第1号(2023年6月9日)現代戦におけるドローン活用(3月期)
第1号は3月期の記事について以下の通り紹介いたします。
中国がコンゴ民主共和国へドローン供与ー地域紛争の懸念ー
概要
The Diplomat が3月20日に発表(記事本文)
要旨
ルワンダとの緊張が続くコンゴ民主共和国(DRC)が、国内の希少鉱物資源採掘事業をめぐり距離を置こうとしていた中国製のドローンを購入。SIPRIによると中国はこの10年で、少なくともアフリカ大陸17か国に282機のドローンを供与しており、兵器全体の供与数でも米国の3倍のシェアとなっている。米国は大量破壊兵器の運搬手段となりうるドローンやミサイル等の輸出を厳格に規制しているが、識者は米中対立及びアフリカでの鉱物資源利権問題に鑑み、安全保障の懸念を抱いている。
背景
中国が資源利権や港湾地を目的とした大型投資は年々増えていますが、相手国に対する経済援助というよりも自国の利潤追求が圧倒的であり、DRCの資源流出のほか、2022年頃から経済危機に陥っているスリランカの対外債務膨張の大きな要因となっている等、深刻な状況となっています。
DRCは現政権になってから、希少鉱物資源による利潤をほとんど独占しようとする中国とは距離を置き、米国との連携を深めることでバランスを取ろうとしている途上でした。
DRCは世界シェアのほとんどを占めるコバルトの産地です。コバルトはリチウムイオン電池や水素電池に欠かせない材料となっており、これらの問題により需給に混乱が発生するリスクが増大しています。しかし各国の支援はウクライナ等の二の次になっている状況です。
コメント
中国がインド洋地域やアフリカでやっている施策は経済的侵略といっていいレベルの経済的支配ですが、直接国際法違反と糾弾しづらい(むしろ資本主義的な価値観で言えばまあ弱肉強食である)ところ、特に西側諸国が対コロナやウクライナ支援で手一杯になっている数年で「上手くやったなあ」とすら思います。
ただ中国製のドローンが草の根的に増える、中国に借りができる国家が世界中に増えるということは安全保障上の大きなリスクですし、希少鉱物資源の利権に大きくコミットされるということは「兵糧攻め」のリスクも増大します。日本も経産省、外務省と商社等が連携して対応しているようですが、安全保障の側面からも各国の連携が試されると思います。
余談ですが、中国製のドローンって特殊なコマンド入れたら全機PLAの支配下に入れられたりしませんよね…?私の妄想であることを願います。(S)
アフリカ地域は未だに対反乱作戦を行ってたり内戦したりと戦争まみれな地域であり、そうした地域において中国製のドローンは活躍することは中国側に貴重な実戦データを与えかねないのが恐ろしいところかなと(NK)
キルウェブの構築:ドローン戦のコンセプト
概要
U.S. Naval Institute が3月1日に発表(記事本文)
要旨
自爆ドローンに代表される徘徊型兵器(Loitering munitions)と、中高度/高高度(MALE/HALE)滞空型無人機を組み合わせたキルウェブの構築の一案を提示・考察したもの。筆者は徘徊型兵器としてSwitchblade、滞空型無人機としてMQ-9を題材としたほか、AIによる戦術見積や民間人/敵味方識別機能を取り入れ、より低コストかつ低リスクな戦術を提案している。
コメント
この戦術を支えることが可能なAIとネットワーク網が実装されれば、空対地戦術の主役はドローンに取って代わられる可能性があると考えます。Switchbladeの大きさを活かし、FAC(前線航空管制官、特に米軍では統合末端攻撃統制官:JTAC)にも装備させ戦術運用させている点は大変興味深かったです。この戦術事態も「組み合わせ」によるものですが、戦略爆撃と組み合わせれば大きな価値を生むでしょう。
日本のC4Iシステムは統合化が進んでいますが、特に戦術レベルでは各幕が各々で進めておりシームレスな対応が望めるか?というとまだそうではない部分もあると思います。また、日米共同の観点でいえば空自はLINK-16の実装が遅延しており数年内に終わるかどうかが不明確です。このようなキルウェブの構築にはシームレスなC4Iネットワークが不可欠なため、継続的な投資とアップデートが望まれます。
本記事は正直コンセプトの提案なので学術的なコラムかというとそうではないとは思います。ただ(独立組織とはいえ)海軍系のジャーナルでこのような一種のアイデアを提案できるのは流石アメリカだと思いました(日本なら「根拠は?」「いいアイデアかもしれないけどお前の空想に過ぎなくない?」と言われてお蔵入りになりそうです…)。こういうところからイノベーションは生まれるのですね。(S)
エアバス社実施の空中給油デモに見る航空戦の未来
要旨
エアバス社が自社空中給油機による無人機への空中給油デモを実施したと発表。特筆すべき点はドローンが人間の操作を受けずに給油ポイントまでたどり着いたことであるが、実際の給油は実施しなかったため今後の続報が待たれる。今後より重要な任務機と護衛機でのパッケージで航空作戦を進めていくうえで、どの役割を果たすにせよ無人機の占める割合は重要なものになるだろう。
コメント
無人機ー有人機または有人機ー無人機の空中給油はもはやビッグニュースではなくなった感がありますが、AIを駆使して人間による操作を局限しているところがポイントかと思います。
無人機って、無人なだけだとすごく手がかかるんだというのが経験上得た学びです。この能力が実装されれば、無人兵器による省人化が実現できるかと考えます。
また、戦地において選択肢が増える(最も重要なアセットを有人とし、あとは無人化する、無人アセットと有人アセットを組み合わせる...etc.)のは非常に有意義です。日本は立ち遅れすぎていますから、手札を持たない中で今後50年ほどどうするのか、研究開発と並行して考える必要があると思います。(S)
AIと人間のコンビネーションによるスウォーム機動の最適化
概要
ICIC(International Journal of Innovative Computing, Information and Control) に4月7日掲載(記事本文(インドネシア大学HP))
要旨
インドネシアの研究グループは、AIと人間がコラボすることによりドローンの戦闘成果を向上させることができるのではないかと考え、スウォーム戦の機動に関するAI(こちらは別件で研究)に人間のハンドジェスチャーによる指令が介入できるようにセンサー等を加えて3Dバーチャル空間での模擬戦闘実験を実施した。その結果、ほぼすべての条件下においてAIと人間のコラボの有効性を確認できたほか、敵ドローンの数が多いほうが人間の介入による効果が向上した。
コメント
ドローン(またはロボット)の操作を人間の動きに連動させるという取り組みは割とオーセンティックな発想ですが、スウォームにおいて、また戦闘での動きを念頭にこうした取り組みがなされているのは興味深かったです。
彼らの言っているようなスウォームによる航空優勢の確保は、ドローンの性能から空地中間領域に限定されてしまうもの(すなわち陸上戦闘における限定的な効力しか発揮されえない)ではないかと空軍出身者としては考えますが、彼らの他の研究と結び付けて「現段階では人間のほうがAIよりも短時間で戦闘を掌握できる。AIは完全に人間を代替するものではなく、人間の頭脳と協調することによりその威力を発揮する」と結論づけている点は、完全自律・自動学習に重きが置かれがちな今後のAI開発の方向性に一石を投じるものであり、興味深かったです。
今後彼らはより複雑な、またほかの動き(目線や脳波等)と連動させたAIと人間のコラボについて研究するそうで、もしかしたら10年後にはハイテク戦の名手になっているかもしれません。 (S)
部谷コメント
今、現代戦は第四次産業革命によって近代以来の画期を迎えている。
本noteではこの第四次産業革命による現代戦の変化をドローンを中心に幾人かの同志らと紹介していきたい。第一号、第二号は無料とし、それ以降は記事の一部までは無料とする。
さて今次報告の第一報は、ドローンが外交のツールとして効果的な存在となっていることが分かる。第四次産業革命という現代の文明開化の象徴であり、ウクライナ戦争と半導体不足によって入手が難しくなっており、しかし汎用技術とソフトウェアが基盤であるために運用・生産・改善における取り回しは抜群という特徴がこの背景にある。
第二報は、無人機がAIというソフトウェアのパワーアップによって有人機との連携が普通のものへと走り出していることがわかる。日本では無人機は無人機で、有人アセットとの連携はまだまだだが、この部分でも日本の本質的な遅れがわかる。
第三報も同様だが、注目すべきはインドネシアという新興国が行っている点だ。こうした情報が公開されるだけでも既にカジュアルなものとしてスウォーム技術があつかわれており、この点でも日本と自衛隊の遅れが際立つ。
いずれにしても今の状況は幕末期に近い。第一次産業革命たる蒸気技術を民生でも普通に普及させ、その上で蒸気軍艦による艦隊、蒸気機関によって製造したライフル銃や大砲を前提とした戦術を身に着けた陸軍を編成していた列強に対し、徳川政権は鍛冶職人の作った火縄銃や刀剣と備を中心とする編成という戦国時代のままだった。
今、第四次産業革命たるAI、ドローン、3Dプリンティング、ブロックチェーンなどを活かしたサイバーフィジカルシステムの軍事版が列強はもとよりインドネシアなどの新興国でも実装されている。
幕末期の小栗忠順らによる兵制改革と株式会社や横須賀造船所に代表される産業政策ーこれが最大の注目点ーは、この遅れを取り戻すものだった。しかるに、今の日本は兵制改革も産業政策―どちらかと言えば第三次産業革命の企業の延命が今の主眼となちがち(それも極めて大事なのだが)―も弱い。
急速に防衛省は鈴木次官らを中心にかなり踏み込んだ政策を出しており、それは防衛省創設以来もっとも野心的で未来を見据えた画期的なものだ。それは間違いない。が、その生み出すものはインドネシアにも追いついていないのは本稿で紹介した通りだろう。
日本全体が幕末期と同様に現代戦においついていないことを理解し、単なる兵器購入ではなく、産業政策やシステム(戦い方や研究開発)の視点も含めてやっていく必要がある。
その重要性と具体的な解決案は、今後も諸外国の例を紹介しながら皆様とともに見極めたい。次の戦争では太平洋戦争のような悲惨な軍事的敗北ではなく、軍事衝突の少ない政治的勝利で終えるために。