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コロナ”なんかより”健康イデオロギー”の増殖のほうがよほど怖ろしいんです

【画像:著作者:rawpixel.com 出典:Freepik】

第2回❐2023年3月16日記

 
 今回は,コロナウイルスそのものの話から始めてみることにしよう。

 コロナウイルスは数千種類に上り,豚,犬,猫などさまざまな動物に感染する。人に感染するのは7種類。四つは風邪を引き起こすウイルスで,残りが重症の肺炎を引き起こすSARS,中東呼吸器症候群(MERS)と今回の新型だ

(「The Asahi Shinbun GLOBE」 2020 September No.233 05面 瀬川茂子記者)

 遺伝子解析サービスを提供する㈱ジーンクエスト社長兼㈱ユーグレナ執行役員で,自身生命科学者でもある高橋祥子氏によれば

一般的にヒトと感染症との関係は,「ウイルスが増殖できずに消滅する」「人間が絶滅してしまう」「共存していく」「共存するけど隙あらば戦う」(帯状疱疹とかヘルペスの類)の4パターンある

(https://www.euglena.jp/times/archives/14783)

そうだが,コロナウイルスの場合は,「増殖できずに消滅する」というわけにはいかないようだ。

  新型コロナウイルスの一番の特徴は無症状率の高さだという。つまり,感染の自覚のない者が通常の社会生活を営むなかで,知らず知らずのうちに多くの人々に感染させている可能性が高く,その意味ではじつに厄介な相手ということになる。

 新型コロナの根絶はまず無理だろう。コロナウイルスは人に限らずさまざまな宿主の間を行き来し,RNAウイルスの中で最も大きなゲノム情報,つまり生き残るための複雑な仕組みを持っているからだ。新型コロナの毒性が今後高くなるか低くなるかはわからない。今では風邪の原因ウイルスの一つになっている別のコロナウイルス,OCウイルスは,牛に肺炎を起こすウシコロナウイルスが人に入り,19世紀末に日本を含む世界で大流行を起こしたと考えられている。100年ぐらいかけて普通の風邪になったのかも知れない。豚では逆に毒性が急に高まって養豚業の脅威になったコロナウイルスもいる。

(東京大学名誉教授・山内一也氏「The Asahi Shinbun GLOBE」 2020 September No.233 03面)


国立感染症研究所で分離された新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真像


従来型コロナウイルス電子顕微鏡像


 仮にコロナ禍がこの先下火になったとしても,いずれまた新しい感染症は出現するであろうし,新たに出現する感染症がたとえどのような形になるにせよ人間を脅かし続けるのだけは間違いない。
 
 ただ,そうであったとしても,人類は,誕生の時から「withウイルス」の時代を生き続けたわけで,とすれば,生命とウイルスの共進化はこれからもずっと続いていくのだから,「人間が絶滅してしまう」レベルのウイルスの出現は勘弁願うにしても,人間皆いつかは”お迎え”が来てしまうのだと鷹揚に構えつつ,必要以上にジタバタしないほうがよろしいのではないか,というのが筆者の言い分なのである。
 
 コロナも怖いだろうけれども,それ以上に”健康”(安全・安心)という謳い文句に踊らされて,「権力」に統治されている,管理されているという認識が抜け落ちてしまうことのほうが怖いのだ。

 山本七平氏が『「空気」の研究』で喝破したように,此の国の民は事あるごとに「空気」に汲々とし,忖度をし,なびき流されていくのが常であるが,コロナ禍に振り舞わされている間に,政府が進める公衆衛生対策をチェックすることもないままただ従順に受け容れ続けた結果,”健康”イデオロギーなるものがすっかり国民個々に浸潤してしまっている現実が,「コロナ」などよりもよほど怖ろしいということを強調したいのである。


 ”健康”ブームは今に始まったことではないが,近頃はあまりに異様な高揚ぶりである。
 テレビや雑誌,ネット上では,多種多様な健康グッズをはじめ,特定保健用食品(略称:トクホ,生理学的機能などに影響を与える成分を含む食品)や機能性表示食品(事業者が自らの責任で食品の安全性・機能性の科学的根拠を示した食品),睡眠改善薬等の宣伝広告が氾濫している。
 
 平均寿命の伸びが殊更話題化されるなかで,「とにかく長生きすること」だけを「生きる」最大の目的としながら,「生きるために生きるべく」ひたすら”健康”を追い求める人間たちは,そのようにして目前に提供される「資本」の”延命薬”に縋るばかりだ。



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