【物語】ミシン
このマンションに住んでもう数年になる。
最近、上の階に人が引っ越してきた。どんな人かは知らない。
そういえば自分も周りに挨拶しなかったな…。
きっと周りも自分のことを知らないだろう。
数日が経った夜。
変な音に気付き、目が覚めた。
カタカタ。カタカタ。
何の音だ…。
カタカタ。カタカタ。
あ、ミシンか。
でも、下手だなこの人…。
カタカタ。カタカタ。
なんでこんな時間に…。今何時だと…3時。
カタカタ。カタカタ。
カタk。
止まった。
3時4分。
どこからだったんだろう。
まあいいや。寝よう。
次の日。
カタカタ。カタカタ。
またこの音だ。今は…3時。ちょうど。
カタカタ。カタカタ。
カタカタ。カタカタ。
カタk。
止まった。
3時4分。
上から聞こえた、気がした。
だよな、そうだよな。
今までこんなことなかったんだ。
きっと、ミシンが好きなんだろう。
それでも、この時間にはやめてほしいが。
次の日。
カタカタ。カタカタ。
またこの音。
カタカタ。カタカタ。
あれ、なんかおかしいぞ。
カタカタ。カタカタ。
そんなに音は大きくないのに、
なんでこの時間に起きて、
この音に気付くんだろう。
カタカタ。カタカタ。
…。
カタk。
止まった…。
次の日。また次の日。そのまた次の日。
カタカタ。カタカタ。
音は、止まらなかった。
むしろ、何か近づいてきた気もする。
次の日。
カタカタ。
連日なんなんだ。文句言ってやろう。
そう決めて。4分ミシンの音を聞いて、寝た。
次の日。朝。
ピンポーン。
チャイムの音で、目が覚めた。
出ると、上の階の者だという。
お、なんだ、自ら謝りに来たのか。えらいぞ。
それにしても、不機嫌な顔だな。
謝るのにその顔はないだろう…。
その不機嫌そうな顔に苛立ち、
こちらも不機嫌な顔をした。
するとそいつがこう言った。
「あの、毎晩ミシンの音がうるさいんですけど。」