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第29号(2024年7月5日)米陸軍がFPVドローンを2026年までに配備、そして軍用民生技術の胎動(5月期)

皆さんこんにちは。今号では5月期の話題について紹介いたします。



近くて遠い?米海兵隊の新型自爆ドローンは1機1500万円のお高さ

概要
The War zone に2024年5月8日掲載(記事本文
原題 "Rogue 1 Is One Of The Marine Corps’ Newest Kamikaze Drone"

要旨
 5月にタンパで開催されたSOFウィークにて、米海兵隊が採用した自爆ドローンの一つが発表された。テレダイン・フリアー・ディフェンス製のローグ1と呼ばれる自爆ドローンは、垂直離着陸可能で重さは10ポンド(約4.5kg)だという。
 飛行時間は30分、最高時速70マイル(約112km)で最大6マイル(約10km)先の目標を打撃可能であるという。また、弾頭は爆発成形侵徹(EFP)弾頭、破砕弾頭、訓練用弾頭をモジュール式で交換可能で、さらにはFLIR Boson 640+サーマルカメラも搭載可能だという。
 テレダイン・フリアー・ディフェンスは、この夏後半に127機のローグ1を海兵隊に納入すると発表している。その納入額は1200万ドル(約19億円)であり、1機あたりの価格は約94000ドル(約1500万円)となる。
 米海兵隊は、自爆ドローンを歩兵や地上車両、無人船などに配備するプログラムを進めており、他にもエアロビロンメント、アンドゥリル・インダストリーズの2社と契約する見通しだ。また、ローグ1は2022年から米特殊作戦司令部(USSOCOM)にも納入を進めており、現在も追加納入を行っているとのことだ。

コメント
 ローグ1という名前を聞いたときにスターウォーズの映画が浮かんだのは私だけではないはずだ。このローグ1は筒状のケースに入れて運搬可能であり、必要に応じて再回収も可能のようだ。興味深い点はモジュール式弾頭のおかげで、訓練用弾頭を搭載できる点だ。実際どのように使えるかは不明だが、損耗を気にせず訓練できるなら非常に経済的だろう。

https://www.youtube.com/watch?v=2v49r-65gC8

 しかし1機1500万円という値段は自爆ドローンとしては少々高くないかとの疑問を持つ。記事でも指摘されているように、この手の自爆ドローンは質より量が問題となるためできる限り数を揃える必要がある。
 そうなると限られた予算で数を揃えるには一機あたりの値段を抑える必要が出てくる。そうした文脈で1機1500万円という値段は高いのか、低いのかを検討しなければならない。
 もちろん今回の値段はあくまでも試験及び評価のために納入された際の値段であり、正式導入や量産効果によりこれから値段は下がる可能性はある。モジュール式弾頭は便利ではあるが、値段を高騰させている要因の一つだと推測される。もし値段が問題になるなら、モジュール式弾頭はオミットしていい機能なのではなかろうか。(以上NK)

 NK氏が言う通りかなりシステムが高価格です。全納入価格はシステム+本体+弾頭の価格なので単純に1機あたりというのはやや語弊がありそうですが、それにしても1000万円以上の札束を敵に投げつけることができる国のスケール感を目の当たりにすると何も言えませんね。こういったプロジェクトは上手くいかない場合自然消滅しがちですが、既に順調な滑り出しのようなので良かったです。
 また、NK氏の指摘の通りモジュール式弾頭は(どうせ自爆=使い捨てメインなら)オミットしても良かったんじゃないかと思いますが、弾頭も期限があるものと推定(※火薬は基本的に使用期限があります)すると、使わない時の経済性はモジュール式に軍配が上がるとも思われます。更に言えば、有事基準では「たったの」127機の調達とも言えます。この動きを見ると海兵隊が自爆ドローンを実戦投入する日は近いようで遠いかもしれません。
(以上S)

自爆ドローン・シャヘドのカメラ付きタイプが発見される

概要
The War zone に2024年3月13日掲載(記事本文
原題 "Russian Shahed-136 With Camera, Cellular Modem Could Be A Big Problem For Ukraine"

要旨
 ウクライナ戦線で使用されているシャヘド自爆ドローンの派生型として、カメラ搭載タイプが存在することが判明した。カメラ自体は民生品の安いもので取り付けも機体にボルトで直接取り付けられた簡素なものである。しかしこの機体には4GモデムとSIMカードが搭載されており、リアルタイムで映像偵察を送ることができる。
 記事ではこのカメラ搭載シャヘドの有用性について触れられている。カメラ搭載シャヘドは、他のロシア軍ドローンよりも戦線後方を飛行することができるため、イスカンデルM短距離弾道ミサイル等の長距離打撃兵器と組み合わせてウクライナ軍の戦線後方のアセットを打撃することができる。
 実際に、戦線後方に位置しているウクライナ軍所属のパトリオットミサイルが攻撃を受けている。また通常版のシャヘドを同時に行動することで、攻撃評価もリアルタイムで行うことができる。
 加えて偵察用シャヘドに弾頭が積まれていれば、偵察した後にシームレスに打撃が可能になる。ただしリアルタイム通信を可能にしたことで、位置を暴露してしまい防空アセットに脆弱になってしまう危険性もある。 

コメント
 シャヘド自体はかなり色々な種類が開発されており(Wikipediaを見てみてください)、その中には偵察専用機も存在します。2ヶ月前になりますが、今回登場したのはカメラが搭載されつつも本来のシャヘド136(Geran-2)の機能を損なわず自爆するタイプです。
 私は以前、徘徊型兵器としてのシャヘドはミサイルなのかドローンなのか、カテゴライズに迷う旨をぼやきましたが、デジタルガジェットとしての強みを発揮しているという点で言えばやはりドローンの一種なんでしょうね。ミサイルは誘導技術が高級すぎてこれ以上単価を上げる要素はオーバースペックです…。
 くだらない話はさておき、こちらの記事によればロシア側のシャヘド生産は割と順調なようで、この発表が「大本営発表」でなければ今後ますます脅威となると考えられます。現状対抗手段としては同様の小型ドローンや機関銃等が採用されているものの、これらは銀の弾丸にはなっていません。昨今のドローン等が作る戦いの非対称性に適応し、脅威を打破するには?頭を柔らかくして考える必要があるでしょう。(以上S)

https://x.com/nexta_tv/status/1764925851156594936

 記事の写真を見てもらえばわかるが、このカメラの取り付け方は非常に簡素なものだが、最悪片道切符で帰ってこない可能性がある徘徊型弾薬ということを考えるとこれでいいのだ。兵器の改造もその兵器の性質を見極めて行う必要があるだろう。
 前号で紹介した亀戦車のように現場で必要に応じて現場で改造できるようにする仕組みを整えるようにすべきだろう。とはいえ記事でも指摘されているように、このカメラ付きシャヘドはシャヘドの良さである電波的低シグネチャーを殺してしまうわけで、その点については留意すべきだろう。
 そうした弱点を背負ってもなおこうしたカメラ付きシャヘドを投入するということは、ロシア軍の長距離ISR手段の不足を意味しているのかもしれない。(以上NK)

Obsidian Sensors Inc.が変えるサーマルカメラの常識

概要
Frobes に2024年5月22日掲載(記事本文
原題 "New U.S. Technology Makes More Powerful Thermal Imagers At Lower Cost"

要旨
 赤外線サーマルカメラは、ウクライナ戦線において夜間戦闘での心強い味方である。しかし、ドローンに搭載する赤外線サーマルカメラは高価であるという問題を抱えている。米国のObsidian Sensors Inc.が開発した新技術は、手頃な価格の高解像度センサーで赤外線画像市場を一変させる可能性がある。
 民間市場における赤外線カメラに対する需要は、デジタルカメラと比べると高くない。従ってカメラ単体の価格は高くなる傾向にある。ウクライナ向けFPVドローンを生産している米国メーカーが語ったところでは、最小限のセンサーである256x192ピクセルのイメージャーであっても200ドル程度かかり、この解像度のカメラでは飛ばすのすら困難だという。
 解像度を上げていけば、値段もそれにつれて高騰していき、そのメーカーがよく使う640×480のカメラは通常でも1000ドル、50台以上の大量発注でも800ドル程度かかるとのことだ。その結果、800ドルの赤外線カメラを追加すると、400ドルのドローンが1200ドルになってしまうという現象が発生する。
 そのような中、米国のObsidian Sensors Inc.は新しいアプローチにより、高解像度かつ低価格のサーマルカメラを開発することに成功した。現在生産中の試験用製品では、同等の性能を持つ従来品に比べて価格を1/3から1/4まで抑えることに成功しているとのことだ。
 さらに製造プロセスの進化により、価格がさらに抑えられることが予想されており、結果として640x480の赤外線カメラが200ドルを大きく下回る可能性がある。
 Obsidian Sensors Inc.が最初のターゲットとして想定しているのは自動運転用自動車である。それに加えてウクライナのドローンメーカーが既にこの技術に関心を示しており、ドローン向けにこの会社が持つ低価格かつ小型のサーマルカメラの需要は高まっていくことが予想されている。

量産型カスタム氏のここがポイント!
 
これまでサーマルカメラは高価格でありながら信頼性でTeledyneFLIR社もしくは半値程度の中国製におおよそ二分されていたところにObsidianSensorsによる新たな製造方法によって価格、進化、サプライチェーンにまで影響を及ぼすだろう。但しこの新たな製造方法が確立され安定して製造し続けられればの話になるので…という事で、サーマルカメラ愛好家の一人としてサーマルカメラの基本からありがちな間違いなど含め後述する自身のコメント欄で詳しく触れてます。ぜひお読みください。

米陸軍はFPVの波にのるのか?―FPVドローンを正式配備の可能性―

概要
Defense one に2024年5月14日掲載(記事本文
原題 "FPVs, tethered drones could become formal Army programs in 2025"

要旨
 米陸軍が2025年に小型クワッドコプター(一人称視点型とテザー型)を正式な装備品として配備する可能性がある。小型ドローンの配備に関わるマイケル・ブラブナー中佐は「我々は、2025会計年度にProgram of Record(正式に予算を付けて配備していくことが決定した調達プログラム)としてその両方を持つことを積極的に求めている」と述べ、2026会計年度までにFPVを部隊に配備することが目標だと示した。
 FPVドローンは歩兵部隊向けに、テザー付きドローンは装甲部隊向けに配備されるとのことだ。またFPVは対人もしくは対物爆発物を選択できるようにモジュール式ペイロードが搭載される可能性が高いと、ブラフナー中佐は指摘した。
 目標価格については不明だが、ブラフナー中佐がFPVは消耗品であるべきと指摘していることから、低価格になる可能性が高い。またこのFPVプログラムは、既に始まっているLASSOプログラムと呼ばれる徘徊型弾薬を米陸軍に装備させるプログラムとは別のものである。
 また米陸軍はFPVドローンを操縦できる兵士を育成するための教育カリキュラムを立ち上げようとしている。このプログラムは3~4週間の期間で、ドローンの飛行と攻撃の実施を学ぶという。早ければ2025年初頭にはこのプログラムは開始されるとのことだ。

出典 米陸軍

コメント
 POR入りさせることができたということは、少なくとも調達が実現ラインに乗ったということを意味します。勿論予算をもらえるということは、買うだけでなく計画やその後のアセスメント付きということにもなりますが、一先ず喜ばしいニュースですね。
 しかしこれまでのニュースを通じて疑問点があるのも事実です。
1. FPVとテザー型(係留できるタイプのドローンと考えられる)は誰がいつどのように使うのか定まっているのか?定まっていないなら配備先の兵科を定める必要はあるのか?
2. 安価に…といっても米国内のドローン規制を踏まえると超高級品の予感しかしないが目標価格を幾らとするのか?
3. 2026年度に配備開始ということは、少なくとも生産基盤のメドはついている?(※米軍と契約実績のあるFPVが得意なドローンメーカーは数社あるので、恐らくそれらの会社との開発生産?)
 米軍の一部はかなり先進的な動きをしていることは毎号のように報じているとおりですが、全部隊で遍くそういったマインドやシステムが伝播しているかというとそれはまた違う問題です。「ちゃんとした正規軍」はドローン等に適応しずらいと見ていますが、世界最大の軍隊が先陣を切ることができるか注目です。(以上S)

 装甲部隊にテザー型のドローンを配備するという話があったが、おそらく車両に連結させて、部隊の上空に常時滞空させることを目指しているのではないかと推測する。そうなると高所からの視界を確保することでセンサーとして、このテザー型ドローンを運用しようとしているのではないかと思う。
 FPVに関しては前号で米陸軍特殊部隊グリーンベレーがFPVを使用し始めている記事を紹介したが、その動きは特殊部隊だけでなく陸軍全体にも広がりつつあるようだ。ちなみに同志Sの懸念するFPVドローンの値段に関しては、巻頭の海兵隊の自爆FPV導入の話が非常に興味深いので読み返して頂きたい。(以上NK)

なぜ英国は中国製ドローンパーツをウクライナに供与するのか?

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