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第35号(2024年10月4日)フランス軍及び警察、五輪に襲来したドローンを続々と撃破。台湾軍がFPV実験部隊を設立(8月期)

訂正とお詫び:「会場に配備された対ドローンシステムは15種類あり、数マイル先のドローンを無力化できるとのことだ」の一文がございましたが、正確には「会場には15個の対ドローン部隊が配備され、数マイル先のドローンを無力化できるという」でした。訂正して深くお詫び申し上げます)(2024年10月7日追記)

みなさんこんにちは。もう今年も2ヶ月で終わろうとしていますね。今号は8月期の話題を中心にご紹介します。


フランス軍及び警察vs不審ドローン―嵐を呼ぶパリ五輪―

概要
CBS NEWS が2024年8月1日に掲載 記事本文
原題 "2024 Paris Olympics security challenges include 53 intercepted drones and 5,000 people barred from the Games"

要旨
 
2024年パリオリンピックが開催されて以来、(記事が掲載された時点までに)50機以上のドローンがフランス法執行機関によって迎撃されたとのことだ。フランスはオリンピックの開催に合わせて、全国から警察と軍隊を動員し会場の警備にあたっていた。7月26日に開催された開会式では、地方警察及び国家警察合わせて45000人、18000人の軍人がパリ及びその周辺の警備に動員されている。

(注:フランス軍はヘリからジャミングガンや狙撃銃でパリ五輪中に侵入したドローンを迎撃した)

 ジェラルド・ダルマナン内相によると、会場付近で迎撃された53機のドローンはすべて悪意を持って飛ばされたものではないという。53機のほとんどが、飛行可能な場所や高さに関する規制を破ったり、荒れた天候の中でドローンを飛ばしたりして、下にいる人々を危険にさらす可能性のあるものだったとする。ドローンは許可を得なければパリ上空を飛行することはできず、その許可は大会参加者、警察当局、メディア以外には下りなかった。
 フランス軍はオリンピックに向けて、会場で配備される対ドローン兵器を用いた演習を開催している。会場に配備された対ドローンシステムの中には、数マイル先のドローンを無力化できる、レーダーとカメラ付きの重カウンタードローンが15基あるとのことだ。それぞれレーダー、カメラ、妨害アンテナを装備しているとのことだ。また警官は対ドローンライフルを装備していた。

コメント
 こうした大規模イベントにおけるドローン対策の重要性を示す記事である。事実パリ五輪では女子サッカーカナダ代表が、対戦相手のニュージーランドチ代表をドローンを使ってスパイしていた。紹介した記事を読むと、禁止区域に侵入したドローンを全て迎撃しているようだ。
 悪意のあるドローンかどうかは飛んできている段階では判別がつかないため、全部迎撃するというのは理にかなっている。以前米国の法執行機関における法的問題について触れたが、フランスでは同様の問題は生じないのであろうか。(以上、NK)

 電波妨害で落とすタイプの対ドローンシステムの場合は、システムが対応していない周波数で飛行しているドローンには対処できないという欠点がある。
 一方で、国家警察や地方警察45000人と軍隊18000人が動員されているが、全員ではないにしろ、警官が対ドローンライフルを装備していたり、多くのドローンを迎撃していたり、実際に演習を開催していることから、フランスの対ドローンの訓練体制は進んでいると考えられる。
 また対ドローンシステムが複数配備されたとのことだが、製品の実戦テストという意味を持っているのか、または特定のシステムの不具合などが発生して使えなくなった時に備えてなのかは不明だが、ここからでもフランスの対ドローンの意識の高さが見られる。(以上、大規模攻撃)

さすがに小銃でドローン対処は限界があろうかと思われるでありますっ!

概要
陸上自衛隊久居駐屯地 が2024年5月28日に投稿(記事本文

要旨
 第33普通科連隊の重迫撃砲中隊が訓練検閲を実施した。検閲ではドローンの対処が行われたようで、普通科隊員が小銃でドローンを狙う写真が掲載されている。投稿は「現代の戦いではドローンがとても重要視されています」とのコメントが掲載されていた。

コメント
 自衛隊の訓練においても、ドローン対処が入ってきているということを示す投稿である。ただ手放しで喜べない。2点ほど指摘すべき点がある。
 まずは探知と識別の問題である。飛んでくるドローンをどのように個人レベルで探知するのだろうか?またドローンを探知できたとしても、それが我のドローンか、敵のドローンかどのように識別するのだろうか?そこの問題をどうするのかという疑問が浮かぶ。
 また迎撃手段についても、小銃でドローン対処は適切な方法とは言えない。まず小型ドローンのような小さな目標を小銃で狙うのは困難であるだろう。故に各国でショットガンや、電子戦装置等の他の手段が模索されているのである(そうした他の手段も完璧なものではないのは言うまでもない)。
 ちなみに投稿にショットガンを使うのはどうかというリプがあったが、確かに有効な手段の一つのように思える。しかし歩兵が携行するとなると、小銃に加えてショットガン本体と弾薬を持ち運ばねばならなくなるという欠点もあるということは指摘しておくべきだろう。
 たとえ小銃でドローンに対抗するのだとしても、アイアンサイトで狙うのは難しいのではなかろうか。例えば米海兵隊では小銃にSMASHを搭載して、対ドローン訓練を行っている。ともかく今ある装備でどうにかするのではなく、適切かつ手に入る装備を調達することでドローン対処を考える必要があるだろう。足らぬ足らぬはやっぱり足らんのですよ。(以上、NK)

某展示会にてSMASHのデモを体験する筆者

 前述のフランス軍がレーダーやカメラを組みわせて探知し、地上とヘリからのジャミングガンやヘリからの狙撃といった組み合わせで対処しているのに対し、お寒すぎるありさまだ。
 同志らが既に指摘しているように目視で発見し、目視距離でSMASHどころか普通のスコープすらない自動小銃であたることは奇跡を祈るようなものだ。
 そもそも陸自は未だにドローン管制システムの開発の検討すら行っておらず、間違いなくその組織文化―過剰な物品管理―から味方もしくは市民のドローンではないかと迷い、射撃できないままに手遅れになることは見え透いている。
 だいたい平時からグレーゾーン事態にかけても射撃できるのか疑わしい。
 本情報は深刻な問題を他にも含んでいるが、その内容については文末の拙コメントをご覧いただきたい。(以上、部谷)

台湾軍がFPV実験部隊を設立―製造・訓練・運用・改造までを部隊で自己完結―

概要
Taepodong が2024年8月15日に投稿(記事本文
新‧二七部隊 軍事雜談 (New 27 Brigade) が2024年8月15日に投稿(記事本文

要旨
 台湾軍内部に、FPVドローン戦術を開発するための実験部隊が設立された。公開された動画では兵士がFPVドローンを自作したり、シミュレーターや実機を使って訓練している様子が写し出されている。またFPVドローンを使って廃車や小型ボートに自爆攻撃を仕掛ける様子も公開された。

コメント
 台湾軍でもFPVドローン部隊が実験的にではあるものの設立されたという見逃せないニュースである。以前お伝えした各国軍の取り組みと同様に、ドローンの自作が訓練カリキュラムに組み込まれている。またシミュレーターで訓練を行っている場面では、ゲーミングラップトップを使用していた。MSIをはじめ、PCメーカーが多い台湾ならではの光景であろう。おそらくSteamで販売されたゲームをやっているのかもしれない。あとはラップトップを使う際に、排熱を確保するために筐体を浮かせている点も見られ、ゲーミングラップトップを使い慣れていることを感じさせる。(以上、NK)

台湾軍兵士が自作するFPV

 まだ実験部隊ということなので、このFPVドローン戦術を開発するための実験部隊の創設がどのようなことに挑戦したいのかわかりませんが、FPVドローン技術の将来性の価値について、今現在評価が分かれる中で、この技術の重要性に個人レベルではなく、組織単位で気づき、軍組織内に研究部隊を立ち上げる試みであることは非常に評価できると思います。
 やはり、ドローンのような安価で小型なガジェットは進化のスピードが極めて速いため、個人的にはフォローアップできても、組織単位でしっかりと流れに乗って研究開発や戦術技術の向上をすることは非常に困難であると思います。
 10年前のスマホがもう使えないように、10年たったらこの手の技術はすぐに過去のものとなってしまいます。やっと10年たって正式導入されたが、もう時代遅れで使えない、みたいなことは官公庁、自衛隊にもあるあるだと思います。これは普通のドローンの場合ですが、特にFPVの場合は安価なガジェットのため個人で気軽に改造できるため進化の速度も読み切れません。そのため、この台湾の姿勢は見習うべきところもあるでしょう。 
 さて、肝心のFPVドローンです。部谷同志が常々コメントするように、戦場の主導権を確保する上で、空地中間領域の優位性をどのように確保するかが非常に重要な訳です。このFPVドローンは空地中間領域をも制する制空戦闘機になりうる可能性を持っているわけです。もちろんこのタイブのドローンは神風アタック(私はこの言い方は好きではありませんが、一般的にイメージできる方が多いのであえて使います・・・)が容易という点もあります。
 しかし、そこが最も重要なポイントではありません。本質的には、このタイプのドローンは人間にはできない機動が可能、バッテリーが続く限り長時間航続が可能、そして人的損耗も極めて少ないという特性があるため、FPVドローンが空地中間領域を飛び回り、この領域を制した側が地上戦の主導権を獲得できる、なんていうことは容易に想像できるわけです。
 そのため、何もFPVドローンの運用研究は神風アタック研究だけではなく、陸上部隊と連携した空地中間領域の優性を獲得するための戦術の開発であったり、そのために必要な技術研究であったりすると思います。
 そして、このあたりの実戦等の運用場面でのデータ取りが非常に重要な訳ですよね。不審なドローンへの対応とかでも早めにFPVの活用をテストしてほしいものです。この台湾の部隊がどの程度研究成果を開示してくれるかは不明ですが、注視していきたいですね。(以上、CiCi)

あなたの国のドローン生産量は十分ですか?―米国のドローン産業の生産能力は不十分―

概要
Defense one が2024年8月7日に掲載(記事本文
原題 "Wartime need for drones would outstrip US production. There’s a way to fix that"

要旨
 もしも米国が戦争状態に陥った際、国防総省がドローンメーカーに適切な支援をしない限りは軍が必要とする量のドローンを調達することはできない。米陸軍はウクライナの戦場での教訓を取り入れ、小型ドローンを導入しようとしている。しかし問題はドローンの生産能力にある。現在ウクライナの戦場ではドローンは消耗品のように扱われている。例えば2023年5月の段階で、ウクライナ軍は月に10000機のドローンを使用していると報告された。

前線への投入を待つウクライナ軍の大量のFPVドローン。まさに脅威のメカニズム。

 しかし米国企業はその半分の量すらひと月に生産できていない。推定によると米国内の月産ドローン生産量は合算しても数千機、多くても5000機程度と見られている。Skydioは月に2000機、Tealは月に数千機生産可能だと言っている。ハドソン研究所のブライアン・クラークは「米軍が大量の無人機を必要とする作戦コンセプトを主流にするまでは、生産量は比較的低い水準にとどまるだろう」と指摘する。
 国防総省は米国内ドローン企業にとって信頼できる顧客である。しかし軍は新興企業にとって、動きが遅すぎる買い手であるとパフォーマンス・ドローン・ワークスのライアン・グリーCEOは指摘する。「新興企業がこの分野に参入するのは本当に難しく、我々がいるような場所にたどり着くには多くの資本が必要だ」とグリーは述べた。
 また米国製ドローンの値段も問題となる。米国製ドローンは、中国製のそれに比べてはるかに高価であり、数倍の価格となることは珍しくない。こうした高額なドローンの値段は、兵士がドローンを運用する際の心理的圧力を生み出してしまうことが指摘されている。
 さらには米国製ドローンは高価であるにも関わらず、安価な中国のライバル機に比べて性能で劣っていることが多い。純粋に価格対性能比が決め手となる場合は、中国メーカーを選択するのは明らかだと、ウクライナでの経験がある欧米のドローンコンサルタントは述べている。
 中国のメーカーと比べた際に、欧米のドローンメーカーはその規模も小さい。例えばDJIの従業員は14000人おり、その約4分の1が研究開発に従事している。それに比べ、米国のドローン企業で従業員500人以上の企業は13社しかなく、欧州のドローンメーカーの平均的な従業員は20人程度とのことだ。
 米国が国内のドローン産業を助けたいのであれば、その解決策は高い需要によって市場を刺激することだと、国防総省DIUのデビッド・ミケルソンは指摘する。企業からはもっと買ってほしいとの、フィードバックが寄せられると彼は述べた。
 同時に企業に代わって政府が資本投資を行うなど、政府による関与はそもそものドローンの注文が無ければ無駄な投資になり、技術革新にも水を差すことになると彼は警鐘を鳴らす。またハドソン研究所のブライアンは、ドローンの平均価格が低いために販売だけによる利益だけでは、生産への投資は難しいと指摘する。

ハドソン研究所のブライアン・クラーク氏

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