『MIZZ先生がイラストたっぷりで教える〈便秘〉からの脱出』の著者 MIZZ先生こと”みずかみよしのり”が 渋谷道玄坂百軒店伝説のロック喫茶『ブラックホーク』を語り尽くします
Episode6 伝説のロック喫茶『ブラックホーク』のレコード室
1960年代に隆盛を極めた“JAZZ喫茶”では(“名曲喫茶”なども同様ですが),その心臓部と言えるオーディオ機器の仕様にはどの店も力を入れており,覇を競う感が大いにありました。常連客もそれは至極当たり前のことと心得ていて,「新宿の△△には新型セットが入った」「渋谷の✕✕が改装してM社の新しいオーディオになった」といった類の情報には,敏感に反応していたものです。
どの店舗も造作からして通常の喫茶店とは異なり,一歩店内に足を踏み入れると,まずドーンとターンテーブルとアンプが目に飛び込んできて,奥には巨大スピーカーが鎮座するというのが大体のパターンとなっていました。
『ブラックホーク』も例にもれず,扉を開けて入店すると,すぐ右手にあった3.3㎡弱のガラス張りのレコード室より先に,GARARD401型の2台のターンテーブル(カートリッジはSHURE:型不明)とマランツセブンタイプの2台のプリアンプに視線が向いてしまいがちだったようです。
メインアンプは床置き型4台(もちろんマランツ)で,スピーカーはJBLの特注(型番は制作者にしかわからない)が4セットバランスよく天井に埋め込まれていました。
当然かなりの迫力音となるわけですが,そんな音響に抗って対話のボルテージが上がったりすれば,たちまちウェイトレスさんに「店内で大声での会話はご遠慮ください」なる御触書を目の前に突きつけられることになります。
この時代,何処のジャズ喫茶でも,一人で来店し,“我が世界”へと没入して“音”と向き合うという方が多かったため,たまに二,三人連れでつい駅前サテン気分で話をしようものなら「ウルセーゾ!ダマレ!」的な目線でにらまれるのがオチ。エスカレートすると「何イッテンダ!」と喧嘩騒ぎとなることもありました。
店内のそこここに名エアドラマー,名エアピアニストさんがいらっしゃったのも日常変わらぬ風景でしたね。
そんな彼らの最大の楽しみはリクエストができたことですね。
ある者はあまり出回らない希少盤(この当時から幻の名盤との言い方はありました)をあえてリクエストし,対応したレコード係が「イヤ~それは未入荷です」と言おうものなら,「あっ!そう!ないんですかア!」と鼻をヒクヒクさせながら喜悦顔で自席へと戻っていく。
また,「〇〇の□□をかけて」とリクエストできるということは,自分が店の常連であることを連れの友人や周囲のお客たちに誇示することでもあり,今で言うマウントを取る気分を味わうことにも繋がっていたのです。
一方で,店側も負けてはいません。お客さんのリクエストには常に臨戦態勢!!
「〇〇の□□ありますか」との問いかけあれば,“敵”が全文句を言い終わらないうち,後方のレコード棚を振り返り見ることなく,片手をすーっと伸ばして棚に指をはわせ,ササッーと「コレのA面 B面どちらにします?」とLP盤を“敵”の眼前に突き出すといった技芸を披露することを無上の楽しみとしていたものです。
『ブラックホーク』には,そんなスーパーテクを持つ名人が二人存在していました。
一人は,ジャズ,ロック,フォークとあらゆる分野に造詣の深かったレコード室担当の故松平維秋氏。
そしてもう一人が,この店の創業者オーナー〈MIZZ先生〉こと“みずかみよしのり”,かく言うこのわたくしであります。
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