第30号(2024年7月19日)米陸軍、FPVドローンの自作開始でドローン戦の実装へもがく。一方、立ち止まる自衛隊(6月期)
皆さんこんにちは。今号では6月期の話題を中心にご紹介します。
ドローン、金門島に襲来―プロパガンダ戦に使われるドローンの実例―
概要
Clash Report に2024年6月10日掲載(記事本文 )
要旨
6月8日、中国の無人機が台湾・金門島に侵入し、上空からプロパガンダビラを投下するという事件が発生した。文書には「中国は分割することができない。統一は時間の問題だ」という趣旨のメッセージが載せられていた。金門島は中国本土から10kmほどしか離れておらず、過去にも中国本土からのドローン侵入事案が多数発生している。
コメント
ドローンは情報戦に有効だというのは以前から指摘されていたことであったが、今回もプロパガンダビラの配布という形で情報戦に活用されている。なおドローンの情報戦における活用というのは、米軍でも研究が進んでいる。
例えば米陸軍特殊部隊グリーンベレーではディープフェイクとドローンを活用して、心理戦を行おうとしている。 具体的にはディープフェイクで作った音声を、スピーカー付きのドローンで敵の陣地に届けるというものだ。(以上NK)
何か大陸はどこもかしこも似たようなことをしていますね(韓国の拡声器、北朝鮮のごみ風船…)。こちらのビラについては複数のメディアが中国の民間企業によるものと報じており、中国政府はこうしたエスカレーションを呼び起こす行動を、事後的にではありますが一応取り締まっているようです。
こちらの分析を見ると中国の景気は暫く武力行使なんかしている場合ではなさそうであり、最近の米国の動きを見ていると、中国共産党も必死なのが伝わってくるかと思います。とはいえこの民間企業が技術を人民解放軍に提供するなんてことも容易に想像がつきますから楽観視できるものではありません。
先般、日本も中国人による横須賀軍港めぐりドローンツアーの餌食になったばかりであり、政府も世論も相当揺さぶられたのは記憶に新しいところです。本格的な情報戦になればこれどころでは済まされませんから、自分の身を守るためにもリテラシーを身に付けたいですね。(以上S)
米陸軍内で増加するドローン実験部隊の実情と希望
概要
Defense one に2024年5月28日掲載(記事本文 )
原題 "Across the Army, units lean into drone experimentation"
要旨
米陸軍の指導者はより多くの無人機を多くの部隊に配備したいと語っているが、そのような上層部の呼びかけに答えて陸軍の様々な部隊でドローンの運用訓練が進んでいる。
米陸軍第82空挺師団ではガイニー・カンパニーと呼ばれる実験部隊が設立された。その実験部隊内のロボット工学・自律システム(RAS)小隊は市販の小型無人機の技術的な評価を任務としており、認可を受けたサプライヤーからFPVドローンの部品を調達し、FPVドローンを一から自作しているとのことだ。ガイニー・カンパニー指揮官であるアダム・ジョンソン少佐は、FPVドローンは特に有用であると証明されたと指摘する。
一方、軍の承認済みブルーリスト(いわゆるブルーUASリスト:米国政府がサプライチェーンリスクがなく、軍が使用可能であると認めたUASのリスト)にある一機数万ドルもするような高価な市販ドローンで実験することは兵士に「心痛」を与える恐れがあると、RAS小隊所属の某曹長は指摘する。
ジョンソン少佐は、ドローンパイロットをどのように組織するかという問いに対して、ウクライナが行っているようなドローン専門部隊を真似するべきかもしれないという。彼は専門部隊化することの利点について、「競争の文化」が生まれること、砲撃の調整に無人機を使うプロセスを簡略化できることだと指摘した。
第101空挺師団でも、同師団所属の実験部隊が多機能偵察中隊(MFRC)にドローンを組み込む実験を行っている。同師団所属のチャールズ・オヘーガン少佐は、MFRCには間接砲火で標的にするための電子戦と小型無人機オペレーターが含まれていると語った。また少佐曰く、ドローンが得た情報は歩兵大隊が戦闘する際にも活用されるとのことだ。
第3歩兵師団では、FPVドローンの教育プログラムを立ち上げることになっている。このプログラムは2024年夏から始まる予定であり、約2週間、屋内と屋外のコースで座学、バーチャル、実地訓練が行われる。プログラムの立ち上げにかかわったクリス・フローノイ少佐はこのプログラムを卒業した兵士が、装甲旅団戦闘チームのドローン要員になることが目標だという。
陸軍機動センターオブエクセレンスは、5月に独自のドローン競技イベント「ビーハイブ・クラシック」を開始した。このイベントは2日間にわたって開催され、2人1組の参加者は屋内と屋外のコースでドローンを操り、敵の位置を調査したり、陸軍のRQ-28クアッドコプターを使って水風船で車両を爆撃したりといったタスクを遂行した。
参加したトラヴィス・スミス軍曹によると、攻撃では敵の弱点を狙う能力が評価された。陸軍は、他の政府機関も参加できるようなドローン年次競技会を9月か10月に開催したいと考えている。スミス軍曹は、将来的にはFPVドローンに関するイベントや、ドローンを使って砲撃誘導するイベントも開催されるかもしれないと述べた。
コメント
以前からブルーUASリストについて触れていたが、ブルーUASリストの問題点が今回も明らかになった。記事にあるように高価なブルーUASリストにあるドローンで訓練するのは、兵士にとって心理的負担になっている。
ドローンを操縦してみればわかることだが、今操縦してる機体を壊してはいけないと思いながら操縦するのと、機体に替えがきくと思いながら操縦するのでは全く心持ちが違う。
予備があると思えば、ある程度踏み込んだ操縦ができ、技能の向上にもつながるであろう。第82空挺師団のFPV自作の試みは、ドローンの予備の調達をさらに容易にするということでドローンパイロットの心理的負担を軽減することにもつながるだろう。(以上NK)
米陸軍でも様々な部隊がドローンを利用した独自の実験をしていることが分かります。特に陸軍機動センターオブエクセレンスのイベントは実践的な内容による競技イベントの企画・開催を通じた一種のコミュニティ形成を試みようとしており興味深いです。
このような取組は上層部の方針によるものではあるものの細部は各部隊に委ねられていると見受けられます。部隊は自由に使える予算を持っているのでしょうが、こういった新しい取組をする際に上級部隊ブロックがかかっていなさそうな点は非常に魅力的だと思います。
自衛隊だと「横並び」「まずは教導部隊や研究部隊から」みたいなことが多いですが、急ぎ導入が必要な装備やシステムに関しては部隊にモニター運用させて逐次改良させていったり、新たな運用要領を並行開発したりして、それを速やかに普及させることが重要です。
また、使い捨てもやむなしの運用がなされているウクライナ戦線でのドローンの運用と物品管理に厳格な正規軍の相性の悪さが浮き彫りになっている点も注目です。第82空挺師団はFPVを自作する試みをしていますが、これ今の物品管理規則だとと~っても難しいことなのは想像に難くありません。
昔から治具などは自主製作品が連綿と受け継がれてきたセクションも多いかと思いますが、じゃあ殺傷武器は?となると話が変わります。流石に装備品本体を自作して賄うというのはどうなのか?となる一方、そうしないと柔軟なFPVドローンの運用なんか土台無理な話でして、職域横断的な運用のための議論が必要です。(以上S)
陸自のドローン運用の欠陥ースマホを拒否する組織の悲劇ー
要旨
陸上自衛隊東部方面隊東部方面特科連隊所属の自衛官が災害用II型 ドローンであるParrot ANAFIを運用している様子を捉えた写真である。
コメント
アナフィを少人数で運用するために工夫をしていることが伺える。アナフィの画面を表示するタブレットを自分一人で持てるように、自作のケースに入れているように見える。この方は自作のケースに入れているが、市販のリグに入れて運用する方も少数ながら確認されている。こうした創意工夫の試みは評価されるべきだろう。
しかしそもそもの問題として、ドローンの操作画面を映すのに、タブレットではなくてスマホを使えばオペレーターに対する負担は減るのではないだろうか。操作デバイスとしてスマホを使うようになれば、ボディアーマーやプレートキャリアの胸部分にポーチを介して固定することができ、タブレットよりも省スペースで運用できる。このスマホポーチもJUGGERNAUTEのようにスマホケースと専用マウントを組み合わせるものもあれば、こちらの商品のように汎用型タイプもある。それぞれ一長一短があるのでご利用は計画的に。 (以上NK)
調達する時に情報収集しなかったんかーいという感じですが、使ってみないと分からないんですよね。ちなみにタブレットの利点を強いてあげるならば老眼の隊員でも画面が見やすいことでしょうか。晴れた日の昼間の液晶画面は何だろうが見づらいですけど…。
こうした環境下で創意工夫を重ねる現場の隊員には頭が下がります。私も「訓練のQOLは課金で決まる」と言われて育ちましたが、こういう創意工夫が必要にならない装備を調達して行きわたらせて欲しいというのが切なる願いです。体形や個人のニーズには差があるためオール官品では窮屈過ぎますが、タブレットは流石にみんな取り回ししづらいよなと思います。行軍の機関銃担当みたいにタブレット担当みたいな役割が出来たら笑いを通り越して泣きそうです。 (以上S)
ロシアの早期警戒レーダーをウクライナの自爆ドローンが破壊
概要
The War zone に2024年5月24日掲載(記事本文 )
原題 "Strike On Russian Strategic Early Warning Radar Site Is A Big Deal"
要旨
ロシア南西部にあるロシアの早期警戒レーダーが、ウクライナの無人機により攻撃を受けて損傷したとのことだ。ロシア南西部クラスノダールクライにあるロシア軍レーダー基地は5月23日にウクライナの無人機による攻撃を受け、基地にあるボロネジDMレーダーの1つが損傷している様子が衛星画像に捉えられている。
このレーダーは超高周波(UHF)OTHレーダー(Over The Horizon:超水平線レーダー)であり、ロシアの核弾道ミサイル早期警戒システムの一翼を担っているとみられる。
この攻撃は、ウクライナがATACMS(MGM-140, Army TACtical Missile System: 米国の地対地ミサイル)を使用してロシア本土を攻撃し始めたことと連動してロシア軍の警戒網を狙ったとの見方もある。しかしこのレーダーの警戒範囲や核弾道ミサイル早期警戒システムとしてのレーダー設計からこの説は否定されている。
このレーダーへの攻撃は、核攻撃に対するロシアの早期警戒能力を低下させたことが指摘されている。また早期警戒システムへの攻撃は、ロシア側による核攻撃の引き金となる可能性も指摘されており、更なるエスカレーションの恐れが指摘されている。
コメント
これウクライナ的には手放しで喜べる成果なのでしょうか…?
※以下で述べる内容は「西側はロシアに対して核戦力を行使しないし直接参戦も今のところ計画していない」という性善説に基づくものです。
記事の中で指摘されている通り、ウクライナは無駄なエスカレーションを呼び起こした感は否めません。特に今、長距離弾道ミサイルをロシアに対して打ち込める度胸と能力を持ち合わせた国があるのかどうかという話になるかと思います。
物理的に考えればこの手のレーダー施設の復旧には多大なる時間が費やされる可能性が高いですが、このレーダーは水平線の向こう側しか見ることができません。すなわちウクライナは基本的に眼中にないタイプのもので、今の状況ではNATO参戦でもない限り放棄されるのではないかと思います。
ウクライナが航空作戦や戦略攻撃にかなりお熱な様子が見られる中、記事で指摘されている以外にもこのような攻撃はかえって①作戦統制がなされておらず、もっと差し迫った脅威性のあるハイバリューアセットに向くべき戦力を無駄遣いしている。②そもそも相手方の防空アセットへのターゲッティングが雑(又はよく分かっていない)、というようにウクライナ側の能力に疑念を抱かせる可能性もあります。F-16など規模の大きな作戦能力を手にしたいウクライナと、そのコストを強いられている西側の関係性に影響を与えないか心配です。
翻って言えば「何でもドローンで攻撃すればいいってもんじゃないし、逆にVA (Vital Area)とは何か」というのは我々も考えなければなりません。目つぶしをしたいならレーダーサイトを狙うのはアリですが、敵が領土占領ではなく日本の機能喪失を狙うのであれば、もっと別な目標を狙うことも考えられます。自衛隊ではターゲッティングが話題になっていますが、狙い撃ちにされそうなハイバリューアセットをリスト化・シナリオ別に防衛要領を考察する"逆ターゲッティング"の検討状況が気になります。 (以上S)
こうしたロシアの早期警戒施設への攻撃は更なるエスカレーションを引き起こすという点で、批判が相次いでいる。ただウクライナからすると、ロシアが核使用を含めた更なる攻撃の激化という垂直的エスカレーションを引き起こせば、NATO諸国の参戦という水平的エスカレーションの可能性が出てくるため好ましい状況になると考えられる。
ただその際、ウクライナから仕掛けた結果もたらされたエスカレーションでは西側諸国の介入にとってマイナスに働く可能性がある。ロシアからの一方的なエスカレーションでなければならない。
したがってウクライナにとって、重要施設への攻撃はウクライナの攻撃と特定されないようにする必要がある。その際ドローンの持つ「匿名性」というものが役に立つのではないかと考える。
これは、ドローンに使用されているパーツについて、民間市場に流通しているものを使うことで攻撃した主体を判明させにくくするというものだ。民生技術を利用したドローンによる攻撃であれば、パーツから攻撃の主体を特定することが困難になるだろう。(以上NK)
航空機は飛行場で死すべし!―ドローンを使用した航空機への打撃について―
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