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プロ野球の引退セレモニーとうちのテレビの話

秋はプロ野球(NPB)ファンにとって、心さみしい季節だ。
春にはじまったその年のシーズンが終わる季節だからだ。

2023年現在、日本のプロ野球の順位は、年間143試合の勝敗で決まる。
夏が終わり、秋の声を聞く頃は、順位もおおよそまとまっており、各チームのファンはそれぞれ、今シーズンの終わりに向けた心づもりをなんとなくしている時期だ。

ちなみに私が応援する某ヤクルトスワローズの2023シーズンは、球団初の3連覇を目標に意気揚々と始まったものの、よかったのは4月だけ。ケガによる主力の離脱、打撃不振、先発投手の大崩れという三拍子が見事にそろってしまい、5月には早々にBクラスに転落。その後は一度もAクラスに上がることなく、さらには4位とも大きく水をあけられ、「すわ、『優勝の翌年に最下位』という前代未聞の結果を残すのか」と危ぶまれたが、最後の最後に奇跡のサヨナラ勝利を飾り、元気に5位でフィニッシュを迎えた。
今季のスワローズの成績は本塁打数、得点数はリーグ2位であるものの、失点数と防御率がぶっちぎりのワースト。つまり、点はそれなりに取っているが、それ以上に失点して負けているということだ。シーズン終盤にもあったような、2ランと満塁、2本のホームランを含む合計8点取ったにもかかわらず、中盤に6失点してなぜか8-9で敗戦、みたいな試合が多かったということである。なんだこの球団。
野球評論家の皆さんの順位予想も、スワローズのせいでメッタメタに外れている。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。われわれファンも2連覇で浮かれていたせいで、まさか本当に「3連勝したのに4連敗する」球団に戻るシーズンになるとは思っていなかった。反省しきりだ。そう、球団マスコットのつば九郎もかつてフリップに書いていたように、スワローズって「いきなり強くなったり弱くなったりするチーム」でしたね……というのを、ひさびさに思い出させてもらった。何事もおごってはいけない。来シーズンまた頑張ろう。

それはさておき、野球ファンにとって秋がさみしいのは、シーズンオフを迎えるのに加え、引退を決断する選手がいることも大きいだろう。
長年プレーを目にしてきた功労者たちが野球選手を引退し、人生にひと区切りをつけるシーンは、年齢を重ねるにつれて涙なしでは見られなくなってきた。
今年スワローズでは、荒木貴裕選手が引退を発表し、先日セレモニーが行われた。セ・リーグではそのほかに、中日の谷元選手、福田選手、大野選手、読売の松田選手、広島の一岡選手などが現役引退を表明し、それぞれメモリアルなイベントがあった。

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9月27日、わが家のテレビにはスワローズ vs ベイスターズの試合が映っていた。スワローズにとっては今季、横浜スタジアムで行われる最終戦であり、負ければ最下位になりかねない試合であると同時に、ベイスターズにとっては勝てばCS(クライマックスシリーズ)進出が決定的となる大事な試合だ。横浜さんには申し訳ないが、こちらとしても最下位はできることなら避けたい。なんとしても勝ってほしいと願いながら見ていたところ、さすが空気を読まないスワローズが中盤から打ちまくり、11-3で大勝。ベイスターズのCS進出を阻んでいた。やっぱり、なんだこの球団。

この日は試合終了後、今季いっぱいで引退を表明していたベイスターズ、藤田一也選手の引退セレモニーが行われた。藤田選手は2005年の入団後、東北楽天に移籍した時期もあったが、昨年ベイスターズに戻ってきた、いぶし銀の選手だ。最後に古巣から「戻ってこい」と言われる選手は、プレーももちろんだが人柄も尊敬されることが多い。藤田選手も例に漏れず、さまざまな人たちから引退をねぎらうメッセージが寄せられるなど、人望の厚さが見てとれた。東北楽天で一緒にプレーをしていた、現スワローズコーチの嶋さんが藤田選手に花束を渡した演出などは、本当にグッときて、目頭が熱くなってしまった。
セレモニーは佳境にさしかかり、いよいよ藤田選手の最後のあいさつの時がきた。藤田選手は何を話すのだろう。彼の言葉を聞いたら、きっと私も泣いてしまうだろう……まるで藤田選手の家族か親友にでもなったような気持ちで見守りながら、ついにその口が開かれようとした瞬間だった。

ヒューーーン………

不穏な音とともに、突如テレビの画面が真っ暗になってしまった。
暗くなった画面は、もう何も映してはくれない。コンセントを何度抜き差ししようが、主電源ボタンを何度押そうが、まったく反応はない。
そう、わが家のテレビ――地デジ放送が始まる直前に買い換えた「世界の亀山モデル」シャープのAQUOSが、ついに壊れてしまったのだ。
古い型なのでベゼルが太すぎて、YouTubeやゲームの画面を映すと端っこが映らないわが家のAQUOS。画面に時計を表示させられるのは便利だったものの、右下にしか表示できないので、野球の得点を見るのには邪魔でしかなかったわが家のAQUOS。B-CASカードがデカくて取り出しやすい場所にあったので、子どもが小さいうちにはしょっちゅういたずらをされ、ついには養生テープでB-CASカードの取り出し口を覆われてしまったわが家のAQUOS……。地デジ放送のキャラクター、地デジカのCMもあんなに映してくれていたのに、今はもう何も映してはくれない。真っ黒な画面を眺めながら私は、「さっきの引退セレモニーで藤田選手、なんてあいさつしたんだろ……」と、ぼんやり思っていた。

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そんなわけで、私にとっての今シーズンのNPBは、テレビが壊れたのとほぼ同時に終了の運びとなった。2日後には新しいテレビが届いたので、無事に荒木選手の引退試合は見られたし、神宮で行われた今季最終戦の、謎のサヨナラ勝ちも見届けることができたが、きっと私はこの先ずっと、藤田選手の姿や話題を目にするたびに「ああ、藤田選手が引退した時、うちのテレビ壊れたな」と思い出すことだろう。

そんな2023年のとある日のお話。


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山本 尚恵 Naoe Yamamoto(医療ライター)
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