち……。また貴方ですか?」
「……すいません」
アカリは気まずくて、伏し目がちにそういうとヒコザルを預けた。
「頑張ることは大事ですが、あまりポケモンに無理をさせないでくださいね」
「はい……」
少し困ったような心配そうな表情でそういうお姉さんの顔を、アカリはまともに見られなかった。
「トレーナーさんも、大変ですよね」
「へ?」
「ポケモンバトルに勝てなくても、それはポケモンが悪いわけでも、トレーナーさんが悪いわけでもないですから。ゆっくり、ご自分たちのペースで強くなってください。私たちはポケモンの回復しかできませんが、二十四時間、いつでもここでお待ちしておりますから」
「……」
「応援しています」
「……ありがとうございます」
アカリはなんだか泣きそうな気持になって、ますますお姉さんの顔を見られなかった。
そして間もなくして、元気になったカレーが戻ってくると、アカリは足早にポケモンセンターを後にする。
「ねえ、カレー」
「ひいーぃ?」
「大丈夫? 無理してない?」
「ひいーぃ!」
元気な笑顔でそう答えるカレーに、アカリはなんとか笑顔を作って返した。
「そっか……」
目を覚ますとポケモンの世界にいたアカリは、一晩ゆっくり休んでいくらかは落ち着いたものの、どうしていいかわからず困り果てていた。
夢みたいな現実にまだ実感がわかないところがあって、そのお陰で逆にいくらかは落ち着いていられたが、それでも今後のことを考えると不安になってしまう。
そんなアカリの気持ちを察してか、カレーは朝からずっと、二〇一番道路でポケモンバトルをしたがっている。タマゴからかえったばかりなせいか、一回も勝てないのに、ポケモンセンターで回復するとすぐに二〇一番道路へ行きたがるのだ。
「ひいーぃ! ひいーぃ!」
カレーがアカリの手を引いて、また二〇一番道路へ行こうとする。
そんなカレーの姿が、アカリには自分を安心させるために強くなろうとしているように思えて、胸が痛んだ。
「ねえ、本当にまた行くの? 無理しなくていいんだよ? 少し、ゆっくりしない?」
「ひいーぃ……」
カレーが悲しそうにうつむいて鳴く。
「いや、ごめん。カレーがそんなに行きたいなら、私は何度でも付き合うよ?」
「ひいーぃ! ひいーぃ、ひいーぃ!」
カレーは嬉しそうに鳴くと、ぴょんぴょん飛び跳ねて走り出した。
「……ちょっと待って! カレー! もぉー……」
少し先で振り返り笑うカレーに、アカリはへたくそな作り笑いを向けることしかできなかった。