第32号(2024年8月16日)約束されていたクルスク攻勢の成功(7月期)
みなさんこんにちは。今号は7月期の話題を中心にご紹介します。
ドローンパイロットはエースの夢を見るか?―ウクライナの「迎撃」ドローンの誕生―
概要
ForbesJAPANに2024年7月7日に掲載(記事本文)
要旨
ウクライナ軍のFPVドローンがロシア軍の偵察ドローンを撃墜し始めた。これは、ウクライナ政府の「BRAVE1(ブレイブ1) 」という開発プラットフォームのもたらした成果であるとみられている。
ブレイブ1は4月に「迎撃ドローン」の開発を公募していた。ここで求められたものは、レーダー等の外部センサーを通じて敵のドローンの情報を収集して、ドローンを撃墜するシステムだった。この際目標とされたドローンはオルラン10のような高高度を飛行する偵察ドローンだ。
その成果が6月に現れ、FPVドローンがロシア軍の偵察ドローンであるザラを上空で迎撃している様子が公開された。今までも、低空域におけるドローンvsドローンの様子が捉えられてたが、今回の事例は高高度を高速で飛行する偵察ドローンを撃墜しているという点で大きく異なる。
こうした動画は複数公開されており、加えて偵察ドローンよりも滞空時間が短いランセットのような自爆ドローンを迎撃しているようだ。このドローンを使ったドローン迎撃システムの緻密さが伺える。
オルラン10のような偵察ドローンは他の兵器システムの誘導のための上空にある「目」であり、それが無力化されるようであればロシア軍の能力を大きく削ぐことになる。記事では、この迎撃ドローンシステムは、ロシア側が高価な偵察ドローンを撃墜される可能性を恐れて前線から遠ざけるという接近抑止効果をもたらすと指摘している。
記事では対ドローン兵器としての安価なFPVドローンは、ドローンだけでなくヘリコプターといった他の兵器への有効な接近阻止を果たすとし、「空飛ぶ地雷源」を構成するだろうと指摘している。
また記事では、こうした画期的なシステムを短期的に開発できるウクライナの開発体制について触れられている。ブレイブ1と米国防総省の国防イノベーションユニット(DIU)が共催した会議である登壇者は、「(ウクライナでは)北大西洋条約機構(NATO)が3カ月、あるいは3年かけてやるようなことを3日でやっています」と述べた。
ロシア軍のドローンを迎撃するFPVドローン
コメント
ドローン対ドローンの戦い方のバリエーションが増えるのは採用できる手段が増えている感じなのでいいニュースだと思いますが、無人であるだけでやっていることが戦闘機の空戦の模倣っぽい所に、もう一工夫の余地があるのではないかと考えます。
多分これFinal Approachか上がりたてを狙っているのかな?と想像するのですが、迎撃って言わなくてもよくないかな?とも思います。とはいえバッテリーの寿命がネックになるので、まだ小型ドローンが単体で空中目標への攻勢作戦を仕掛けるのは難しそうですね。
CAPドローンとか出たら面白いんですけどね…。それこそ「空飛ぶ地雷原」として、ヘリコプターの接近を阻止したり、離着陸中のジェット機が吸い込むことを企図したりしたら大きなインパクトがあるのではないかと思います。ものそれ自体の研究も大事ですが、ものを活用する戦術・作戦研究も重要です。(以上S)
この記事をまとめながらふと思い出したのは、エリア88に出てきた対空地雷という兵器である。この対空地雷は砂の中に潜伏して上空を飛行するヘリだろうが戦闘機だろうが、味方と識別できないものにミサイルを発射するという兵器である。
ここでのミソは敵味方の識別であり、対空FPVが空飛ぶ地雷源になるとしたらドローン同士の識別にも気をつけねばならないだろう。加えてウクライナの開発体制はやはり目を見張るものがある。
以前中東地域において無人機を統括して運用している米海軍TF59が、イノベーションのプロセスを加速したと言っていたとき数か月かかるハードウェアの改修を数日で終わらせることができたと言っていたが、記事で紹介したようなウクライナの開発スピードはTF59の比ではないだろう。(以上NK)
潜入!ウクライナのFPVドローン学校
概要
The War zone に2024年7月13日掲載(記事本文 )
原題 "Ukraine’s FPV Drone Obstacle Course Teaches How To Chase Vehicles, Fly Into Windows"
要旨
ウクライナの対ドローンケージに覆われた日産SUVが未舗装の道路を走り、FPVドローンが空を疾走する。ウクライナの戦場でよく見られる光景だが、これは実際の戦場ではなくウクライナのFPVパイロット向けの訓練場での光景である。FPVドローンが戦車やトラックといった目標に対して攻撃している動画がSNSで数多く見られ、簡単そうに見えるがそうではない。
「パイロットやオペレーターの訓練は常に必要だ。 無人システムの世界は常に変化しており、敵は特定の方法を考え出したり、我々の任務の完了を妨害してきたりする。 我々は常に訓練し、スキルを向上させる機会を与えられている。」と"ティーンエージャー"というコールサインの兵士は取材陣に語った。
FPVパイロットへの訓練はいくつかの段階に分かれている。新人パイロットは、飛行になれるためにネットで覆われたチューブの障害物を飛行するといったハードルを越えなくてはならない。障害物コースでは、建物のドアや窓を通じてFPVドローンを飛ばしたり、金属製のポールの周りをスラロームしたり、フープをくぐったりと、さまざまな難関が待ち受けている。また実際の戦闘に近い状況での攻撃を学ぶために、戦車のハッチからの攻撃方法も学ぶ。
このプログラムでは操縦と攻撃方法だけを学ぶコースではない。FPVドローンの運用に必要な弾薬や部品を製造するための3Dプリンタの運用も学ぶことになる。ウクライナ軍の勧誘により、FPVドローンのパイロットに志願する人々が後を絶たない。志願者のかなりの部分をゲーマーが占めている。「昨日までは母さんを悲しませていたかもしれないが、今日では軍隊にとってあなたは大きな発見であり、敵にとっては大きな危険だろう」とティーンエージャーは言う。
ウクライナ軍のFPVドローン学校での訓練風景
コメント
こちらの記事でもドローンパイロットの養成について取り上げましたが、FPVドローンに関してもかなり実践性の高い訓練がなされている(又はなされるようになった)ことが分かります。
また、特集されたプログラムでは、3Dプリンタの運用も勉強するということが述べられています。デジタル化された作戦活動は組織的な能力は言わずもがな、個人の知的能力も重要であることの証左ではないでしょうか。
日米をはじめ多くの軍隊では業務が細分化されていますが、ただでさえ兵員不足が叫ばれるところ有事では更に危機的な状況に陥ることは、火を見るよりも明らかです。
モノが先でも、システムが先でもいいですが、一部ではなく組織全体でこのパラダイムシフトに向き合わなければいけません。 (以上S)
FPVドローンパイロットのほとんどがゲーマー出身という話はある意味ゲーマーにとっては救いである。私自身もゲームに熱中して怒られていたものだ。加えてゲーマーはゲームの中でドローンに触れる機会が多いというのも指摘しておくべきだろう。
特にCoDをやっているプレイヤーはそうであり、2009年発売のCoD:MW2ではキャンペーンやマルチプレイヤーでドローンから発射されるプレデターミサイルを操作しているし、2011年発売のCoD:MW3ではキャンペーンのミッションで重武装UGVを使っている。
なんなら2022年発売のリブート版MWⅡでは「ボムドローン」という名前のキルストリークが、まさにFPV自爆ドローンそのものであり、安全なところから敵を偵察しつつ自爆攻撃を仕掛けることができたのでよく使っていた。実感としてはゲームに現実が追いついてきたような感触を持っている(以上NK)
奥さん、FPVドローンもアンチジャミングしてくる時代ですよ
概要
Drone DJ に2024年7月8日掲載(記事本文 )
原題 "The anti-jamming tech helping Ukraine combat drones at the cost of smartphones"
要旨
スイスを拠点とするAuterion社は、スマホ一台分のコストでアンチジャミング性能を持つドローン用のフライトコントローラーを発表した。Skynode Sはオールインワンのドローンコンピューターとフライトコントローラーである。
しかもアンチジャミング性能を備え完全自律飛行で地上の目標に到達し、かなりの精度で破壊することができるという。その攻撃成功率は90%以上だと記事では指摘されている。この技術は低コストで、NDAAに準拠している。
従来のドローンは、オペレーターと機体の通信やドローンのナビゲーションシステムを切断するジャミングの餌食になりやすい。だがSkynode Sはこうした妨害への対策として、ジャミングをリアルタイムで検知し対抗する。この技術は既にウクライナの前線で使用され、有用であることが証明されているという。
Auterionはこのソフトウェアをスマホと同程度の価格に設定することで、米国のドローンメーカーが低価格で性能の良いドローンを生産し、中国のドローンメーカーとの競合他社との競争で有利になることを可能にしている。またSkynode Sは米国、EU、ウクライナの政府及び産業界のパートナーと共に、数ヶ月かけて開発されたという。
コメント
このSkynode Sについてはアンチジャミングとも言えるし、AI半自律攻撃型とも言える機能を主に自作ドローンに搭載する事で可能にする次世代フライトコントローラだ。なんかAIというとLAWS!?となりそうなところは心配御無用で、ターゲットの指定は人間であるところは間違いないのだ!
でもって低価格といってもFPVのフラコンが約3千〜1万5千円程度が相場と考えるとスマホ程度の値段となると割高に感じるかも知れないが、従来のFPVから固定翼まで広く搭載可能なサイズで指定したターゲットに自律的に攻撃が可能になるのであればお安いですよ!奥さん!となるわけだけど技術的に詳しく自身のコーナーで触るんで是非お読みいただければと!(量産型カスタム師)
小型ドローンの時代は終わったのか?フランス参謀総長が語るドローンの未来
概要
C4ISRNET が2024年6月20日に発表( 記事本文 )
原題 "Small drones will soon lose combat advantage, French Army chief says"
要旨
フランス陸軍参謀総長であるピエール・シル将軍は、ウクライナでの戦場等で小型無人機が享受している優位性は「歴史上の一瞬」に過ぎないと述べた。
ピエール将軍は「戦場上空で小型のごく単純なドローンが不自由なく生活しているのは、ほんの一瞬の出来事だ。 今、ドローンが悪用されているのは明らかだ。 今日、空中ドローンという意味での剣は強力で、盾よりも強力だ。 盾は成長していくだろう」と喝破した。
対ドローンシステムの発展にも触れ、ウクライナの戦場にあるドローンの75%が電子戦で撃墜されていると指摘する。ピエール将軍曰く、フランス陸軍が進めている共同戦闘プログラム「Scorpion」の車両は2年後には対ドローンシステムを搭載するとのことだ。
また将軍はFPVドローンの活躍にも触れ、今ではFPVドローンが破壊活動の約80%を担っているが8ヶ月前にはそのシステムは存在なかったと述べた上で、10年後にはそのような状況は存在しないだろうし、1、2年後には終わっている可能性を指摘している。
将軍は今日のドローンは2、3年前のそれよりも飛行性能が向上し、周波数ホッピングが可能になるなど性能の向上が著しいことを指摘している。故にこうした軍用ドローンの開発ペースを踏まえると、フランス陸軍が大規模な購入プログラムを実施できないと述べた。
ドローンだけでなく、スマホ等の電子機器の将来の購入も技術の進化を前提に行われる可能性も指摘されている。将軍は陸軍全体で新装備を数年に渡って装備化するのではなく、旅団レベルで装備を更新するといった例を挙げている。
コメント
これは結構解釈の難しい記事ですね。そもそもフランス軍の最近の活動を存じ上げないので、当然フランス軍のドローンに対する取り組みもあまり知らないのですが、ドローンをトレンドとみるには、既存の火力があまりにも無力すぎないか?と思います。
確かに電波を発する場合は電子戦に対し脆弱になりますが、ウクライナ軍もロシア軍も一生懸命対策をしているところですし、ドローンはプログラム飛行ができます。
また、最近はGPSを使わずに飛行する技術も進歩しています。「砂漠の嵐」作戦のように圧倒的火力で薙ぎ払うことのできた時代はまだしも、シル将軍の主張する「1,2年後には終わる」というのは厳しいんじゃないかと考えます。
度々指摘していますとおり、ドローンは既存のアセットが選ばなかった領域を選んだ存在です。つまり既存のアセットで代替できる能力ではないということです。彼は一度追いかけられた方がいいかもしれませんね。 (以上S)
シル将軍の技術に対する理解度は、解像度が高い面もあると思われる発言が見られるため比較的高いと推測する。例えば装備を旅団レベルで更新していくといった装備調達の今後についての発言は、最新技術の進化スピードが速く、装備化していく中で陳腐化していく危険性を理解しているからこそ出てくる発言のように思われる。
さらに彼は陸上ロボット工学はまだ完全に成熟していないと指摘しており、これもまたUGVの開発についても比較的解像度が高い認識を持っているからこそ言えるコメントだろう。
故にFPVドローンに対する過小評価がどうも腑に落ちない。単に技術的評価以外の理由があるからこそのこの発言なのかもしれない。(以上NK)
「戦いは数だよ、兄貴」は正しいのか?仮想消耗から考える量vs質の議論
ここから先は
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?