
第39号(2024年12月6日)米ホワイトハウスがレーザーによるドローン迎撃を断念、そして海自の失敗の本質(10月期)
みなさんこんばんは。いよいよ師走ですが、今号は10月期の話題を中心にご紹介します。
なお2024年11月16日(土)に行われ た大規模災害訓練「みちのくALERT2024」において現代戦研究会は陸上自衛隊の依頼で以下のようなAI物体検出とドローンを組み合わせたデモを行いましたので、ご覧いただければ幸いです。
ドローン専用の自己鍛造弾(EFP)ーいかにしてドローンはケージアーマーを突破するのかー
A video by Ukrainian drone munition producer Shock Wave Dynamics demonstrates that to defeat Russian cage armor, munitions that create an EFP (Explosively Formed Projectile) are the most effective at destroying the vehicle. pic.twitter.com/gkZgETWuak
— Roy🇨🇦 (@GrandpaRoy2) November 2, 2024
要旨
ウクライナのドローン用弾薬製造会社であるショックウェーブダイナミクスは、ロシア軍が使うケージアーマーを無力化するためには自己鍛造弾(EFP)が効果的であると実証した。既存の爆薬ではケージアーマーで爆発してしまい、その爆発力は装甲車両やその上に騎乗する兵士を破壊できないが、自己鍛造弾なら破壊可能になるとのことだ。
コメント
ドローンとEFPというと2016年のT.X.ハメスの "The Democratization of Airpower: The Insurgent and the Drone(空軍の民主化:反乱勢力とドローン)"を思いだす。この論考で、ハメスは非国家主体が商用ドローンでの活用を始めたこと及びEFPの作成が安易にできるようになったため、EFPとドローンを組み合わせることで「空飛ぶIED」として脅威となると喝破した。
今回この弾薬が貫通しようとしているケージアーマーは対ドローン装備としてはロシアだけでなく全世界的に一般化している。例えばイスラエル、ロシア、中国、麻薬カルテルといった非国家主体でも使用されている。ケージアーマーがドローンへの対抗手段として広まっているなら、その対抗手段であるEFPドローンも広まっていくことは想像に難くない。
ちなみに2枚目の写真にある弾頭はおそらく3Dプリンタ製だと思っていたら、やはりそうだった。この爆弾はFRAG-09-576と呼ばれており、重量は1.3kgである。爆弾の中には576個のボールが搭載されており、爆発と同時に飛散するようだ。(以上、NK)

同志NKが指摘するように、筆者(部谷)もハメスの空軍の民主化論文を思い出した。2018年当時、連載していたJBpressでシリアでロシア軍空軍基地が人類史上初の集団ドローン攻撃を受けた解説を書き、ハメスの2016年の論考を紹介したので、よく覚えている。
その際、ハメスは「30グラムの自己鍛造弾(EFP)は1.3センチの装甲板を貫通する。上から攻撃すれば、ほとんどの装甲車両を貫通できるだろう。
しかもドローンはGoProのようなカメラ付きなので照準も容易だ。最近まで、EFP製造には精密機械加工が必要だったが、今や1000ドル以下の3Dプリンターで可能だ。
これは、非国家主体が爆撃機を手に入れたに等しい。今やEFPは、燃料車や弾薬車、航空機を破壊して大爆発を起こしたり、レーダー、通信センター、指導者などを破壊することも可能である。
我々は、動かないIED(仕掛け爆弾)を効率的に除去することに10年以上かかっているが、そのIEDが今度は空を飛び出したのだ」と喝破していたが、8年を経て予言は実現した。とうとう3Dプリンタ製EFP搭載型ドローンは一般化し、あらゆる目標を狙いだしたのだ。

ハメスは2016年にこれをもって空軍の民主化を説いたが、実はこれは暴力の民主化でもある。軍需産業でなければ作れなかったEFPが今や安価な3Dプリンタでノウハウを持つ腕利きの人間がいれば作れてしまうのである。これこそ暴力の民主化であり、暴力が国家の、その為の技術が大企業の専有物ではなくなった象徴であり、近代の終わりを示している。
他方でEFPとドローンを組み合わせることの軍事的な意味も注目すべきだが、それは文末コメントで触れることにする。(以上、部谷)
海自の艦載型無人機、調達できず―ドローンを理解しない軍隊の悲劇―
概要
読売新聞オンライン に2024年11月6日掲載(記事本文)
要旨
2018年の中期防衛力整備計画で導入を決めていた海上自衛隊向けの艦載型無人機3機の契約が2024年になっても締結されていないことが会計検査院の調べでわかったとの報道だ。18年の中期防では19~23年度の5年間において護衛艦に搭載する無人機3機の整備が決定していた。
海自は市場調査を行い米ノースロップ・グラマン製の無人機を導入すべく契約を進めていた。しかし2022年度でその機種の生産ラインが閉鎖されたため、契約が締結されていなかったとのことだ。海自は別企業に発注できるか等の対応を検討している。
コメント
今回の報道では、海上自衛隊が調達する予定であった無人機は艦載型かつ、ノーフロップグラマン社製であることが判明している。これに該当し、なおかつ近年開発中止となっているものとしてはMQ-8Cファイアスカウトが挙げられる。ファイアスカウトは、米海軍が、運用中の沿岸域戦闘艦(LCS)の甲板から、さまざまな水上戦闘や、ISR任務を行うために開発した無人自立ヘリコプターのような機体である。
一見、今運用されている艦載ヘリコプターを無人化し、省力化や損耗可能性を上げられる良い選択肢のように見える。しかし、米海軍は、近年のUAVの急速な進化によってファイアスカウトがコストと能力の対立での最適解ではなく、さらに損耗可能かつ安価なオプションを施行する方向にあるとしている。これに基けば、技術の進歩により海上自衛隊が納入するオプションも技術とその実装を取り巻く潮流を見極めるべきである。
世界の潮流を読みつつも、自国では何のために無人機を運用するのかというゴールからの逆算思考を持つことが各国に求められるのだろう。(以上、HO)
この記事を端的にまとめるなら調達しようと思ってたら生産ライン停止になってしまいました、どうしようということになるのだろうか。不幸中の幸いなのは調達が完了する前に生産ライン停止が決まったことだ。運用しようにもパーツがないという状況を避けることができた。
HO氏のコメントでほぼ全て解説されているので、1点だけ付け加えるとすると現代の技術動向の潮流を見極めると同時にその潮流に対応できるよう調達のあり方も変化していく必要があるだろう。
本noteをお読みになっている方ならよくわかるように、技術とそのカウンターとのいたちごっこにより陳腐化までの時間が短縮されたため絶え間ないアップデートが要求されると同時に、研究開発に求められるスピードも高速化している。
この潮流を前提とすると契約までに何年もかかる既存の調達方式では間に合わないのは明らかだ。具体的には調達の中でコンスタントなアップデートができるという要素を検討事項に入れることや、リースでの対応といった案も検討すべきだ。(以上、NK)
各国軍事組織に拡散していくFPVドローンー韓国とブルキナファソの例ー
概要
DroneXL に2024年10月28日掲載(記事本文)
Typical African に2024年9月28日投稿(記事本文 )
https://twitter.com/Joe__Bassey/status/1840272322374008833
要旨
韓国軍は従来使用していた60mm及び81mm迫撃砲を段階的に廃止し、FPVドローンを採用していく予定とのことだ。韓国陸軍参謀総長のパク・アンスは韓国議会の国防委員会において、迫撃砲部隊を「ドローンボット中隊」に再編成する計画を発表した。この変更の目的は、迫撃砲よりも射程のあるドローンによって部隊の能力を強化することだ。

記事では迫撃砲からドローンの切り替えは実用的に理にかなっていると指摘される。現在使用されている迫撃砲の重量は60mmでは約44ポンド(20 kg)、81mmでは88ポンド(40 kg)を超えている。
しかし通常兵器の有効射程はわずか2〜3キロメートルに過ぎない。対照的にドローンは精度がよく、運用に必要な人員が少なくて済み、輸送と展開が大幅に容易であり、迫撃砲よりも長射程である。
この改革は、電子戦能力の強化やサイバー部隊の新設といった韓国軍で進んでいる大規模な近代化の一環として実施されている。
一方、ブルキナファソ軍でもFPVドローンの導入が進んでいるようだ。投稿ではブルキナファソ軍の兵士達がDJIのFPVドローンシミュレーターを行っている様子がうかがえる。

コメント
以前より迫撃砲をドローンに置き替えるという案は米軍内でも検討されたことはあったが、実際に断行するのは韓国軍が初となるだろう。しかし、これは迫撃砲を担う人員の面子やポストを気にしなければ、きわめて合理的な判断だ。
記事でも指摘しているようにFPVは迫撃砲に比べて、精密性・射程・汎用性・携行性・人員・兵站で勝り、メディア及びセンサーとシューターの一体化という新しい機能を持っているからである。
まず精密性については言うまでもない。FPVは操縦者が直接目標を狙えるので精密性は段違いだ。
射程も81mm迫撃砲が最大5kmなのに対し、FPVは平均3~5kmだがウクライナでは中継器などを使うこと平均15~20km、最大で30kmまで狙えるようになっている。
汎用性も異なる。迫撃砲は爆撃しかできないが、FPVは偵察も小規模な運搬もテルミットで塹壕を焼き尽くすことも小銃を積んで射撃することもできる。まさにモビルスーツなのである。
携行性も段違いだ。81mm迫撃砲が40kgの本体と1発4kgを超える砲弾を何発もを抱えねばならないのに対し、ウクライナ軍の主力FPVクィーンホーネットは15インチと大型の部類でありながら数kgでしかない。これは非力な高齢者・女性・体力不足の男性でも扱えることを意味している。
人員も同様だ。81mm迫撃砲は5人必要だが、FPVは一人がいれば良い。
兵站も同じだ。迫撃砲本体と砲弾の製造には工場が必要だが、FPVは前線近くの工房で生産可能だ。しかも極論すればFPVは飛行機の手荷物で運べるが、迫撃砲はそうはいかない。船舶や飛行機の貨物室になってしまう。兵站をFPVは軽くするのである。

他方でブルキナファソについては文末のコメントで述べたい。
米国の「いずも事件」ーラングレー空軍基地に迫る大量の不審ドローンvs後手後手に回る米国政府ー
概要
The Wall Street Journal に2024年10月12日掲載(記事本文 )
原題 "Mystery Drones Swarmed a U.S. Military Base for 17 Days. The Pentagon Is Stumped."
要旨
米国バージニア州のラングレー空軍基地上空で、昨年12月に正体不明のドローン群が複数回目撃された。最大で12機が同時に襲来し、これらのドローンは約6メートルの大きさで、時速160キロ以上の速度で飛行し、夜間に基地や周辺の重要施設上空を飛び回った。
最初の侵入は12月6日に発生し17日間も継続して発生した。当局者の話によると、不審なドローンは午後6時頃に北から来て、チェサピーク湾の河口の半島に位置する基地を横断し、レーダーの届かないところまで南に進み続けた。このパターンが繰り返され、不審なドローンは真夜中までに消えたという。
米国当局はこの不審なドローンへの対策として様々なアセットを投入したものの、ドローンの正体や目的を特定することはできなかった。現地警察もドローンの追跡に従事したが、ドローンは沖合に着陸するなどして追跡をかわした。
諜報機関はバージニア州の公海に浮かぶ船を発見し、事件の関連を調べるために湾岸警備隊が調査したが、何も発見できなかった。連日のドローン侵入により、ラングレー空軍基地に駐留するF-22ラプター部隊は夜間の訓練を中止し他の基地への移動を余儀なくされた。
この事件に関する報告書はホワイトハウスのシチュエーションルームに送られ、大統領は毎日のブリーフィングでこの事件について報告を受けた。ホワイトハウスでは、国土安全保障担当補佐官による会議が開かれ、事件に対する対策が議論されたとのことだ。

会議の中で、ある当局者はジャミングでドローンの通信を妨害することを提案したが、911緊急システムや地域のwifiへの影響により却下された。
別の当局者はレーザー兵器によるドローンへの対処を提案したが、FAAが民間航空機へのリスクを指摘した。また沿岸警備隊にドローンを網で捕獲するよう提案した者もいたが、沿岸警備隊はそのような兵器を運用する権限がないと返答した。
記事では米海軍や沿岸警備隊の艦船のレーダーでは、ドローンがあまりにも小さいために常にドローンが映らなかったと指摘されている。1月にニューポート海軍基地にドローンを飛ばした中国人留学生が逮捕されたが、この事件との関連は見つからなかった。未だに事件は未解決のままである。
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