隙間に落ちた話
京王相模原線という路線があります。
京王線の調布から分かれて、京王よみうりランド、京王多摩センターを抜けて神奈川県相模原市の橋本駅を結ぶ路線です。
この路線に京王稲田堤という駅があります。
JR南武線の稲田堤駅と連絡できる(離れてるけど)駅なんですが、この駅には思い出があります。
学生の頃、京王相模原線沿線に住んでいた私は、南武線沿線にあるボランティア活動の拠点まで行く際にこの駅を使っていました。
この駅、調布寄り半分ほどがカーブになっていて、ホームと車輌には大人の男性でもスッポリ落ちてしまうほどの隙間があります。
なので、他の駅の時とは比べ物にならないくらいの細心の注意を払って乗り込みます。
そのはずだったのに…
ある夜、ボランティアの打ち合わせを終えての帰り道。
いつものように京王稲田堤駅ホームで橋本行の電車を待っていました。
ホームに滑り込む京王の名車6000系(そこどうでもいい)が停車位置に停り扉が開きます。
すると、まさに私が乗ろうとした扉から、ケンカしながら降りてくる男性二人。
声も荒らげており非常に険悪なムード。
しかも後から降りた男はビニール傘を振り回しているではありませんか。
危ない…あれ?血出てない?何が原因?
車内から、ホーム上から、多くの視線がケンカの二人を捉えているのを感じました。
私もケンカの二人に視線を釘付けにしていました。しかし、電車に乗り込もうという身体の動きは止めませんでした。
その時です。
私一人を残して、周囲の人々が、取り巻く世界が、急に上昇したのです。
気付けば私はこうなっていました。
何ということでしょう…
私は隙間に落ちてしまったのです。
ケンカの二人に気を取られるあまり、いつも以上なほど警戒する足元の隙間から注意が完全に逸れてしまいました。
その上、ケンカが気になり身体がひねられたことで、隙間に対して斜めから平行の方向に足を踏み出す格好になったようです。
「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」でタカさんにボタン押されたのに、落ち切る前に引っかかって画面に残った状態の私に、今までケンカに向けられていた視線の6〜8割が向けられているのを感じる。
それにしても無傷。
痛みの数万倍の恥ずかしさを抱えながら、自力で脱出し、何事もなかったようにホーム後方へと後退。次にきた電車で帰りました。
乗るわけないじゃないですか。
乗られた車内の人も目のやり場に困るでしょ。
いきなり目の前から消えた男が這い出るように隙間から出てきて乗り込んできたら視線が怖いじゃないですか。
なのでみなさん、電車とホームの間に隙間のある駅には要注意ですよ!
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