カルチャー崩壊と再構築。 Goodpatchが取り組んだ組織デザインの2年間 - 前編
会社組織を運営していく上で企業文化の重要性は多くの経営者が理解している事かと思います。僕ももちろん起業前から企業文化が一番の差別化ポイントになると理解し、会社運営をしておりました。
創業期から毎日の朝礼、朝礼ではLTと英語でのカンバセーション、毎週月曜日のプロジェクトレビュー、オープンでフラットなコミュニケーション、グローバルコミュニケーション、チームでデザインする、デザインに対してのディスカッションなど、多くのカルチャー醸成のために多くの取り組みを行ってきました。
しかし、僕の経営するGoodpatchは約2年半ほど前に組織とこれらのカンパニーカルチャーがほぼ全て崩壊するという事態に陥りました。
この2年間は自分にとってGoodpatchの失われたカルチャーを取り戻し、再構築するために奮闘した期間でした。
組織の急成長フェーズに起こる事例だと思うので、起業家やこれから組織を作っていく人達に向けて、どのようなフェーズでどのような打ち手をやってきたのか書き記しておきたいと思います。
主に50人の壁、100人の壁にぶつかっているフェーズの組織の方が参考になるかと思います。特に100人という規模で組織が崩壊してからリカバリーしていくプロセスはなかなか表に出ないので面白い事例だと思います。
前後編で長くなるので軽めの小説だと思ってお読みください。
参考までに組織の人数の推移と組織施策と弊社がデザインを担当しているモチベーションクラウドのエンゲージメントスコアの推移を載せておきます。
モチベーションクラウドについてはこちらから
組織とカルチャーの崩壊
まず、今回の事を語る上で2016年の60〜100人のフェーズに起こった事を詳細は割愛しますが書き出したいと思います。
2016年60人〜100人の急成長フェーズに起こったこと
- 2016年の年初に行動指針の8way発表。後に浸透失敗。絵に描いた餅に。
- 元からいるメンバーと新しく入ってきたメンバーの対立
- 初めての評価制度導入で納得度が低くメンバーが大反発。大量離職
- 全社員共有のQiitaTeamに経営批判を含めた怪文書が複数回投稿される
- 100人になるまでやっていた毎日の朝礼と毎週のプロジェクト共有会の廃止
- CFOの退任。100人を超えた組織で同時に管理部メンバーがほぼ全員退職。
なんて治安の悪い会社なんでしょうか・・・
なぜこのような事が起こったのか
- 1年で50〜100人へ急激に成長する組織でマネジメントの成長と人材の成長が追いつかなかった
- エントリーマネジメントの問題
- 経営層とメンバー層の階層間の意思疎通ができていなかった
という点が上げられます。
このフェーズにいて今も残っている人たちは半分トラウマのようになってしまっている部分はあると思います。
上記の事が起こった結果、それまでGoodpatchに残っていたカルチャーはほぼ全て消え、Slackのチャンネルでは必要最低限のコミュニケーションしかせずに、generalには投稿できない(投稿したら刺されるような発言が飛んでくる)というような心理的安全性が全く無い組織になりました。
あの時、Goodpatchのカルチャーは一度死にました。
当時の行動指針の8wayには「偉大なプロダクトは偉大なチームから生まれる」という言葉を掲げていたのですが、あれほど大事にしていた良いチームを作ろうというカルチャーすら、誰も自信を持って言えなくなりました。
僕も当時の組織の混乱の中で苦肉の策として2016年末に3ヶ月掛けて全社員100人と面談をやりましたが、それでも根本解決にはなりませんでした。
この時の反省点は色々ありますが
- 経営層とマネージャー層の一体感と強い意思
- 組織を壊すような行動をするメンバーに毅然とした態度で臨む
- 社員との期待値の調整(組織制度、大手と同じレベルを要求されても対応できないなど)
という3点に集約されるなと思っていて、
もちろん全て自分の経営力の無さに起因するものでした。
この状況から2年間どのようにリカバリーをしていったのか
組織の側面と事業の側面から見ていきたいと思います。
人数の少ないユニットから心理的安全性を高めよう(2017年1月〜8月)
ユニット内での心理的安全性の確保
当時、社内の空気は本当に最悪でした。あんなに活発だったSlackはオープンなチャンネルでの投稿は激減し、プライベートチャンネルとDMでのやり取りが中心の組織になっていました。裏チャット的なものがあり、そこで会社の悪口が横行しているという噂も回っていました。昔は新しいサービスやニュースなどをみんながオープンなチャンネルに投げてコメントが盛り上がる文化だったのが、もう誰もオープンなチャンネルに投稿することはやめてしまいました。
当時はマネージャーも第一陣のマネージャーが全員降りて、ある程度30代で社会人経験を積んだマネージャーたちがユニットを持つようになっていたのですが、その切り替わりの時に組織が崩壊したのでマネージャーたちも自信を失っていました。
まず、僕はマネージャー達に会社全体で空気を良くしていくのはハードルが高いので自分のユニットの中だけでも心理的安全な状態になるように努力しようと話しました。マネージャー達はユニットをどのようなチームにしたいのか語り、自分達なりにユニットのコミュニケーションを少しずつオンラインとオフラインで増やしていきました。
経営層補強人材の採用
当時、明らかに感じていたのは100人という人数に対して、組織をマネジメントできる人材の数が圧倒的に足りてないという事でした。特にマネージャーレイヤーではなく、社長の右腕となれる人材がもっといないとこの状況は打破できないと感じていました。
エージェントやWantedly、ビズリーチなどのスカウトメディアを通じて色んな人材に会いました。その時に気をつけていたのは、会社の状況を必ず正直に話すという事でした。本当に最悪な状況だったので、この状況をしっかりと理解してもらって覚悟を持って入社してもらわないといけないと思い、弊社に興味を持ってもらった全ての人に「今うちの会社は本当にヤバい状況です。この状況で入るならしっかりと当事者意識を持ち、自分の手で組織を改善していく覚悟がないと厳しいと思います。」と伝えていました。これは幹部候補だけでなく、全ての求職者に取り繕う事なく正直に伝えていました。
この時に本当に良い縁に恵まれて、Design DivのGMの松岡や管理部長の瀬川、経営企画室長の柳沢など覚悟を持った人材が入社し、その後の組織の成長を僕の右腕となって支えてくれました。
ちなみにこの時に一番お世話になったのはクライス&カンパニーの松尾さんです。うちの重要人材の多くはクライスさんから紹介していただいた人材です。会社を深く理解して紹介をしてくれる僕が最も信頼をおいている人材エージェントです。
事業面 資金調達とFinTech領域の参入
この時、組織が崩れていくと同時並行で資金調達が走っていました。CFOが退任していく中での資金調達だったので、なかなかの厳しい状況でしたが、なんとか4億円の資金調達が完了し、同時にFinTech領域に参入するというリリースを出しました。
これが意外にもマーケットで反響を呼び、1週間で30を越える金融機関からの問い合わせが入り、その後GoodpatchへFinTech系の仕事が受けれるようになる大きな布石になりました。社内的にも、この資金調達のニュースはポジティブな反応で、雰囲気も少しずつ良くなっていく兆しが見える出来事になりました。
Goodpatch Blogの再始動
創業2年目から運用しているオウンドメディアのMEMOPATCHをGoodpatch Blogとしてリニューアルし、再始動させました。コンテンツを作る体制は僕と広報の@haaaaaaco はこちゃんとインターンでスタートし、社内からもコンテンツを徐々に提供してもらうようにしていきました。
最初の方でキャンセルのキャンセル記事がバズり、Goodpatchのブランド認知向上に繋がりました。この頃は経営企画チームも自分が見ていたのですが、今の経営企画室長が入社した時にブログの企画を100人を越えた組織の社長が学生インターン達と一緒にブレストしている構図を見て、ヤバイと思ったらしいです。笑
新卒の本格採用スタート。17新卒の入社
まさかのこんな組織状況の中で本格的な新卒採用をスタートした時に採用した17年新卒が入社しました。Goodpatchは3期目から新卒を採用しており、組織文化を作っていく上で新卒の存在はとても重要だと思っていました。
しかし、本格採用を始める時は社内で
- 誰が育てるんですか?
- 採用に関わりたくない
- 育成をする余裕がない
という声が上がり、なかなか社内の協力を得られない状況でした。
そんな中で入社してきた17新卒には苦労も掛けたと思いますが、彼らの入社は後にGoodpatchのカルチャーに大きな影響を与える事になります。
会社の本質的価値向上のためにナレッジを貯めよう(2017年9月〜12月)
再現性を上げるためにナレッジシェアリングの仕組み化に着手
この時期、社内の雰囲気も小さなユニットを中心に少しずつですが改善が気配が見え始めてきました。ここで本質的な会社の価値に繋がるような仕組みを作らないといけないと思っていた僕は、このタイミングで長らく手を付けれていなかったナレッジシェアリングの仕組みに手を付けることにしました。
当時のGoodpatchはマーケットでは一定のブランドがあり、UIやUXデザインのノウハウがあるように思われてましたが、実は社内ではナレッジはあまり溜まっておらず、非常に属人性が高く、車輪の再発明のような事がずっと起こっていました。
人数が少なかった時は週次のプロジェクトレビューがクオリティを守る仕組みになっていましたが、組織が崩壊しレビューもなくなり、ナレッジを溜めるために導入したQiitaTeamは誰もアクセスしなくなっていました。
当然このままでは行けないと思っていた僕はFY2018のキックオフMTGで全社に会社の本質的価値を高めるためにナレッジを溜める仕組みを作ろうと大号令を掛けました。
ナレッジマネジメントの担当メンバーをアサインし、ツールもesaに変えて、さらにOKRもこのタイミングで導入し、ナレッジを溜めることを会社のObjectiveに紐づくような形しました。
その結果、今では多くのナレッジが社内で共有されるようになり、毎月60近くのナレッジがesaに投稿され、Goodpatchの重要な文化の一つになっています。勉強になるだけではなく、個人の思いやストーリーがこもった熱い投稿などもあり、日本のデザイン系メディアでは一番面白いと勝手に思っています。
プロジェクトレビューの仕組みも改善
ナレッジシェアリングの一環として半期に一回やっているプロジェクトレビューも仕組みを改善して、Goodpatchでしか手に入らない体験の場になっています。以下の記事などで紹介されています。
この時期に更にマネジメントメンバーの補強とボトムからの育成などの取り組みもスタートしていきました。
事業面 Baltoのクローズ
事業面では残念ながら自社プロダクトのBaltoのクローズが決まり、社内では少し落ち込む雰囲気もあったのですが、Baltoの失敗を学びに変えて、すぐに水面下で新しい事業の仕込みを始めました。
というように、様々な打ち手をやってはいたのですが、Baltoのクローズも重なり、組織を離脱する人の数は減らず、2017年の離職率は40%を越えました。徐々に会社の雰囲気が変わっては来ていたと思っていたのですが、この時点ではまだメンバーからは経営者として完全には信頼をされていなかったのだと思います。人材マーケットではGoodpatchが大量に人が辞めていてかなりヤバイらしいという噂が僕の耳にも聞こえてくるくらいの状況でした。
そんな中で2017年10月に取ったモチベーションクラウドのエンゲージメントスコアは46.7 CCCという過去最低の数字を叩き出し、まさに組織としてはどん底で暗いトンネルからなかなか抜け出せない感覚でした。
この後、2018年の頭に起きたある出来事から事態は段々と良い方向に変わっていくことになります。
この続きは後編で。後編はこちらから