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【超短編】 芽を摘む


ボクはとても小さな花の種。

先日、ふかふかの花壇に植えられて、育て主が水をくれたところ。

ボクはまだまだ小さいけれど、そのうち大きくなって、綺麗な花を咲かせるぞ!



芽が出て、膨らんで、ようやく自分の周りが見えるようになって、とても驚きました。

なんと、ボクの周りにも、たくさん芽が出ていたのです!

ねぇねぇ、キミたちはなんて名前の花を咲かせるの?

ボクと一緒だったら、お揃いだね!



ボクたちの芽はぐんぐん大きくなって、幹の側から葉っぱも生えてきました。

ちょこんと、ボクの葉っぱが、隣の幹の葉と重なります。

なんだか、周りと繋がれている気がして、ちょっと嬉しい!

ピカピカの日差しに、ボクたちの葉がキラキラ輝いています。



昨日からずっと、あいにくの雨。

最近、ボクたちの育て主を見てないけど、雨があるから、ボクたちはひとりで大きくなれます。

育て主さん、見ててね!

大きくなって、晴れたら綺麗な花を咲かせて、ビックリさせてあげるから!



雨が上がって、育て主の顔を久しぶりに見ました。

ごめんね、雨が降っている間に大きくなろうと思ったんだけど、期待通りには行かなかった。

でも、きっと大きくなるから!

ボクたちはみんなで、揃って大きくなるからね!

......。

アレ。

育て主さん、どうしてスコップを持ってるの?

どうして、小さなプランターを持ってるの?

どうして、ボクの周りの幹を見ているの?

......ちょっと、辞めて!

みんなを掘り起こさないで!

せっかくここまで大きくなったのに!

あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁ。





ボクは大きくなった。

ボクの期待通り、とても大きくなった。

綺麗な紫色の花も咲かせたよ。

でも、ボクの周りに、他の花はない。

茎のまま、根から丸ごと掘り起こされて、プランターでどこかに連れて行かれてしまった。

ほら、育て主さん、見て。

ボク、こんなに大きくなったよ。

ひとりぼっちで、大きくなったよ。

きっと、ボクが育つために、必要なことだったんだよね。

でも、でもね。

ひとりぼっちは、寂しいな。



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見出し画像には、『ras』様の写真をお借りしました。

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