第28号(2024年6月21日)ドローンによって揺らぐ制空と防空の役割分担、米特殊部隊でFPVの活用が開始
皆さんこんにちは。第28号では5月期の話題と論文を中心にご紹介します。
イスラエルは自軍のドローンを同士撃ちで4割損耗しているーガザでの紛争から考える小型ドローンの識別問題―
概要
The War zoneに2024年5月2日掲載(記事本文 )
原題 "Israel Is Shooting Down A Lot Of Its Own Drones"
要旨
イスラエル国防軍が作戦行動中に自軍無人機のかなりの数を撃墜していることがわかった。海兵隊の戦闘開発統合司令部(CD&I)内の航空戦闘要素部海兵隊航空指揮統制統合部門の責任者であるマイケル・プルーデン中佐は、イスラエル軍の無人機の損害の内40%が自軍による撃墜、フレンドリーファイア(同士討ち)だと講演で明かした。この数字は昨年10月以降ガザ地区で行われている軍事作戦が開始されてからの数字だという。
また最前線で、小型無人機が飛来してきておりその敵味方識別がすぐにはできない場合、イスラエル軍はすぐに撃墜するとのことだ。
またブルーデン中佐は「小型の無人機を何千機も空に飛ばしながら、そのことを誰にも告げず、特に地上防空や対無人機(の部隊)にも告げないというのはどういうことなのか?」と小型無人機の敵味方識別の重要性について指摘した。
例えば米海兵隊は物資輸送のために無人機を用いる予定だが、その物資輸送無人機を撃墜することは味方の能力を奪うことになりかねない。小型無人機の敵味方識別問題は米海兵隊を含む世界中の軍隊が取り組むべき重要な問題であることを明らかにしていると記事は指摘する。
コメント
これが発生するから無人機は遍く登録するようにして識別できるようにしましょうという動きは至極当然のもので、無人機に対しても航空法を適用する日本の行政の考え方の5%くらいは理解できます。
お墨付き品以外使いづらかったり、煩雑なシステムや行政手続きの遅さに振り回されたり、利権団体に上納金を納めなければいけない所は全く理解できませんが…。
逆に個人で楽しむ分には「めんどくさい」でも(目的が趣味であれば)良いのですが、ある目的の元に組織的に使用するにはシステム化が必要になるということが良く示された記事だと思います。
流石に著者のTrevithick氏の言うような物資輸送用の規模の無人機には国籍標章を付けるなどすることでフレンドリーファイアは回避できるのではないかと思いますが、電子的な識別方法については特に小型無人機で大きな課題となるでしょう。
超小型IFF(敵味方識別装置)を開発して搭載するなんて、まさか使い捨ての機体に払えるコストではありませんし、万が一焼け残ったりして敵に回収されたら目も当てられません。(以上S)
戦場で進化する戦車―戦車も甲羅を背負う時代ですー
概要
The War zoneに2024年5月6日掲載(記事本文 )
原題 "New Russian Turtle Tank With Cage-Like Armor Emerges On Ukrainian Battlefield"
要旨
ロシア軍は「亀戦車」と呼ばれる新型戦車をウクライナの前線に投入し始めている。この亀戦車は既存の戦車上部を覆うように追加装甲を搭載しているものであり、その見た目が亀の甲羅のように見えるため亀戦車と呼ばれている。この亀戦車は前線で飛び交うFPVドローン攻撃から身を守るために追加装甲を装備している。
今回公開された亀戦車の動画は、戦車側からの視点が存在する。追加装甲のせいで、戦車の砲塔は旋回できず戦車兵の視界も遮られている。
さらには追加装甲の上に、ケージアーマーという金網型の装甲を装備している。このケージアーマーの目的は対戦車ロケット弾の攻撃を防ぐためのものである。
この亀戦車には地雷処理用ローラーが搭載されており、前線突破する間に敵のFPV攻撃を吸収するためにこのような重装甲になっていると推測されている。
またこちらのツイートの動画にあるように、亀戦車が部隊より先行し、”被害担当艦”として敵の攻撃を吸収し、その後に味方戦車が続く姿が目撃されている。
コメント
戦車にまつわる名言で「厚い皮膚より速い足」というものがあるが、今回の亀戦車はまさにこの真逆を行くものである。さらには追加装甲のせいで、砲塔も旋回できなくなっている。
この亀戦車は主力戦車というよりWW2に見られた突撃砲という車両に近いように思われる。以前の号で戦車は歩兵部隊の支援のために使っているという話があったが、歩兵の支援目的であれば必ずしも砲塔が旋回しなければならないというわけでないのだろう。
戦車に対するドローン攻撃に対しては、砲塔上部に傘型のアーマーを搭載することがトレンドであったが、この亀戦車はそれを超えてきた進化をみせている。今後はこうした装甲の強化にシフトしていくのだろうか。
追記:ちなみに亀戦車は自爆ドローンに関しては強いが、どうも通常の砲弾には脆弱とのこと。この追加装甲のせいで、視界が遮られる上脱出が困難になってしまうとのことだ。対ドローン用に装甲を積めば、砲弾に弱くなってしまうというジレンマをロシア軍はどう解決するのだろうか?戦車自体の装甲を強化するよりも、戦車に低空域を制空できるアセットをアタッチするのがいいのではないか。(以上NK)
この装甲車は機動部隊に先んじて進路啓開を行うために改造されたのでしょうか?そうでなければ割に合わない印象を受けます。まあ肉弾装甲車よりは遥かにマシな装備ですが…。ちなみにこの亀戦車は改修に次ぐ改修の結果今回のフォルムになっているようで、亀戦車の歴史はロシアの戦場への適応の歴史になっていくものと思われます。操縦の問題なども今後改善されていくのか?という点は注目に値しますし、現状こうした「魔改造」を非常にしづらい自衛隊にとってもこの亀戦車の動向は学びとなることが多いのではないかと考えます。 (以上S)
大規模攻撃氏が暴く!東京都が開発したAIを使った損害評価システムの中身とは?
要旨
東京都は、地震などの大規模災害で被災した建物の画像を人工知能(AI)が読み込んで損傷程度を検出、判定するツールを開発した。地震や風水害などの被災者が税の減免や各種支援金、仮設住宅への入居などの適用を受けるためには、罹災証明書が必要になる。しかし建物の損傷程度等などを細かく確認する必要があるため、災害の規模が大きく申請件数が増えれば交付に時間を要することになる。また、過去の災害では認定のための自治体職員が足りない場合もあるという。
東京都が開発したツールでは、自治体職員がスマートフォンなどで被災した建物を撮影。写真を読み込むとAIが損傷を検出し、損傷程度を5段階に自動判定する。被害状況にもよるが、数秒から1分程度で判定結果が出るため、迅速な対応につなげることが可能。また、AIを活用することで認定のばらつきを抑えることもできるとしている。
都の担当者は「使用を重ねることでAIが学習していく。継続的に使用することで精度を向上できれば」としている。
コメント
今回はアノテーション職人である大規模攻撃氏のコメントをもらった。大規模攻撃氏のコメントは以下の通り。
この記事には被災した建物の認定を物体検出AIが検出、判定する事で認定にあたる自治体職員の負担を減らせるだけではなく、認定する自治体職員個人の能力や経験への依存を減らすことが出来るため、より多くの自治体職員を認定に当たらせることが出来るだろう。また物体検出AIは、認定する自治体職員個人の勉強や経験獲得にもなる可能性が挙げられる。回数を積むことによって「この被災状況では、このような判定をするだろう」と自治体職員の"物体検出AI化"にもなりうる。
東京都が開発とあるが、これはオープンソースの物体検出AIに東京都が学習データを挿し込んだ物である。他自治体に学習データを配布する事で(地域特有の建物を追加学習させるなどのローカライズは必要になっていくが)、日本全国で使用する事が出来る。他自治体のフリーライドにも見られるが、他自治体が撮影した建物の画像と検知結果のデータを集めることによって精度改善に繋がり、また他自治体が運用能力を獲得する事で、災害時に他自治体が東京都に応援に行って活動しやすくなるなど、東京都にもメリットがある。物体検出AIの活用で、職員と他自治体の2つでより広く被害認定ができるようになるため、積極的に配布と活用をすべきだ。
米特殊部隊による自己完結型ドローン兵士の育成―グリーンベレーにおける新しい教育プログラムについてー
概要
Defense one に2024年4月23日掲載(記事本文 )
原題 "Army SOF's new drone course teaches gamer and maker skills"
要旨
米陸軍特殊部隊グリーンベレー所属の兵士ジョシュは、ポーランドでウクライナの兵士達を訓練する任務に従事していた。ウクライナの兵士達は、ジョシュがジョイスティックの操作を親指だけで行うのは間違っているといい、ジョシュの腕前に懐疑的であった。ジョシュは兵士達にドローンレースを挑み、彼はそのレースに勝ち続けた。彼は何時間もシミュレーターで訓練しているからこそ、ウクライナの兵士達に勝てたのだ。
米陸軍特殊部隊は、ジョシュのような無人システムの運用や整備をパートナー国の部隊に指導できる兵士を育成しようとしている。特殊作戦に関する教育を行っているジョン・F・ケネディ特殊戦センターに、ロボット工学・無人システム統合コース(RUSIC)と呼ばれるプログラムが設置された。
兵士達は、6週間のプログラムの中で連邦航空局のドローン規制を学び、敵の妨害下でドローンを飛行する訓練を行い、カウンタードローンシステムを使いこなす…だけでなく、ドローンを自作し、バッテリー管理についても実践する。
更にはFPVドローンからUGVに至るまで様々な無人システムの改造も学んでいるようだ。
最後の一週間は全てのスキルを試す演習を行う。RUSICコースのパイロット版は2023年度に始まり、最初のコースは2023年10月に開催された。RUSICは年間4コース、各コース24人の受講者を予定している。
RUSICの訓練部隊を率いるスティーブ・シューマン少佐によると、このコースを完了すると、生徒たちは、ドローンを飛ばしたことがない状態から、自爆FPV攻撃を実行できるようになるという。
このコースの卒業生は、既に海外でドローンの使用方法に外国人兵士に指導を行っているほか、ドローン操縦に関する教官として認定され軍内部での人材育成にも活躍できるという。
このプログラムには、人材確保に加えてドローンの部品に関する法的制約が課題としてのしかかっている。コース内で学生がFPVドローンの製造に使用する構成品は、連邦政府の取得規制と国防認可法に準拠しなければならないという。ジョシュは「政策が追いついていない」と指摘する。
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