水素を対象としたオープンソースのエネルギーシステムモデルを用いた経済評価

最新の研究を紹介します。この記事では、2024年に発表された「Open Energy System Modelling for Low-Emission Hydrogen Roadmap Planning: The Case of Colombia」という研究に焦点を当て、業界トレンドを捉えつつ、今後のエネルギー政策を追っていきます。

水素経済の可能性と現状

気候変動の深刻化に伴い、世界各国でカーボンニュートラルを目指したエネルギーシステムの変革が進んでいます。その中でも、水素はエネルギーキャリアとしての役割が注目されており、電力、輸送、産業、家庭など多岐にわたる分野での活用が期待されています。特に再生可能エネルギーの普及に伴い、低コストでの水素生産が可能になりつつあります。

この研究では、コロンビアをケーススタディとして、エネルギーシステムモデリングを活用した低排出水素ロードマップの策定が行われました。研究者は、OSeMOSYSというオープンソースのエネルギーモデリングフレームワークを使用して、2021年から2050年までの水素供給と需要のチェーンを詳細にモデル化し、さまざまなシナリオを分析しました。

既存の研究とギャップ

従来の研究では、水素供給チェーンの全体像を十分に捉えられておらず、産業、輸送、電力といった異なる分野の相互作用が限定的にしか考慮されていませんでした。多くの研究では、セクター別に電力や熱需要に焦点を当てるものの、バイオマスガス化や二酸化炭素回収・貯留（CCUS）、水素のガスネットワークへの混合といった重要な技術が考慮されていないケースが目立ちます。また、既存のエネルギーモデルの多くは非オープンソースであり、再現性や透明性に欠ける点も問題視されています。

研究の新規性と貢献

この研究は、コロンビアのエネルギーシステム全体を対象に、水素の供給と需要を包括的にモデル化した初めてのエネルギーシステム最適化モデルを提案しています。さらに、この研究で提案された水素ロードマップは、費用、排出量、社会経済的な影響を包括的に定量化した透明性の高い分析に基づいており、学術界、産業界、政府間の対話を促進することが期待されます。また、このモデルは、他の発展途上国でも再現可能であり、低排出水素のロードマップ策定において貴重なツールとなるでしょう。

シナリオ分析の結果と政策提言

研究では、2021年から2050年までの10のシナリオを分析し、水素経済がエネルギーシステムに与える影響を評価しています。例えば、水素需要は2050年までに現在の約9倍に増加し、特に産業部門や輸送部門における化石燃料の代替として期待されています。さらに、GHG（温室効果ガス）の排出削減やエネルギー輸入の削減、社会経済的な利益も示されており、政策立案者にとって貴重な定量的洞察を提供します。

この研究は、現行のコロンビア水素ロードマップの野心的な目標を更新し、さらなる再生可能エネルギーの導入と技術革新を促進することを提言しています。また、シナリオ分析に基づき、エネルギー政策の立案において多様な技術オプションを考慮することの重要性を強調しています​。

研究の限界と今後の課題

本研究は、エネルギーシステムの詳細なモデル化に成功しているものの、いくつかの限界もあります。例えば、バイオマスガス化やCCUS技術の普及シナリオにおける不確実性が残されています。さらに、エネルギー需要の予測や技術の学習曲線に関する詳細なデータが不足しているため、今後の研究ではこれらの点を補完する必要があります。

結論

この研究は、低排出水素経済の実現に向けた具体的なロードマップを提示するとともに、エネルギー政策の立案において重要な洞察を提供しています。特に、オープンソースのモデリング手法を活用することで、他の国々における水素経済の可能性を広げるとともに、持続可能なエネルギーシステムの構築に貢献することが期待されます。今後も、研究者、産業界、政策立案者が連携し、より洗練されたエネルギーモデルを開発し続けることが求められるでしょう。

Plazas-Niño, F.A., Yeganyan, R., Cannone, C., Howells, M., Borba, B., & Quirós-Tortós, J. (2024). Open energy system modelling for low-emission hydrogen roadmap planning: The case of Colombia. Energy Strategy Reviews, 53, 101401. DOI: 10.1016/j.esr.2024.101401​