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【短編】スコア・システム
とある街で、新しい試みがなされた。
それは「期待スコア・システム」と呼ばれた。大変意義深い試みということで、各省庁からもシステム導入が強く推奨された。
システムはいたってシンプル。
その街で暮らす人々、個々人に「スコア」と呼ばれる数字が換算されるというものだ。スコアは常に変動する。人助けをしたり、何かしらの業績を挙げたりすると、その人に対する期待が高まり、スコアは上昇する。
逆に他人をむやみに困らせたり、いつまでも業績を挙げられないと、期待されなくなり、スコアが減少する。
そのひと個人に寄せられる期待をスコア化することで、経済活動を活性化させることが目的だった。
システム導入時には、有名、無名の格差をなくすため、各人のスコアはゼロに設定されていた。
導入から数か月後の現在では、多くの人がスコアを昇させようと奮闘している。
ここで、ある一人の男性を見てみよう。
会社員の彼の視線は、手持ちのスマホの画面に注がれている。
スコアは「15点」。
その傍には、現在トップの人間のスコアが表示されている。
そのスコアは「80点」。
男性は冷や汗をかきながらぼやいた。
「くそ、全然スコアが上がらない。俺はこんなに頑張ってるのに。このシステムが始まってからは心を入れ替えて、真面目に頑張ってるていうのに。隣の席のあいつ、なんで俺よりスコアが高いんだよ。俺はあいつに何も期待してないのに」
次に、とある女性を見てみよう。
彼女は書店のパートだ。
彼女のスマホには「80点」と表示されている。
彼女は額に手をあててため息をついた。
「もっと、もっと頑張らないと。嫌々だけど、他のひとよりもたくさん仕事をするようにした。でも、もっと頑張らないと、一番じゃなくなってしまう。2位の人は78点だ。抜かされるなんて嫌よ。きっと、私のことを嫌ってるあの人を味方につければ、きっと一位を独走できるわ」
最後に、とある青年を見てみよう。
彼は教育学部の大学生だ。
彼は特に生活を変えなかった。昼間は大学で授業を受けて、夕方に塾のバイトへ出かける。
青年のスマホに現在のスコアを知らせる通知が来て、画面には「40点」と映っていた。青年は電源を切って、目の前の女子学生に集中した。
「先生、先生はスコアが気にならないの?」
青年は小さく微笑んだ。
「気にならないかな」
「どうして?」
「他人からの期待なんて、あてにならないからだよ」
【次】本のなる木 ( 5/5 Tue 6:00)
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こんばんは、門野です!
今回の見出し画像は、『ia19200102』さんのイラストを使用させていただきました!
ありがとうございます!