第27号(2024年6月7日)跳梁する中国軍の大型ドローンとその課題。そして軍事転用されるブロックチェーン(4月期)
皆さんこんにちは。第27号では4月期の話題と論文を中心にご紹介します。
中国軍の偵察ドローンが初めて日本海を飛行
概要
朝日新聞DIGITAL に2024年4月23日掲載(記事本文 )
要旨
中国軍のWZ-7偵察ドローンが3月26日に初めて日本海を飛行した。WZ-7は高度6万フィートを長期間飛行することができる機体と言われている。航空総隊司令官を務めた武藤茂樹元空将は、日本海で活動する米軍や韓国軍、自衛隊などを含めた船舶の情報を収集した可能性を指摘し、WZ-7がELINT(ELectronic INTelligence:電子情報収集)機能を持っていれば、日本に対する電磁波情報を収集した可能性も考えられるとコメントしている。
またWZ-7が大陸方面から飛来したことについては、ロシアが領空の通過を認めたのではないかと同氏は推測している。加えて今後は無人機による領空侵犯は今後増えることが予想されるが、中国軍の無人機が長期間にわたり自衛隊の活動を情報収集するようになれば、訓練の制約が増えるなど自衛隊の活動が制限されることになると同氏は警鐘を鳴らしている。
コメント
今回目撃されたWZ-7は台湾海峡付近や日本海だけではなく、他の地域でも目撃されている。例えば2024年4月にはフィリピン付近で飛行するWZ-7が目撃されている。
この飛行は、4月に米軍がルソン島に配備したタイフォン地上発射型ミサイルに関連した件と関連したものと見られている。WZ-7の利点は、その長距離飛行能力にあり、中国本土から離れたところの状況認識能力を向上させることができる。
余談ではあるが、以前台湾の防空識別圏へ、中国側がどのような機体を何機侵入させているかということを調べていたことがあった。その当時台湾の国防省がTwitterでどの種類の機体が何機侵入したかを適宜公開してくれていたので大いに助かった。しかし今では公開してくれなかったので調査が難しくなってしまったのは残念だ(以上NK)
ついにグローバルホークのパクリと言われたWZ-7が日本海上で目撃されました。こちらの記事も参考にどうぞ。
WAR ZONEの記事(こちら)ではグローバルホークの能力には及ばないと書かれています。マシンスペックはそうだと思います(HALE機って燃費やほぼ酸素がないところを長時間飛行する特性から、結構繊細です)。
ただ、パクリでも自国で生産した大型無人機を自分たちで飛ばして任務をしている(そして、その後恐らく無事に帰還している)ことだけ見れば、運用ノウハウの蓄積は自衛隊より人民解放軍の方が進んでます。
そしてそれに対してF-15でいつまで対応できるのかというのもポイントです。サラミスライシングは今に始まった話ではありませんし、日本の自衛隊の練度が低いわけではありません。しかし有人機の改修や機種更新を段階的に行ってこず、ISR機のような非戦闘作戦機に体力が回らないというのは残念 なことだと思います。
あくまで私見ですが、以降10~20年は従来の有人機の維持更新に金と人が集中することになりましょう…。こうなると非対称性が大きくなるわけで、これを人民解放軍の「専制主義国家クオリティ」をアテに無策なままでいるのは悪手だと考えます。 (以上S)
迎撃ミサイルのコスト高と生産不足という限界
概要
Wall Street Journal に2024年4月19日掲載(記事本文 )
要旨
イランが4月13日にイスラエルに向けて多数のドローンとミサイルを発射したが、イスラエルはそのほとんどを迎撃することができた。しかしこの攻撃は、攻撃と迎撃におけるコストパフォーマンスの問題を浮き彫りにした。
13日にイランがイスラエルに行った攻撃は、弾道ミサイル120発以上、巡航ミサイル30発以上、ドローン約170機と大規模なものであった。イスラエルはこの大規模攻撃をうまく乗り切ることができたが、もしウクライナのように長期間の戦争を戦っていたなら迎撃できたのだろうか?
戦略国際問題研究所(CSIS)のミサイル防衛プロジェクト責任者トム・カラコ氏は「イスラエルはかなりうまくやったようだが、迎撃ミサイルを大量に消費したのは痛かった」と指摘する。事実ウクライナはここ数年のロシアの攻撃により、ミサイル不足に悩まされており、迎撃率の低下を招いている。
また今回の迎撃には巨額の金額が費やされている。イスラエルにある国家安全保障研究所(INSS)のイェホシュア・カリスキー研究員によると、イスラエルが今回のイランによる攻撃の約半分を迎撃するのにかかった費用は、21億イスラエル・シェケル(約856億円)余りと試算されている。
攻撃に使われた弾道ミサイルやドローンと、迎撃に使われる兵器のコスト差を考慮すると、攻撃側は迎撃ミサイルよりも少ないコストで攻撃することができている。
加えて迎撃ミサイルの在庫不足も指摘されている。ロケットモーター等の部品不足により、迎撃ミサイルの供給が間に合っていない。
例えばスイスは2022年にパトリオット5基を発注したが、1基目が届くのに6年、運用開始にさらに1年かかると明らかにした。こうした問題を解決するために、米国やイスラエルはレーザー兵器や、高出力マイクロ波兵器の開発を進めている。
コメント
今回のイスラエルの攻撃でかかったコストの話がでていたが、米軍も迎撃コストの問題に直面している。去年から続くフーシ派のシーレーン攻撃に対応するために、米海軍は艦艇を派遣してシーレーン防衛を行っている。
先日カルロス・デル・トロ海軍長官は、米海軍は去年10月からの作戦で10億ドル、日本円にして1549億円を費やしていると指摘している 。
ちなみに米海軍は、イランが行ったイスラエルへの攻撃への迎撃でSM-3を4から7発使用しているが、1発あたり1発970万ドルから2790万ドルと言われており、最高で1億9,530万ドル(約302億6,030万3,688円)を費やしたことになる。
今回のイスラエルへの攻撃はある意味プロレスのような一過性のものであるため、このような迎撃ができたが、記事で指摘されているように継続した起こるようなら違う対応が求められるだろう。
同時にここまで攻撃と迎撃のコスト差があるなら、攻撃側の優位性が高まってきているのではないかと考える。(以上NK)
NHKの記事(こちら)が割とサクっとまとめてくれていますが、今まで使われていたミサイルって、マジで高いんですよ!
米海軍が使ったSM-3は日本にも配備されている(上、更にブロックⅡA以降は研究開発に加わっている)のですが、もし自衛隊が使えばほぼ同じようなコストがかかるんですね‥‥。更に整備や補給にも多数の資源が割かれますから、膠着すればたちまち国が傾きます。しかし今までのいわゆる西側諸国は、湾岸戦争(まああれもあれで色々ありましたが)のように圧倒的な戦力差で薙ぎ払うスタイルを確立できていたので問題にならなかっただけであり、今まで胡坐をかいていたことを反省しなければならない状況であるのは間違いないと思います。
現代の高額化・精密化し過ぎた兵器はこのような「湾岸戦争レジーム」の遺物とも表現できるでしょう。これらのプレミアムな兵器は多数の配備を前提としていない一方、シャヘドのような徘徊型兵器でも一発約2万ドルとされるドローンは大量に配備するのがセオリーとされています。このある種の「チートだ!」とも嘆きたくなるような非対称戦環境がどのように出来ていったのかは非常に興味深いですが、今のような超非対称環境で戦うことはなるべく避け、まずは早急に現状を正しく認知し、速やかに講じることができることを全力ですべきだと思います。 (以上S)
プロジェクトコンバージェンスで探究される無人アセットとAI活用
概要
Foreign Policy に2024年4月6日掲載(記事本文 )
原題 "America’s Next Soldiers Will Be Machines"
要旨
カリフォルニア州フォート・アーウィンにある演習場で仮想敵として訓練に参加したアイザック・マッカーディ中尉と彼の歩兵小隊は、今までとは全く違う敵と交戦していた。それはロボットであった。8輪駆動のUGVに搭載された火力は遮蔽物に隠れた人間を炙り出し、空に滞空するドローンは爆弾を真上から投下してきたのであった。
米軍はフォート・アーウィン演習場で「プロジェクトコンバージェンス」という実験演習を主催し、様々な無人アセットを投入して戦闘訓練を行った。この演習では陸軍の多目的輸送UGVや犬型UGV及びドローンが用いられた。これらのアセットは歩兵部隊と協力しながら、架空の都市「アジェン」において市街地戦闘を行った。
米軍の上層部は、次の大規模戦争にて第一線にロボットを投入することを想定している。その狙いは基礎訓練を終えたばかりの19歳の二等兵ではなく、ロボットを戦場で最も危険な場所に配置することだ。
米陸軍トップのランディ・ジョージ将軍によると、間もなくほとんどすべての陸軍部隊が上空でドローンを感知し、保護し、攻撃することを目指しているそうだ。
またプロジェクトコンバージェンス演習は実験であり、現実的な戦闘シナリオでロボットをテストするために設計されたものである。したがって実戦投入においてはまだ課題も多い。具体的には、ロボットには周辺視野がなく、探知範囲が限定されることや、陸軍の時代遅れのネットワークによって何百機ものドローンを常に同時に上空に待機させることはできず、敵味方の識別もできていない状況にあることなどだ。
またこの演習は多国間演習であり、例えばカナダ軍はAIによる物体検出を実験している。
コメント
プロジェクトコンバージェンスが行われたフォート・アーウィンは町から遠く離れた巨大な演習場であり、演習場内には14の架空の都市と1200の建物が存在する。この演習場の利点は、記事にもあるようにドローンの運用や電子戦を制限なしに行える点にあるだろう。
こうした演習場は日本にも欲しいものだが、国内では厳しい。しかしわざわざアメリカに行くのも困難であるため、やはり日本に近い国でこうした演習場を確保する必要があるだろう。
また米軍でも、ドローンの敵味方識別ができていないとの指摘は興味深い。我と敵のドローンが同時に多数飛行しているような状況を前提とすると、敵味方のドローンの識別は必須と言える。加えてその識別の結果を部隊の最末端まで共有する必要もあるだろう。ドローンの識別問題については面白い記事を見つけたので別記事にて紹介したい。
なおカナダ軍のAIによる物体検出についてはアノテーション職人である大規模攻撃氏のコメントをもらった。大規模攻撃氏のコメントは以下の通りである。
「映像を見るにカナダ軍のこの実験には、私服の人間、民間人が参加しているように見て取れる。軍民両用技術の特徴として、民間企業の能力を軍事に転用し易いことが挙げられる。このような取り組み方を評価し、真似するべきであろう。武装していた兵士らしき人間が、50%の確率で民間人と表示されており、現段階では未だ精度に問題がある。一方でこの実験によって、学習用のデータを獲得できれば改善していくだろう」
(以上NK)
プロジェクトコンバージェンスについては度々報じていますが、米軍がこうしたプラグマティックな活動を実施できることは、繰り返しになりますが大きな強みとなっています。多くの国の軍が権限がないか、予算がないか、又はその両方がない状況です。プロジェクトコンバージェンス自体は こちらにもあるようにその前身のプロジェクトクオーターバックから5年ほど続いている(一般の経営でいうところの「探索」に近い活動に分類されるものと認識しています)訳ですが、短期的には投資効果が現れない一方、長期的には最重要である実験的な取組みを継続できていることは高く評価すべきですし、範とするべきでしょう。 (以上S)
【論文】軍事におけるブロックチェーン技術の可能性を探る
概要
インドの科学技術シンクタンクEsya Center所属のMegna BalとMohit Chawdhryが、インドのシンクタンクObserver Research FoundationのジャーナルGrobal Policy-ORF 2024年2月12日号「Future Warfare and Critical Technologies: Evolving Tactics and Strategies」に発表(記事本文)
原題: Exploring the Utility of Blockchain in Military Operations
要旨
ブロックチェーン、あるいは分散型台帳技術(DLT)は多くの人々を魅了し、その軍事的応用の可能性にも注目されている。
2008年に世界的な金融取引のための分散型ピアツーピア(P2P)の仕組みとして開発されたブロックチェーンは、通信、兵站、ロジスティクス、サイバー戦争など、様々な戦闘領域に応用できる可能性がある。
しかし、この技術の歴史の浅さや、ブロックチェーン固有の特性も、軍事面の採用における課題となっている。本論では、ブロックチェーン技術の軍事応用の可能性について、既存の学術文献や著名な研究事例に基づいて検討する。
いくつかの先進的な軍隊がブロックチェーン技術を試験的に導入しているほか、ウクライナ戦争では資金調達に暗号通貨が積極的に用いられてきた。しかしほとんどのケースは試験的なものであり、ブロックチェーン技術の軍事作戦におけるその有用性は現在のところ完全に実証されてはいない。
今後世界の軍隊でブロックチェーン技術の制度的な導入がなされるかは未知数である。
興味深い点
上記の説明が示すように、ブロックチェーン技術のいくつかの側面は軍事作戦に有用である。
1. 不変性: ブロックチェーン技術は、高度な暗号化技術とタイムスタンプを導入することで、記録の不変性と改ざん防止を実現している。
2.証明性: 台帳に保存された不変の取引チェーンは、オンチェーンでもオフチェーンでもアイテムの証明性を図にすることができる。
3. 検証: ブロックチェーンは合意に基づく取引の検証に依存しており、台帳に記録される前にすべての利害関係者が記録の状態に同意することを保証する。
ブロックチェーンの種類は、軍事での使用要領を検討する際にも関係する。大別すると、許可制と許可を必要としないものの2種類がある。許可制のブロックチェーンでは、バリデーター(ブロックチェーンに記録されるデータの妥当性を検証するノード)は既知であり、ネットワークに参加するためには特別な許可を得る必要がある。
許可を必要としないオープン・ブロックチェーン・ネットワークでは、適切なソフトウェアがあれば誰でもノードとして機能し、取引記録を検証・維持することができるが、運用の完全性、セキュリティ、機密性の必要性を考えると、ほとんどの軍事作戦での有用性は限定的だ。
しかし、パーミッションレスのブロックチェーン・ネットワークが、制裁の回避など、戦争遂行を促進する間接的な役割を果たす例もある。
ブロックチェーン技術を取り入れることで、こうした課題の多くに対処できる可能性がある。例えば、国防調達に関わる関係者の身元確認を可能にし、潜在的な漏えいリスクに栓をすることができる。ブロックチェーンと無線自動識別(RFID: Radio Frequency IDentification)などの他の追跡技術を組み合わせることで、軍隊はリアルタイムで物品を追跡し、武器の在庫を監視することができる。
また、記録が漏洩する可能性も制限される。さらに、ブロックチェーンの改ざん耐性と不変の性質は、調達関連文書が腐敗を促進するように操作できないことを保証する。
こうしたことを考慮してか、米空軍と韓国軍はブロックチェーンベースの調達ネットワークを開発するプログラムを開始した。米空軍は、政府のブロックチェーンサービスを提供する企業SIMBA Chainと契約し、武器やその他の装備品のリスク特定と脆弱性の軽減を可能にするブロックチェーンベースのサプライチェーンネットワークを開発した。
同様に、韓国の国防調達計画庁は、他の政府機関や民間企業と協力し、不正行為を減らし、全体的な効率を高めるDLTベースの武器物流ネットワークを開発している。
重要なことは、どの技術的ソリューションも特効薬ではないということだ。ブロックチェーン技術は、関連するステークホルダーに対応するノードのネットワークを構築することで、内部の透明性と情報の不変性を実現することができる。
しかし、これらのノードの50%以上がシステムの無効化(情報の削除や改ざん)を望めば、侵害される可能性もある。同様に、ブロックチェーン技術によって出所追跡や身元確認は可能になるが、オフラインでの漏洩や、武器在庫がシステムに入力される前に持ち出されるような不祥事を解決することはできない。
ブロックチェーン・ベースのフレームワークは、こうした問題に対処できる可能性がある。ブロックチェーンは暗号化され、分散化され、非中央集権化されており、通信を保護し、単一障害点を持つ中央集権システムの限界を緩和する。
英国国防省は、暗号管理システム(CMS: Cryptography Management System)を構築し、陸海空軍すべてが使用する主権安全保障アーキテクチャのセキュリティを支援している(S注:こちらの企業が提供しているようだ)。
CMSは分散型アプリケーションで、国防省が通信機器や暗号鍵のライフサイクル管理を行い、進化するグローバルなサイバーセキュリティの脅威から機密情報を守るのに役立っている。
米国国防高等研究計画局も同様に、2016年に分散型台帳を使用して暗号化された方法で機密を放送する安全なメッセージングシステムの情報提供を求める通知を出した。
現在軍事技術で使われているデータ環境とは異なり、ブロックチェーンはネットワーク全体の力を集約して悪意ある攻撃をかわすため、比較的弾力性があり、堅牢である。さらに、ブロックチェーン・ネットワークの分散されたP2Pネットワークは、サイバー攻撃によるデータの不正改ざんや再構成の確実な検知に役立つ。
ブロックチェーン・ネットワークのこうした特徴から、米国、中国、ロシアはサイバー防衛メカニズムとしての活用を模索している。ロシア国防省は2018年、サイバーセキュリティ攻撃を軽減するためのDLTの応用を検討する専門ラボを設立した。
中国メディアの報道によると、同国の軍も情報システムを保護し、ネットワーク上のデータの信頼性を向上させるためにブロックチェーンの採用を検討しているという。
米国では、2018年の国防権限法により、国防長官がブロックチェーン技術の攻撃的・防御的サイバー能力について議会に説明することが義務付けられた。
現在、世界中の軍隊が無人機や無人航空機(UAV)を監視や戦争作戦に使用している。このような無人機は遠隔操作され、通常は無線ネットワークに依存して情報や指示を受信する。
しかし、調査によると、軍事作戦に使用されるドローンの多くには重大な設計上の欠陥があり、無線セキュリティ保護や暗号化が施されていない。この欠陥により、ドローンは傍受、操作、ハイジャックを受けやすくなっている。
ブロックチェーン技術の根底にある特性、すなわちハッシュ化、暗号化、分散化は、ドローンのセキュリティに効果的なソリューションを提供できる。2019年の論文によると、ブロックチェーンに基づくハッシュ化と暗号化は、ドローンと管制局間の安全で弾力性のある通信の基礎を形成し、第三者による妨害を防ぐことができる。
さらに、DLTはドローンやドローンスウォーム内での安全な通信の基盤も形成できる。ドローンスウォームの管理におけるブロックチェーン技術の利用に関する情報は限られているが、中国のメディア報道によると、軍は群れの運用制御にブロックチェーン技術の適用に取り組んでいるようだ。
ウクライナは、戦争への取り組みを強化するために暗号資産に目を向けた。最新の報告によると、さまざまな暗号資産を通じて2億1200万米ドルを超える資金が調達され、同国の軍事的・人道的ニーズに大きく貢献していることが示されている(図)。
これには、防弾チョッキ、ヘルメット、地雷除去ツール、無人機などの重要な軍事装備を購入するためのウクライナ政府への直接的な財政支援も含まれている。
さらに、難民のための主要な国際組織である国連難民高等弁務官事務所も、ウクライナの人道支援を行うため、70以上の暗号資産による寄付を受け入れている。
戦争犯罪の記録は、複雑で繊細なプロセスである。アクセスしにくい紛争地域、一刻を争う資料、多様で特殊な収集方法の必要性は、しばしば証拠収集の妨げとなる。さらに、真正性を確保し、保管の連鎖を維持し、技術的な複雑さを乗り越えるには、検証が課題となる。
ブロックチェーン技術は、こうした課題に対する潜在的な解決策として浮上してきた。例えば、スタンフォード大学USC校の非営利団体スターリング・ラボは、改ざんを防ぐためにブロックチェーン技術を用いて、ロシアがウクライナで犯した戦争犯罪を文書化した。複数のコピーが保管され検証される分散型台帳に証拠を置くことで、真実の完全性が保たれる。このプロセスによってデータの出所が証明され、検察は現場から法廷まで改ざんされていないことを示すことができる。
コメント
あくまでレビュー論文の域を出ない内容ではありますが、興味深い題材でしたのでご紹介します。
ブロックチェーン技術は様々に活用されており、例えば現代美術においても、NFTの作品又はNFTが付属した作品(現実で作品を購入するとNFTが付いてくる)が増えました。
確かに許可制のネットワークと、オープンなネットワークのそれぞれの特徴を踏まえた活用が必要である上、軍隊どころか市井においても専門家が十分育っていないことを考慮すると、制度的な導入に至るにはハードルがまだ高いと考えられます。
しかし、今後ハードウェアがより効率化され、上手く使えば高いセキュリティを確保し、それを担保にした柔軟な取組が可能であると期待します。
特に興味深かったのはドローンスウォームの通信に応用しようとしている取組と、ウクライナ戦争での寄付金ですね。確かにDJI社等のドローンにはセキュリティ上の穴があることが分かっています。そこを活用するのが量産型カスタム氏のような方々の腕の見せ所なのですが、DLT技術を用いて自分たちに利するようにカスタムできたらと思うと意義深いものだと思います。
また、ウクライナ政府や国連機関でも暗号通貨での寄付が可能になっていることが述べられていますが、能登半島沖地震の義援金も暗号通貨で寄付できるようになっています(こちらの記事)。
ただこれは民間企業による取組です。ぜひデジタル庁には頑張って頂いて、ウクライナや国連に追い付いてもらいたいと思う一方、演算量の多さが引き起こす環境問題や価値の不安定性など、普及するにつれて考える必要がある課題もあるかと思います。
防衛省ではあまり注目されている印象はありませんが(ネットワーク換装でてんやわんやしているくらいですから…)、今後世界の軍隊で研究されていくテーマの一つになっていくと考えられます。(以上S)
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