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第41号(2025年1月17日)真珠湾攻撃2.0は観光ドローンから、そして米国防総省の対ドローン戦略を解説(2024年11月期)

あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。今号は2024年11月期の話題を中心にご紹介します。


ブラッドレー装甲戦闘車に接続されるテザードローンー戦場をドローンとお散歩しませんか?ー

概要
Ronkainen に2024年11月14日掲載(記事本文

要旨
 
米軍はM7A4BFISTブラッドレー装甲戦闘車にドローンをテザーで接続して運用している様子を公開した。使用しているドローンはHOVERFLY社のドローンと見られている。

コメント
 テザー付きのドローンが装甲部隊に配備されるという話を以前紹介したが、その実物が目撃された。このBFISTは偵察部隊に配備されているようだ。以前私が「装甲部隊にテザー型のドローンを配備するという話があったが、おそらく車両に連結させて、部隊の上空に常時滞空させることを目指しているのではないかと推測する。そうなると高所からの視界を確保することでセンサーとして、このテザー型ドローンを運用しようとしているのではないかと思う」とコメントしたように、偵察用途には適切である。
 しかしテザー型ドローンには欠点もある。このツイートにもあるように、範囲が限定されたり、敵によってテザードローンが発見されることで接続先の母機の位置も判明してしまうリスク、障害物にテザーがからまるといった欠点だ。
 加えて興味深い指摘もあり、このツイートはテザーにすることでドローンの紛失を防げるから配備されたのではないかと述べている。確かに以前紹介した記事で、ドローンを無くした米軍兵士が捜索をさせられて大変な目にあったという話があった。米軍もまた官僚組織であることを考えると、この指摘には説得力がある。
 おそらく自衛隊もテザードローンには興味を持つだろう。紛失もしないし、ドローンに関する規制からも逃れることができるからだ。装備品は性能の良し悪しだけでは採用されないということの証左かもしれない。(以上、NK)

 同志NKの最後の指摘は重要だ。日本においてはしばしば兵器の、それもシステムとしてではなく、それ単体の性能が話題になる。しかし実際の調達や運用においては良かれ悪しかれ、いわゆる大人の事情のみならず社会環境や運用する組織の構造も大いに影響するということだ。これは兵器が人間の社会の中で人間の道具として使われる以上、当然のことなのだ。
 さてテザードローンを装甲車につけるのは野戦ならばよいかもしれないが、市街戦では電線・看板・歩道橋・信号と低空の障害物がわんさかある以上、タクシーの提灯や選挙カーの看板のようにぶつけかねない。
 そうなると市街地を予定戦場とするならばテザードローンは事故を起こすか、搭乗員が常に周辺環境を気にしなければならなくなる。少なくとも市街戦で満足に扱うならばテザードローンと非テザードローンの双方がなければダメだろう。
 規制回避と防衛調達の問題については文末で触れよう。(以上、部谷)

いわゆるタクシーの提灯殺し 出典:グーグルマップ

FPVドローンにそっぽをむいたカナダ軍の今

概要
Ottawa Citizen に2024年11月22日掲載(記事本文
原題 "No plans to buy first-person drones for Canadian Armed Forces"

要旨
 ウクライナや中東で急速に広まった安価なFPVドローンについて、カナダ軍は現時点で調達予定がないと表明した。これらのFPVドローンは数百ドル程度でも購入可能で、リアルタイム映像を見ながら攻撃・偵察ができ、ウクライナやガザ等多くの紛争地域で重宝されている。米陸軍もFPVの導入実験を進めており、2025年にプログラムを導入し2026年には最初の部隊配備が始まる予定である。
 一方カナダ軍は現時点では、FPVドローンの導入を行う予定はないという。カナダ国防省の広報担当者であるアレックス・テトルーによると「現時点では、国防省/カナダ軍は、実戦使用のための一人称視点ドローンの調達を現在行っていないし、計画もない」と回答した。同時に将来的には監視及び攻撃用ドローン一式と対ドローン能力の取得に向けた調査を進めていると述べた。カナダ軍はTeal 2ドローンを米国から400万ドルで50機導入しており、カナダ陸軍と海軍に配備されているという。また米軍が使用を承認している小型ドローンを購入することにカナダ軍は前向きだとのことだ。
 さらに将来的には大型攻撃型のMQ-9Bリーパーを11機購入予定であり、北極圏で運用するための改修に伴い納入は2028年に遅れる見通しである。
オタワ近郊にはドローン運用施設を新設し、約200名の軍人が勤務する予定である。こうした取り組みにより、カナダ軍は従来型ドローンを中心に防衛力を強化しつつ、FPVドローンの導入は見送る方針を示している。

ウクライナへのスカイレンジャーR70ドローンの供与を発表するカナダのビル・ブレア国防大臣

コメント
 
各国でFPVドローンの導入が進んでいる様子はこのnoteでもお伝えしてきた通りだ。例えば第35号で台湾軍がFPVドローンの実験部隊を設立した記事を紹介し、第36号では英軍がFPVドローンパイロットを育成する様子をお伝えした。そうした中でカナダ軍は現時点においてはFPVドローンを導入しないという判断を下した。この判断がいかなる見積もりによって実施されたものかが気になる。
 加えて米軍が使用を承認した小型ドローンを購入する方針だとのことだが、これは米軍の試験評価プロセスに対する信頼があるからこその方針なのだと考えられる。ただ自分で使ってみるからこそわかることはあるのではないだろうか。(以上、NK)

 FPVといっても色々なタイプがあるので一概に導入しない決断を非難すべきではないのかも知れない。例えばウクライナのように日々消耗を継続的にするのであれば人材育成をしながら安価な自作機がコストと目的で合致している。
 一方でガザ地区でイスラエル軍が使用するのは市街地や狭所含め偵察として市販の安価で操縦が容易なDJI AVATA日本では電波法の関係で発売されていない)、攻撃を兼ねる場合には自国メーカーのXTENDもしくはElbit SystemsのLANIUSといった軍事用FPVドローンである。

ロシア軍の操作する日本未発売のDJI AVATA

 オイラの経験として、訳あってXTEND社の偵察用FPVを操縦した経験があるが、これは自身のコメントコーナーで詳しく。いずれにしても上記のどちらでもない状況かつ人材育成やドローンの運用目的などが関係してくる上で、ある種の割り切った決断なのかも知れない。
 また、現在カナダ軍で導入されているTeal社のドローンは米陸軍がSkydio採用に至った際の最終選考まで残っていたメーカーで、コンセプトは多少異なるがSkydioと比べて機能的に見劣りしない高機能な機体で、米国でも国境警備隊が使用している事や数年前には1オペ4台のスウォーム(群制御)操縦にも対応した事が発表された事がある。
 米軍と歩調を合わせるならSkydioだろうし、何らかの狙いと事情が見え隠れするこの決断は、調達が遅いのをわかっているのに「流行りものを法規制そっちのけで遅れて導入」する、まるで昨日までコンサバファッションだった奴が3年後に今流行りだからとHIP-HOPファッションします宣言(予告?)するような防衛省自衛隊のダサい感覚を持った連中は大いに見習って欲しいところでもある。だって今の流行りは3年後にはダサいでしょ…。
(量産型カスタム師)

英本土空軍基地に侵入する不審なドローンーSuspicious Drone is watching you!ー

概要
The War zone に2024年11月27日掲載(記事本文)
原題 "Drone Incursions Over USAF Bases In UK Enter Second Week"

要旨
 11月20日以降、英本土にある4つの空軍基地に不審なドローンが1週間にも渡り侵入していることが報じられている。空軍当局は未だに誰がドローンを飛ばしているか、なぜ飛行しているかといった事件の真相を掴むことはできていない。しかし明らかなことは、これらのドローンは愛好家によって飛ばされていないということだ。米当局者によると、これらのドローンはクアッドコプター(4つの回転翼)とオクトコプター(8つの回転翼)であり既成品と比べて洗練されているという。
 侵入を受けている基地はレイクンヒース、ミルデンホール、フェルトウェル、フェアフォードの4つの基地であり、これらの基地は米軍も利用している。またこれらの基地は米軍の貴重なアセットを運用している。レイクンヒースにはF-35AやF-15E、ミルデンホールにはKC-135空中給油機が配備され、フェアフォードにはB-1、B-2やB-52といった爆撃機のための欧州における前線作戦基地であり、加えてフェルトウェルは兵站基地としての役割を果たしている。レイクンヒースの広報担当者によると、飛来してくるドローンのサイズも構成も様々とのことだ。

レイクンヒース空軍基地 出典:Wikipedia

 英国のマリア・イーグル国防相は侵入に対処するため措置を講じていると述べており、警察のヘリコプター等のアセットが動員されていると見られている。米軍のF-15Eが発進する様子も目撃されており、これはF-15Eに搭載された照準ポッドで低空飛行するドローンを発見するためではないと指摘されている。
 ドローン侵入事案に対処するため、それらの基地に対して60人の英軍兵士が配備されたとの報告もあるが、英国防省はこれについてノーコメントである。また英軍が運用するNINJAカウンタードローンシステムが配備されているかということについてもノーコメントとのことだ。

NINJAカウンタードローンシステム 出典:レオナルド社

コメント
 
第39号で少しだけ触れた在英米軍基地に対するドローン侵入事案の詳報である。今回の事案ではF-15まで動員して対応せざるを得ない事態にまで発展している。以前お伝えしたように、米軍基地へのドローン侵入事件が相次いでいるがそうした事案は海外でも発生していることの証明だ。
 インド太平洋地域における前方展開拠点として、日本国内には多数の米軍基地が存在する。このことを踏まえると日本においても今回の英国のような事案が発生することは考えられる。否、いずも事案では米海軍横須賀基地にも侵入されていることを考えると、既に発生しているというべきだ。米軍は国内基地における対ドローン防護だけでなく、国外におけるそれも実施する必要がある。
 同時に受け入れ側の国も防護対策を進める必要がある。この事例においては当局は否定しているが、受け入れ国の英国は基地防護のために追加の人員及び対ドローンシステムを動員したと見られている。ドローン侵入事案が平時でも起こるなら、有事に発生しないわけがない。日本も今回の英国での事案を他山の石として研究すべきだ。

追伸 米空軍がレイクヒースにAIを使用した赤外線監視システムを導入する契約を結んだとのこと。これは今回の事案を受けた契約締結ではないかと推測している。(以上、NK)

 これこそ現代戦のパラドックスと多くの防衛省自衛隊の人間の多くがドローンを理解できない理由を象徴している。本件を簡潔にまとめれば100億円を超えるF-35戦闘機が満載の米軍基地に対し、数週間も民生技術のドローンが自由に飛行できてしまった事態だ。
 そして引用元コメント欄でも指摘されているが、引用雑誌では何十本もハイテク技術に基づく対ドローンシステムが紹介されてきたが、これらは何をしているのか?
 日本も同様だ。様々な展示会や多くの企業が流麗なパンフレットで対ドローンシステムが宣伝され、その中の一部は自衛隊も導入してきたが、いずも事案や最近の岩国基地がドローン侵入で閉鎖された事案では何ら役に立たなかった。いったい何をしていたのか?
 結局のところ、これらは20世紀の工業化時代のハイテク技術の黄昏に他ならない。そして多くの人がそれを認めたくないのは当然だ。最新技術を満載した高額な兵器が、高度経済成長を支えてきたはずの大企業の製品が、個人の創意工夫のありふれたデジタル民生技術のガジェットに負ける。
 まさに時代の転換点なのである。 
 ここにきて、筆者も、おそらくは読者諸賢もようやく幕末の武士の気持ちが理解できるのではないか。何十年も磨いた熟練の職人による、そして何百年も継承してきた伝統を継承した武具甲冑。そしてそれを身に着ける生まれた時から特別な存在として武芸を磨いてきた武士が、農兵の操る安価な大量生産のライフル銃に粉砕されるのだ。そら認めたくもないし、受け入れたくもないし、その路線に転換しろと言われても無理がある。
 同時に幕末の人間たちがその時代の変化を受け入れて、日本最強の薩摩武士団、大国清朝およびロシア軍を撃滅した帝国陸海軍を生み出したことの偉大さもよくわかる。
 それではこのことが示す現実的な脅威とその意味については文末コメントで言及するとしよう。(以上、部谷)

不審ドローン、英空母に来襲

概要
The Aviationist に2024年11月27日掲載(記事本文
原題 "Suspicious Drone Spotted Near HMS Queen Elizabeth Aircraft Carrier During Port Call In Germany"

要旨
 英国海軍の空母クィーン・エリザベスがハンブルクに到着した際に、不審なドローンが接近するという事件が発生した。クィーン・エリザベスは11月18日からハンブルクに到着していた。
 11月22日午前4時25分、港付近を飛行する1.5メートル×1.5メートルのドローンを水上警察が目撃し報告した。ドイツ軍はHP47ハンドヘルドジャマーを装備したカウンタードローンチームを投入した。

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