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第37号(2024年11月1日)ウクライナ戦争の英雄FLASH氏、そして当会で米軍のAI理解の間違いを検証(9月期)

 みなさんこんにちは。やっと長袖が必要な季節になりましたね。今号は前号に引き続き9月期の話題を中心にご紹介します。


本物のカウンタードローンってやつを見せてやりますよーNATOのカウンタードローン演習に参加するウクライナー

概要
DroneXL に2024年9月20日掲載(記事本文)
原題 "NATO’s Major Anti-Drone Exercise: Ukraine Joins the Fight"

要旨
 
NATOはオランダで大規模な対ドローン演習を行い、ウクライナが初参加したとのことだ。11日間の演習には20以上の国と50の企業が参加し、先進的なドローン検知・対策システムをテストした。この演習はウクライナ戦争におけるドローンの活躍を受けてのものである。
 ドローンの脅威が増大していくことに対して、NATOはその脅威を真剣に受け止めている。 NATOの技術機関である統合情報・監視・偵察センターのマット・ローパーは「NATOはドローンの脅威を非常に重大なものと受け止めている。この分野において我々が傍観者でいることは許されない」と述べた。
 専門家は、NATOがドローン戦に迅速に対応する必要があると警告している。例えば欧州政策分析センターは昨年9月に発表した報告書において「NATOが保有するドローンの数は、敵対国との激しい戦闘に対応するには少なすぎる。 NATOが保有する無人偵察機を紛争環境下で効果的に統合することは非常に困難である」と指摘した。
 この演習では様々な対ドローンシステムが試された。特に興味深い点は、小型のFPVドローンの信号を妨害するデモが行われた点にある。ウクライナ国防省の技術者ヤロスラフは技術の迅速な更新が必要だと指摘し、「素早く実行する必要がある。 あなたが開発した技術は、3カ月か、もしかしたら6カ月は使えるかもしれない。 しかしその後は時代遅れだ」と強調した。演習はドローンの妨害やハッキングのデモで締めくくられ、対ドローン技術の継続的な革新の必要性が示された。

コメント
 NATOは最近定期的に対ドローン演習を実施しているが、今回の演習は2点ほど興味深い点がある。まずはウクライナから人員が参加している点である。以前お伝えしたように、カウンタードローンにおいてウクライナからのフィードバックがあるかないかはかなり大きい。ウクライナでの経験を元にこの演習でNATOに対して、アドバイスを行っていたとしたらNATOは得たものは多いはずだ。
 もう一つはFPVに対するカウンタードローンシステムが実験された点である。既存のカウンタードローンシステムはFPVよりも大型のドローンを想定して設計されているものが多い中、そのようなシステムがあったのは驚くべきことだ。このシステムがウクライナ製なのか、それとも西側製なのか、どこの会社のシステムか気になる。(以上、NK) 

米軍はウクライナでの戦争から学んでいるのか?―ウクライナ式編成への模索―

概要
Defense one に2024年9月19日掲載(記事本文
原題 "Army embraces Ukraine-style warfare with new all-drone unit"

Defense one に2024年9月29日掲載(記事本文
原題 "Is the US military learning enough from Ukraine?"

要旨
 真夏の米陸軍フォート・ジョンソンで第101空挺師団所属のデイビッド・マイヤー軍曹は、新設の無人殺傷システム(LUS)小隊の一員として、短距離偵察ドローンを操作していた。彼は味方を攻撃しているアグレッサー部隊「ジェロニモ」を捜索している。
 LUS小隊は4月に発足した多目的中隊(MPC)の一部で、偵察、迫撃砲、対戦車、LUSの4小隊で構成されている。米陸軍が実施中の「transforming-in-contact」イニシアティブの下、第101空挺師団、第10山岳師団、第25歩兵師団の部隊は新装備をテストし、実戦に近い環境でフィードバックを提供することを要請された。
 1個LUS小隊は全体で21人で構成され、そのうち9人がドローンオペレーターで、残りはスティンガーミサイルや対ドローン装備を使用する。LUS所属の兵士は全員歩兵として活動できる。彼らはドローンで敵を発見し、間接火力を調整するが、ウクライナのようにリアルタイムで映像を共有できないため、情報伝達に制約があるという。

試行錯誤するジェロニモ部隊の兵士

 部隊はパロット、Skydio等のドローンを運用している。しかしどれも小型かつ短距離ドローンであるため、フォート・ジョンソンのような森林地帯では1~3キロしか飛行できず、敵の射程内で活動することを余儀なくされるという。小隊指揮官のジャミール・キング中尉はC-100のような中距離ドローンをユニットに配備したいと語った。なお兵士達はパロットを好むという。
 米軍はウクライナでの戦争から学んだ教訓について頻繁に言及している。しかし、主要な軍事研究機関では、この戦争を数あるテーマの一つとして扱い、専任のアナリストはほとんどいない。
 統合参謀本部(JCS)の専門機関は、各軍に調査結果を広める手助けをしているがウクライナを専門としたアナリストや作業グループはいないという。陸軍の教訓収集センター(CALL)では約45人のアナリストのうち4人しかウクライナに焦点を当てていない。
 他の軍種はさらにリソースが割かれていない。空軍のカーチス・E・ルメイセンター(航空ドクトリンに関する研究を行う機関)には、ウクライナ専門のスタッフはいないという。
 さらに海兵隊もウクライナの教訓を専門に評価する機関はなく、直接ウクライナ軍の人員にインタビューする代わりに他軍や同盟国の情報収集に頼っているという。海軍にいたっては情報収集について回答しなかった。
 議会は、ウクライナ戦争からの教訓が効果的に学習・適用されているかを確認するための取り組みを進めている。2025年の国防授権法では軍に対して、ウクライナの戦争で得た知識の普及に関していかなる努力をしているかについて定期的に議会に報告するように求めている。
 一部の専門家は、アメリカ軍がウクライナと同じ問題に直面しないという前提で、重要な現代戦の教訓を見逃していると指摘している。以前空軍の研究所に所属し、現在は独立研究でありウクライナにも滞在したことのあるアンソニー・ティングルは「どれだけの米政府職員がドンバスに行き、電磁スペクトルを記録したり、ドローン操縦士と一緒に座って『そうか、彼らはどうやって周波数ホップするんだ? どうやってドローンを妨害しようとしているのか?』と聞いたのだろうか?」「そのような態度のせいで、われわれが得ていない現代戦全般についての教訓がある」と指摘する。

アンソニー・ティングル氏

コメント
 
部隊実験を繰り返してウクライナの教訓を取り入れようとしている米軍の姿と、専門的にウクライナの教訓を学ぼうとしていない米軍、2つの姿を捉えた記事である。
 前者で興味深いのは、ドローンオペレーターがグランドセフトオートというゲームでそこそこの運転ができればドローンの操縦ができるとコメントしている点だ。やはりゲーマーはドローンオペレーターに向いているのかもしれない。

このゲームができるとドローンオペレーターに向いているとされる(出典 Amazon)

 後者の記事ではウクライナの教訓を取り入れているように見える米軍が、実は教訓を学んでいないのではないかという疑念を抱かせるものだ。米陸軍は専従のアナリストを割り当てているものの、他の軍種ではリソースが割かれていない。特に海軍はどのようなアプローチをとっているかも不明であり、海兵隊は他の軍種や同盟国からの情報頼みとの状態だ。
 noteをご覧の読者の皆様ならわかるように、今回のウクライナにおける戦争ではウクライナ・ロシア側双方から様々な情報が発信され、戦争の様子がわかるような投稿も多い。そうした情報から分析するだけでも得られる教訓は多いはずであり、ある程度の人員を貼り付ける価値もある。ウクライナでの戦争は、将来アメリカが戦うかもしれない戦争とは異なるかもしれない。しかし日露戦争が第一次世界大戦を先取りしたように、地域レベルの戦争が後の大戦争と同じ様相を迎えることもある。今回がそうでないと誰が言えるだろうか。(以上、NK)

日露戦争は総力戦の嚆矢となった(出典 Amazon)

 米軍がウクライナで何を学んでいるのかについて記事を読んで思ったのは、意外にも教訓収集、といっても戦略レベルの教訓ではなく、作戦レベル以下の教訓ですが、実はアメリカも大してできていないと言うことです。
 特に、この作戦以下のレベルにおける教訓収集は、最低でも技術的および運用現地からの収集が必要です。例えば技術的な側面からの評価はかなり重要で、本記事にあるように、最新の兵器やドローン運用における電磁スペクトラムを記録したり、分析したり、技術的側面からの工夫、任務や相手に合わせてカスタムした装備品等の情報を収集することは非常に有益だと思います。そこで戦っている彼らが血を流して得たものですから、非常に価値があるものです。
  また、運用上の評価や最新の運用状況について、軍事専門家自ら確認することが必要です。現場と距離がある学者の方々の客観的意見も大事ですが、実際訓練を日々行っている現場の隊員がそのウクライナの戦術レベルの教訓を取り入れることも重要です。
 他方、自衛隊がこの紛争からどの程度教訓を蓄積、共有して訓練に反映しているのかに目を向けてみると、目立った反映ができていないように感じます。現在、分析中(いつものパターンだとこの分析と落とし込みに数年かかる汗)であり、まだ部隊レベルに落とし込めていないのが現状でしょう。
 防衛省全体として全体の状況の推移であったり、概要についてはフォローアップはされています。ただそこから作戦レベル戦術レベル、特に戦術レベルの中における教訓の組織的な活用についてはちょっと疑問ですね。
 もちろん運用上の教訓はオープンにできないので、こちらとしても知ることは困難ですが、得られた教訓事項を組織的に訓練落とし込んでいるのか、それが意味のあるものになっているのかを考える必要があると思います。ある部隊が、ドローン対処訓練をSNSにあげていましたが、目視での捜索なんてほぼできませんし、小銃での対処なんて、ウクライナ兵が見たら鼻で笑われてしまうと思います。
 こういう投稿を見ると、正しく技術的、運用的知見を取り入れた教訓の反映の重要性が理解できますし、付け焼き刃の中途半端な訓練、いわゆるやってますアピールの訓練を投稿することが自衛隊のしょぼさを内外に知らしめることになってしまうのと心配してしまいます。
 教訓の反映は、組織的にできるかどうかが重要になりますが、個人的に意識が高い部隊長等は自分の裁量の中で訓練に取り込んでいると思います。ただ専門性が高い方のアドバイスを受けたり、より運用に踏み込んだり、編成にこだわったりという専門的な見地からの教訓の反映は極めて不十分であると感じてしまいます。
 例えば、今回の記事の中で米軍のドローン小隊の編成を新しく作ったりしていると紹介されています。どのようにドローンを使って任務を達成するか、そのためにどのような編成が効率的かよく考えられていると思います。
 例えば小隊の中にスティンガー手や探知機操作手、ジャミング電子システムのオペレータ、そしてドローンオペレーターをうまく配分して任務を達成するようしています。それからドローン部隊が火力調整も可能であるということも非常に面白いと思います。
 これらの機能だけで充分なのかと言うのは、もう少し分析して議論する必要がありますが、少なくともこれだけの機能が必要と教訓を得て、実際に米軍として編成していることは参考にしなければなりません。 
 ただ、米軍自体も直接ウクライナ軍から教訓を収集できていないとのこと、実際かなりの支援を行っているので、ほんとかな、と思ってしまいますが、日本も公刊文書やオープンソースの教訓収集と僅かな防衛駐在官からの情報収集のみに頼るのではなく、本気で陸海空+民間チームでウクライナに教訓収集をしに行くのもアリかもしれませんね。彼らは血を流して日々戦い方や技術を改善しているので、安全なところから、「ハイ、成果を教えてください」なんて甘い。できる限り現地に足を運び、そこから真摯に学ぶことが重要だと痛感します。(以上、CiCi)

タイヤでAIをだませるのか?ーロシア軍のタイヤを使ったデコイに対する米軍の評価ー

概要
The War zone に2024年9月13日掲載(記事本文
原題 "Russia Covering Aircraft With Tires Is About Confusing Image-Matching Missile Seekers U.S. Military Confirms"

要旨
 最近ロシア軍が航空機の上にタイヤを置いていることが報じられていたが、それは画像照合機能を持つシーカーを混乱させるためであったと、米中央軍(CENTCOM)の上級技術担当者が指摘している。米中央軍(CENTCOM)初の最高技術責任者であるシューラー・ムーアは戦略国際問題研究所(CSIS)主催の人工知能(AI)と関連技術に関する座談会の中で、空軍基地への攻撃を妨害するためにロシア軍がタイヤを使用することについて言及した。

ロシア軍は戦闘爆撃機にまでタイヤを載せて誤魔化そうとしている

 ロシア軍がこの戦術を採用した背景には、ウクライナ軍が赤外線画像シーカーを使用するネプチューン地上発射対艦巡航ミサイルを投入したことがあると指摘されている。特に、赤外線シーカーを搭載したミサイルは、従来のジャミング技術では対応しにくいため、ロシア側がこうした対策を行ったとのことだ。
 記事ではロシア軍が航空基地の駐機場に航空機のシルエットを描いたり、海軍基地に潜水艦のシルエットを描いたりするなど複雑な欺瞞手段を用いていることも言及されている。

駐機場にシルエットを書いて欺瞞を試みたロシア軍

 ムーアは、AIを使用したターゲティングシステムに対するこのような対抗策の有効性を指摘し、現場で柔軟にデータセットを更新できる能力の重要性を強調している。このようなロシアの戦術は、米軍や他国にとっても無視できない課題であり、特にAIや衛星技術の進化に伴い、将来的な戦闘準備において重要な教訓となっている。

コメント
 タイヤで赤外線シーカー付きミサイルを騙すというアイデアはわからなくはないが、いつも実験で見ているAI物体検出なら検知できそうだなと思う。もっともウクライナ軍や米軍が使っているシステムなら結果は違うのかもしれないが・・・
 記事にあるようなタイヤなり絵なり、ローテクだろうがハイテクだろうが全てを動員して相手の使う技術を無効化する術を見つけ出すことは現代の戦場では必須である。なぜなら相手の使う技術を無力化できるまでの間、敵側によってその優位性を好きなだけ利用されてしまうからである。
 同時にムーア氏が指摘するように、相手の欺瞞に対してできるだけ早急に対応して相手の対抗策を無力化しなければならない。このようにある技術とそれに対抗する技術のイタチごっこが繰り広げられるが、重要なことはいかに早く相手の技術を無力化し、できる限り自分の側の優位性を維持することである。このためには開発のスピードを早めることが必要になるだろう。

追記:ロシア北部コラ半島にあるオレニア空軍基地にある爆撃機にもタイヤが装着されているとのことだ。この記事によると、2024年8月の衛星画像にはTu-95MS爆撃機の各翼には12本から20本以上のタイヤが装着されており、Tu-22M超音速爆撃機は、折り畳み式の翼と胴体の両方にタイヤが装着されているとのことだ。タイヤ戦術がロシア国内で広まりつつあることが伺える。(以上、NK)

オレニャ空軍基地のTU-95MS爆撃機の翼の上にはタイヤが 設置されている(出典 Google Earth)

 NKくんの「いつも実験で見ているAI物体検出なら検知できそうだな」この言葉の通り即「航空機」と分別した(笑)というかシルエットを隠さねば意味がない。これは自身のコメントで見てみて!
 まあこのニュースの印象として、ロシア軍のタイヤで偽装する考えもヤバいが、それをバカの一つ覚えみたいに真剣に意見しつつAI云々言ってしまう米中央軍(CENTCOM)初の最高技術責任者であるシューラー・ムーアさんもヤバいという軍事大国の民生技術に対する知見と経験の無さが露呈していると思うんだな。
 例えばこれまで防衛産業が示すチャンピオンデータや製品ばかり見てきた事による諸症状ではないかな?同時に米軍のAIに対する知見の現在地を示しているのかも知れない。これならいっそのこと滑走路と同化を錯覚させるトリックアートの方が検知されにくいかもね。(以上、量産型カスタム師)

その男FLASHにつきーウクライナ戦争で繰り広げられる電波戦を支えるダークヒーローー

概要
DroneXL に2024年9月14日掲載(記事本文)
原題 "Drone Warfare in Ukraine: The Unlikely Hero Fighting with Radio Waves"

要旨
 セルヒイ・"フラッシュ"・ベスクレストノフは無線マニアからドローン専門家へと転身した人物である。彼は、その知識を使ってドローンの絶え間ない脅威と戦うウクライナ軍の通信専門家のためのサポート・サービスを立ち上げ、彼らの質問に答え、複雑な無線技術の世界をナビゲートする手助けをしている。その結果、ウクライナの地上軍司令官と国防省の双方から表彰された。

ウクライナ軍から表彰されたFLASH氏

 彼が無線機いじりを始めたのは幼少期のことであった。彼は、ソ連軍の大佐であった父親が持ってきた壊れた無線機をいじり始め、西側の人々と交信をしていた。彼はその経験を「大きな世界への開かれた扉のようなもの」だと述べた。
 彼はその後、軍の通信大学に進んだが、すぐにウクライナ軍が汚職と投資不足に悩まされていることに気づいた。 彼は民間企業に就職し、最終的には通信会社ボーダフォン・ウクライナの前身となる会社の部長になった。
 フラッシュはワーゲンのバンにアンテナを装備するなどして改造し、移動無線情報センターを作り上げた。彼はそのバンで最前線に赴き、ロシア軍のドローンの信号を記録し、SNSを通じてウクライナの兵士達に敵のドローンの信号を見分ける方法を教えている。
 同時に彼は新しいドローン技術やジャミングについてのアドバイスも共有している。例えば彼は自分のテレグラムチャンネルで、ウクライナ軍の一部の戦車が使用しているジャマーが彼ら自身の通信をジャミングしていることを指摘し、その解決策も共有した。

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