第3号(2023年6月23日)ドローンによる省人化は幻想か?(5月期)

第3号は5月期の話題と論文について紹介します。

米海軍の新掃海システムに青信号

概要
The Braking Defense が5月2日に発表( 記事本文

要旨
 
米海軍は機雷除去のパッケージの艦隊での運用を正式に許可した。このパッケージには複数のシステムが含まれ、最先端の無人・自律技術によって船員から危険を遠ざけるだろう。本システムの運用によりLCS(沿岸域戦闘艦)等の艦船は自力での機雷除去能力を手に入れ、従来の掃海艦及び掃海ヘリは整理されるとみられる。
 ただし、ここ数年海軍の兵力整備は混迷しており、米議会でも度々議論の的となっている。動向については引き続き注視していく必要がある。

コメント
 
日本の掃海能力は世界トップクラスとされていますが、圧倒的に人力です。そしてその養成には多大なコストがかかっています。日本は「職人技」的な掃海能力もこの同盟国の大きな技術的進歩によって岐路に立つのではないのでしょうか。
 ただしLCSの維持に関してはその対潜水艦戦パッケージ導入が頓挫したこともあって議論の俎上にあり、現場の人間が待ち望んでいる姿で導入されるかどうかは不透明です。戦略レベルの業務を担当している高級参謀と現場の意見が交差することは基本的にないため、今後の海軍の兵力整備がどのような道を辿るか、同盟国として日本も注視する必要があるでしょう。
(以上S)

米海兵隊は戦術補給用無人機を導入する

概要
Defense News が5月6日に発表( 記事本文

要旨
 
2024年の予算要求において、米海兵隊は41機の戦術補給用無人航空システム(TRUAS)を要求した。総額は1300万ドルになる。
 このクアッドコプタータイプのドローンは最大150ポンド(約68kg)の荷物を最大9マイル(約15km)運ぶことが可能である。ウェイポイントを設定することで自律飛行可能であるため、運用サイクル全体で2人の海兵隊員が必要で、その海兵隊員はわずか5日間のトレーニングで運用可能である。
 またさらに大型の無人補給プラットフォームの構築も検討されている。そしてそれらに合わせて補給用ドローンの操作に特化した小型無人兵站システム(small unmanned logistics system - air specialist)と呼ばれるMOS(軍隊における特技)を立ち上げることが計画されているとのこと。

コメント
 
ISR任務や打撃任務だけでなく、ロジスティクス任務においてもドローンの導入が進みつつある一例と言えるだろう。
 記事でも指摘されているように、こうした無人システムによる補給は、有人機を損失するリスクがある地域で活動する部隊にも可能であり、敵対的環境下で戦闘を行うEABOのコンセプトに合致する。
 新たなMOSが立ち上がるという点も見逃せない。ドローンという新技術の導入に伴い、軍事組織の教育・訓練システムが変化した一例と言える。
(以上NK)
 端末地への緊急的な部品供給や、食料補給に使えそうな貨物ドローンだと思います。特に海兵隊は変化に富む地形での活動が見込まれます。通常の車両や船舶、航空機での輸送にコストがかかるところ、ドローンでは車両や船舶での弱点を乗り越え、かつ少人数で輸送を担うことが出来ます。重量と航続距離はやや限られるように感じられますが、戦術的な運用ならば十分でしょう。
 日本でも山岳地過疎地への宅配にドローンを使用する実証実験が行われている所ですが、防衛省においても島しょ部の端末輸送や高低差のあるレーダーサイトでの輸送等、平時においても需要が見込めることから積極的に導入を検討してほしいと思います。
(以上S)

米海兵隊がXQ-58ヴァルキリーをF-35の電子戦プラットフォームとして検討

概要
The War Zone が5月4日に発表( 記事本文


要旨
 
kratos社が開発したXQ-58Aヴァルキリーは米軍の各軍において様々な用途が試験されている。海兵隊においては海兵隊が保有するF-35B,Cと組み合わせて電子戦アセットとしての活用が模索されている。この用途はヴァルキリーの持つ特徴ーカタパルトからの発進、ペイロードの転用可能性ーが可能にしている。米空軍においてはF-22やF-35とのデータリンクや、ウェポンベイに小型ドローンを搭載することでドローンの発射プラットフォームとしての役割を研究している。さらにKratos社はDark Furyと呼称されるドローンプロジェクトなど詳細が明かされていないドローンの開発を複数進めている模様である。

コメント
 
海兵隊の模索するヴァルキリーの電子戦アセットとしての活用は、海兵隊が推し進めるEABOコンセプトとヴァルキリーの持つ特徴がうまくかみ合わさった結果と言えるだろう。
 米軍内ではヴァルキリーの用途が様々提案され試験されているが、このことはドローンの持つ多用途性という特徴によるものである。この多用途性を活かすためには実際の運用を重ねての試行錯誤や、既存の思考枠組みにとらわれない軍事的知性が求められる。
 またヴァルキリーの大量生産が進めば、一体あたりの単価が現在よりも大きく下がる可能性がKratos社側から提示されている点が非常に興味深い。具体的には現在の単価は650万ドルであるが、これは現在の少量生産に基づくものであり、年間50機の生産では400万ドル、年間100機の生産では200万ドル以下になる可能性があるとのことだ。記事でも指摘されているように、単価が下がれば目的達成のためにヴァルキリーを犠牲することもあり得る。多用途性を持つ機体でありながら、消耗可能となれば作戦における立案の柔軟性は大きく向上することであろう。
(以上NK)
 防衛省では次世代戦闘機のロイヤル・ウィングマン(忠実な無人僚機)としてMQ-28ゴーストバットが話題になっていました。防衛装備庁においてもこのアセットの基礎となる技術の研究が進行中です。米軍が一歩進んでいるのはこれらを電子戦や小型ドローン母機等の支援アセットとして、更に戦闘にどう活用できるか試みている点でしょう。省人化が急務となっている中で、単純な僚機として戦闘を支援するだけでも大きな効果が見込まれますが、航空機というプラットフォームそのものやペイロード等の伸展性を理解し、使い方の開発を並行して進めていく点は見習うべきではないでしょうか。
(以上S)

バイカル社がドローン用巡航ミサイルを発表

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