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オーストリアのスポーツクリニックで手術を受けた話


スキーリゾートのZillertalにあるスポーツクリニック

朝一で友人に運転してもらいスポーツクリニックへ向かった。受付を済ませると15分ほどで順番が回ってきた。スキーリゾートにあるスポーツクリニックだけあり、スキーで怪我をしたらしき人が数名待合室に待機していた。中には私と同じ膝のギブスをしている人もいて、なんだか親近感が湧いた。
MRI(ドイツ語圏ではなぜかMRTと呼ばれる)はダンサー時代に何度か経験済みなので、特に説明を受けることもなくすぐさまジーメンスの機械の中に入った。唯一違ったことと言えば、MRT中につけるヘッドフォンからBon JoviのLivin' on a Prayerが流れていたくらいだった。

MRTの機械に入ること約15分。無事に撮影が終了し、レントゲン技師の人に連れられて診察室へと案内された。

診断結果

診察室のベッドで待っていると、小太りの何だか信頼できそうなお医者さんがやってきて、まずは触診から始まった。同じような怪我を何度も見てきてるのであろうか、私の膝を触ってすぐに、「前十字靭帯がやられてると思う、でも一緒に画像で確認しよう」と言ってくれた。
MRTの画像を見ると、素人の私が見てもわかるほど綺麗に全十字靭帯が断裂していた。ここで二つのオプションを告げられる。

・手術を受けて、断裂した部分を結合する
・手術はせずフィジオで様子を見る

ただ、一度切れた靭帯が自然に修復されることは無く、手術をしない場合は膝のぐらつき、不安感が残る可能性が高いと言われた。また今の年齢と比較的アクティブな性格からも考えて、手術を勧められた。私はもちろん医者が手術をして症例を集めたいのはわかっていたが、それでも今まで経験したことのない膝のグラグラ感、そしてこのクリニックは特に私のような怪我の人を多く見てきているのもあり、この病院で手術を受けることを決めた。きっとミュンヘンに戻ってからだと、公共の保険を持っている私にとってMRTの予約から手術までが果てしない道に思えた。
最後にご飯を食べた時間を聞かれ、Chef Arzt に今日手術できるか連絡を取って聞いてくれた。うまくいけば今日の午後14時にオペが開始できるらしい。(この時点で午前10時ほど)

あれよあれよと手術の準備が始まった。血液検査のために血を抜かれ、そしてその穴をそのまま麻酔用に確保された。看護師さんは手際がよく、一発で全て終わった。

手術の同意書を書いて、待合室にいる旦那さんに今日手術することを伝えた。

前十字靭帯再建手術

靭帯の切れ方によって二つの方法があると説明された。一つ目は切れた靭帯をそのまま元にくっつける手術。この場合は膝の下に穴を開けてカメラで確認しながら行われ、所要時間は約30分。二つ目は、靭帯が真ん中あたりで切れている場合。この場合は脛の辺りから自分の腱を持ってきて靭帯に縫い付けるというものだった。この場合は膝の傷に加えて、膝下に3センチほどメスを入れると言われた。画像から見るに私の断裂の仕方は後者の処置になる可能性が高いと言われた。もし半月板にも損傷があれば同時に処置してくれるとのことだった。後者の処置は約1時間と言われた。私は数時間の手術を勝手に予想してたので思わず医者に

「そんなに早いんですか?大丈夫ですか?」

と尋ねた。医者曰く、適当にやってるから早いんじゃないよ、とのこと。このクリニックでは多い日には8〜10件も同じ手術をやっているらしい。

手術をすると決めたものの、まだどこか不安があった私は最後の背中を旦那さんに押してもらうことに決めた。

「手術受けた方がいいよね・・・?」

彼の待つところに帰るなり尋ねてみた。
バスケットボール好きの旦那さんは世界のバスケットボール選手の膝の怪我やリハビリ過程についてかなり詳しく、

「うん、NBA選手もみんな断裂の場合はACL手術してる!」

と不安を一切見せることなく私の背中を押してくれた。根拠のない自信が私にも湧き出てきて、手術を受けることを決心した。私とバスケットボール選手を一緒にしていいかは謎だが。笑

手術の時間までにとりあえず職場に連絡。休んでしまって迷惑をかけてしまうことが申し訳なかった。でも同僚や友人の温かい言葉に目が潤んだ。

いざ、手術へ

手術を待つ矢印がついた膝

同意書を書いてまもなく、看護師さんが私を呼びにきた。今日は一日泊まりになると思うということを告げられた。むしろ一日でいいのかと私はびっくりした。携帯の充電器も身の回りのものも全てあるらしく、何もいらないわよ〜と看護師さん。とりあえず旦那さんとハグだけして、エレベーターに乗り込み手術の控え室まで向かった。

控室のベッドまで松葉杖をつきながら歩いて向かうと、手術着を渡された。身につけていたジュエリーも外され、手術する足にペンで矢印を書かれ、後はひたすらベッドで充電器に繋がれた携帯の画面を見つめていた。Wi-Fiのパスワードも教えてくれ、今日の夜ご飯と朝ごはんの希望も聞かれた。
少しすると麻酔担当のお医者さんが挨拶に来てくれた。全身麻酔したことある?アレルギーは?でも心配ないわよ、すごく気持ちよく寝れるから安心して、と陽気な物言いのおばちゃんだった。
そろそろ手術に向かうとなり、コンタクトレンズを外してまた別の控え室に向かった。ここで本格的に手術の準備が始まった。担当してくれた看護師さんはみんな楽しげで優しい人だった。

手術するの左足だよね!とかという冗談も飛ばしてくる余裕たっぷりのオペ看で少し安心した。もちろん私はそんな冗談を理解できる余裕はなく、え!右です!と慌てて訂正をしてしまったが。

寒くないように毛布かけるわね〜と、あらかじめ機械で温められた毛布を体を覆うようにかけてくれた。そんなことをしているうちに手術室に運ばれた。コンタクトを外したのでぼんやりとしか見えなかったが、テレビで見たことのある光景が広がっていた。麻酔入れるね〜、いい夢見てね〜を最後に私の記憶はなく。

手術終わったわよ〜の声で一時間後に目を覚ました。
術後すぐはこれでもかというくらい眠く、早くみんなに連絡しなきゃと眠気との葛藤で携帯を持ったまま2度ほど寝落ちしていた。ようやく目もだいぶ覚めて、連絡もできた頃に看護師さんに

「何か甘いもの飲むわよ〜。コーラとショーレ何がいい?」

と聞かれた。私の大好物のヨハネスベーレ(アカフサスグリ) ショーレがあったのでそれを頼んだ。ジュースと共に、ナプキンのついた白い綺麗なお皿に入った何やら美味しそうなスープが出てきた。どうやらこれを飲み切ったら病棟に移動できて、旦那さんとも面会できるらしい。朝から何も食べてなかったからか、あたたかいスープが身にしみた。

術後の水分糖分補給

マウンテンビューの病棟へ移動

部屋からの景色と乗り心地のいい車椅子

無事に全て飲み終わり、病棟に移った。山の見える天井の高い素敵な病室だった。部屋の中にシャワーもトイレも完備で同室の人もいなかったので、テレビも音を出して見ることができた。旦那さんに母親に送る用の写真を撮ってもらい、無事を伝えた。少しすると夕食が運ばれて来た。ドイツのよくある病院食、パン一枚にサラミ一枚とはかけ離れた豪華なご飯が運ばれてきた。ケーゼシュペッツレというドイツ、オーストリアの郷土料理であるチーズのパスタになんだかおしゃれなサラダが来た。よくよく聞くと、ここの病院食は隣のホテルが用意しているらしい。普段食べているより豪華な夕食を食べ終えた後はベッドの上でひたすら携帯を見ていた。

病院での夕食

麻酔がまだ完全に抜けてないため、トイレに行く際はナースコールを呼ぶように言われた。病棟は今日は比較的空いていたらしく、至れり尽くせりで看護師さんがお世話をしてくれた。夕食後は痛み止めの点滴を2回ほどもらい、そこまで痛みはなかったのでとりあえず寝てみることにした。


つづく


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