第31号(2024年8月2日)米国がスパイドローン犯の逮捕に成功、そして問われる空軍及び在来型防衛産業の意義(6月期)
みなさんこんにちは。殺人的な暑さの日が続いていますがいかがお過ごしでしょうか。今号は全号に引き続き、6月期の話題を中心にご紹介します。
ドローンパイロットのための移動司令部をロシアが開発
要旨
ロシアはPAZ民間バスをドローンパイロットの移動ステーションへと改造した。最大7人のドローンパイロットがこの移動ステーションから操作可能であり、中にはモニターとデスクトップPCが複数台装備されているようだ。さらに中で使う電気を供給するために発電機も備えているという。
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この投稿の写真の左側に注目して頂きたい。マルチカムの迷彩服をきてフードを被った兵士がノートPCを使用してるが、この使用しているPCはおそらくゲーミングノートPCではないかと推測される。
理由は3点あり、まずキーボードが赤く発光していることだ。これはゲーミングPCによくある特徴である。加えてキーボード下部の部分に、緑色のシールのようなものが見えるがこれはNVIDIAのGPUを搭載していることを示すシールだと思われる。
私のゲーミングノートPCもそうだが、ゲーミングノートPCはほぼNVIDIA製のGPUが搭載されており、そのことを示す緑のNVIDIA GEFORCEシールが貼られている。またこのノートパソコンに接続されている電源ケーブルも、ゲーミングノートPC用の高出力に対応したケーブルのように見える。
以上のことからロシア軍が前線でゲーミングノートPCを運用した例があると言える。(以上NK)
軒並みバス型の乗り物がドローンやミサイルの餌食になりそうな記事で、公開して大丈夫…?っていうかNVIDIAって輸入できるのか…?という感じもしますが、ドローン策源地攻撃は両軍の死活的な問題ですから、こうした解決策を模索するロシアの姿勢は見習うこともあるかと思います。
例えば従来の軍事用トラックやコンテナトレーラーでも出来そうなのにバスを選んだのは、居住性からでしょうか。これだけのPCを常時使用可能にするにはそれなりのスペックの発電機も必要と思われますから、サーマルセンサーなどにやられないといいですね。(以上S)
機密施設に忍び寄るスパイドローンの影
概要
WIRED に2024年5月30日掲載(記事本文 )
原題 "The Unusual Espionage Act Case Against a Drone Photographer"
要旨
米司法省は、2024年1月5日に中国人留学生が引き起こしたドローンによるスパイ事件を起訴している。この事件は、航空機を使用して重要な軍事施設を撮影することを禁止した第二次世界大戦時の法律に基づく初の訴追である思われるほど珍しいものであり新技術と既存の法体系における課題を示すものである。
2024年1月、ミネソタ大学の大学院に留学中の中国人学生フェンユン・シーはバージニア州へと飛び悪天候の中ドローンを飛ばし、ドローンを隣家の木に引っかかけてしまった。その際接触した住人は悪天候下でドローンを飛ばすシーを怪しみ、警察へ通報した。供述書によると、シーは悪天候の中でドローンを飛ばす本当の理由がなかったという。警察はシーにその場に留まるよう要請したが、シーはドローンを捨てて現場から逃走した。
FBIがドローンを押収しメモリーカードを調べたところ、バージニア州ニューポートニューズ造船所とBAEシステムズ社で撮影されたと思われる画像が発見された。その当時、ニューポートニューズ造船所では軍事機密の塊である空母とヴァージニア級原子力潜水艦が建造されていた。司法省は重要な軍事施設の写真撮影を禁止する法律と、そのために航空機を使用することを禁止する法律の2つに基づき、シーを起訴している。シーは滅多に起訴されることのない法律の元で起訴されており、「裁判所は過去の判例を一件しか見つけることができなかった」と担当判事は述べている。
そもそもなぜ司法省がシーを起訴するのかという疑問が、裁判には大きく立ちはだかると記事では指摘されている。結局中国は衛星により、米国内の軍事拠点を撮影することができる。加えてシーは外国政府のための情報収集に関する法律で起訴されているわけではない。彼の唯一の容疑はドローンで写真撮影したことである。
またこの軍事基地の撮影を禁じる法律と憲法で定められた公共の場における写真撮影という権利のバランスの問題がある。国家安全保障を専門とするヒューストン大学法学部教授のエミリー・バーマン氏は軍事基地の写真撮影を禁止する法律に基づいて起訴されたケースは、憲法修正第1条の権利に影響を及ぼす可能性があると指摘する。
コメント
これはシー氏のバックグラウンド(PCやスマホのアクセス履歴やSNSアカウント)を見ないと何とも言えませんね…米国の法律が捜査目的でこのような情報を収集することを許すか知りませんが、まず留学できるということは身元がはっきりしている人で、ビザが降りてますからね(ハワイで若い日本人女性の入国審査が厳格化しているように、米国のビザ/入国審査は割と真面目です)。
いずもドローン事案の犯人とされる人物もそうでしたが、ただ自己顕示欲が肥大化して危険な試みにアドレナリンを燃やすタイプの若者だったのか、中国のインテリジェンスと利害関係にあったのかは(残念ながら米国は自由と民主主義の国なので)慎重に調べる必要があると思います。まあこれでシー氏は懲りるのではないでしょうか。
私はシー氏を自己顕示欲肥大化人間だと想像しています。これは東京タワーなどの事例を見ると「そこに撮れ高チャンスがあるから」現地の法律なんか気にせずドローンを飛ばしている人が一定数いそうだからです。というか、スパイでもそうでなくても違反は違反ですから違反の態様に従った処理を淡々とすればいいんですよ。「義務」の話に「権利」の話を入れるからおかしくなるのでは。
…と、ここではカンタンそうに意見表明できますが、この平時における個人の自由の保障と安全保障をどう両立させるかはどこの国も難しい判断を迫られていることと思います。日本の小型無人機等飛行禁止法もいきなり逮捕や民間人のドローンを操作不能にする等の実力行使はできません。米国だと通信の自由の観点からも私有財産の保護の観点からもより厳格に(民間人に優しく)管理がなされていますし、中国人だから的な理由が1mmでも発生すれば人種差別で米国の権威を失墜させかねません。ドローンはこうした国家の権利と国民の自由の関係の再構成を強制しているという見方もできそうですね。
Rules are RULESですから、やってはいけないことはやってはいけません。ルールがあればそれを守る必要がありますし、(いろんな意味で)その国の公用語が理解できない者にも守らせなければなりません。とはいえ、本当に法規則の内容やその下で動く日常が妥当なのかは絶えず考え、社会的背景に合わせた運用がなされるべきです。 (以上S)
この事件を見るといずもみたいな事案はどこでも起きるし、各国共にその対処に苦労しているのだなと伺える。しかしここで強調しておきたいのは、各国が苦労しているということを対策ができていないことへの言い訳に使うべきでないということだ。同志Sの指摘するような国家の権利と国民の権利について積極的に方針を打ち出し、他国の模範ならんとするぐらいの気概を持ってほしい。
またドローンはこうした国家の権利と国民の自由の関係の再構成を強制しているという見方もできるという同志Sの指摘は興味深い。ドローンが個人の能力を高めるからこそ起こる現象なのではないかと推測する。(以上NK)
ウクライナが見せる3Dプリンタの威力
概要
Clash Report に2024年6月26日掲載(記事本文)
要旨
ウクライナが3Dプリンタで作成したドローン用爆弾の写真が公開された。爆弾の外殻に鉄球が挿入されており、爆発時にこの鉄球が散らばるものとみられている。また弾頭の形状から装甲目標用の自己鍛造弾として使用することも想定しているのだろう。
コメント
パーツを拡大してみると細かい線のようなものが大量に入っているが、この積層痕こそが3Dプリンタ製の証である。このパーツが入手しやすい家庭用3Dプリンタで印刷されたとすると、おそらくこのパーツは熱溶解積層方式で作成されたのではないかと思われる。
熱溶解積層方式というのは、フィラメントと呼ばれる樹脂を溶かし、それを積み重ねて造形する方式である。このように推測した理由を説明するにはもう一つの造形方式である光造形方式について説明する必要がある。
家庭用3Dプリンターには、UV光等を樹脂に照射して造形する光造形方式もある。光造形方式の最大の利点は、その精度の高さにある。私は光造形方式の3Dプリンターでスクリューを印刷したことがある。
その際同じデータを使った光造形方式で印刷したスクリューと、熱溶解積層方式で印刷したスクリューを比較したが、やはり光造形方式で印刷したほうがよくできていた。
しかし光造形方式を運用する際には何点か問題がある。例えば素材であるレジンは素手で取り扱うことは厳禁であり、マスクも必要となる。あとレジンの匂いも問題だ。この匂いも使うレジンごとに違うようで、匂いに耐えられるかどうかは個人差がある。
また印刷した造形物は洗浄する必要があるが、洗浄では専用の洗浄液を使うことになり、処理の問題が出てくる。水洗いレジンというものを使えば水で洗浄することもできるが、洗浄に使用した水をそのままにして捨てるわけにはいかない(処理の仕方はいろいろあるが長くあなるので割愛する)。
さらに洗浄した造形物にさらに光を当てる2次硬化というプロセスも必要となる。以上のことを踏まえると前線で使うなら熱積層が適切のように思われる。(以上NK)
エストニアはいかにしてドローンを使って将来戦に備えるのか
概要
Defense one に2024年6月11日掲載(記事本文 )
原題 "How Estonia is becoming a hotbed for drone warfare"
要旨
人口130万人の小国であるエストニアは、ロシアの侵攻に備えてコストを念頭に置きつつ新しい無人機を配備し、ドクトリンを変更するほか訓練を刷新しようとしている。
エストニアは、ボランティア組織であるエストニア防衛連盟が主導する形でウクライナで活躍しているFPVドローンに似た徘徊型弾薬「アングリーヘッジホッグ」を作ろうとしている。
エストニアのドローンプロジェクトの中心として活躍し、エストニア防衛連盟のメンバーでもあるアイヴァル・ハンニオッティによると、このドローンの射程は最大9マイル(約8.6キロ)で、AIを搭載しており、ターゲットまでのラスト1マイルを誘導するという。
価格は1000ユーロ(約17万2000円)以下で、ヨーロッパ製の部品を使用する予定である。このドローンは6月に更なるテストが行われ、ウクライナへ1000機納入されるという。
エストニアではほかに、ドローン探知システムと、対ドローン用の安価なミサイルを開発するプロジェクトが進行中だ。前者は歩兵個人が装備するドローン探知システムであり、来年中にはすべての分隊に配備することを目指しているという。
また後者の対ドローン用ミサイルはまだコンセプトレベルであるものの、市販されている部品を使うことでコストを抑えており、想定価格は2000ユーロ(約34万4000円)である。この値段は、現在最も安価な対ドローンミサイルであるAPKWSミサイルの10分の1の値段である。
エストニアは無人機に対する投資を強め、部隊の改編を進めている。エストニア国防省のオリバー・テュール防衛計画局長によると、エストニアは2024年から2027年の間に、間接火器システムに対する総支出5億2900万ユーロのうち、徘徊型弾薬に2億2000万ユーロ(約2億3800万ドル、日本円で約379億円)を費やすとのことだ。
さらにアンドレイ・シュラボヴィツシュ空軍大将は、徘徊型弾薬を運用して敵の対空部隊を攻撃するための部隊の設立を計画しているという。
部隊レベルでの実験も多く実施されており、歩兵部隊ではドローンを使って隠蔽された敵を発見する実験を行っているほか、砲兵部隊は火器管制官とドローン部隊をリンクさせて敵を素早く攻撃する実験を行っているという。
しかしハンニオッティ氏によれば、森林だとドローンの電波が遮断されてしまうという問題があるようだ。加えてハンニオッティ氏は短距離偵察・攻撃ドローンを運用する専門部隊の開発に携わっているという。
新しい技術には新しい訓練が必要となるが、エストニアは今年ドローン訓練センターを設立する予定であり、このセンターでは電子戦技術も試験されるとのことだ。
コメント
この記事はエストニア国防省側から招待されて記者が見学した内容をまとめたものである。一部の製品は未だコンセプト上の話なので話半分として考えておくべきだろう。そうした点を抜きにしても、エストニアはコストパフォーマンスを意識して開発を進めているような印象を持った。
特に徘徊型弾薬の価格についてである。以前記事にした米海兵隊が購入しようとしているローグ・ワンは約94000ドル(約1500万円)かかる中、こちらの製品は17万円くらいと桁数が2つ違う。
ハニオッティ氏は、最新の技術でトリックアウトされたドローンではなく、「十分に良い」ドローンを持つことが目的だったと記事内で指摘しているが、氏の指摘通りだ。徘徊型弾薬にどこまでのコストをかければ一番いいのか、コストパフォーマンスを意識すべきである。(以上NK)
エストニアはDX立国で注目されています。この近年のIT関連の取組みとドローンの相性はかなり良かったのではないかというのが印象です。課題があるとすれば軍事組織の側にありそうだな、とすら思えてしまいます。
どうしても国の規模に軍事的なスケールは比例してしまいますが、今後輸出に踏み切ったりした場合には国にもたらすメリットはかなりのものになると思います。
常々ロシアの脅威にさらされているバルト三国だからこそのスピード感であると思われますし、エストニアはフィンランド等とともに、旧ソ連地域における対ロシア防衛の中核としての存在感を発揮していくものと考えられます。
日本もサイバー戦や森林におけるドローンの運用を一緒に研究したらどうでしょう?(恐らく自衛隊の方が洗練されていると思われる)伝統的な戦闘・戦術能力を彼らに付与し、これらの新たな戦闘能力を彼らから教わるような取引が成立するのは、今が最後かもしれませんよ。(以上S)
【全訳】ドローン、空の沿岸域、そして迫りくる空軍の無価値化
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