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(蔵出し)一緒に落ちてこないで。

この道がまちがった場所につづくこと
知ってるぼくらのほどよい笑い

陣崎草子

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終電間近の夜
心の調子の悪かった私は睡眠導入剤を
規定の二倍で飲んで眠ろうとしていた。

うとうと、というより朦朧としていたら
ガラケーのランプが恋人のメールを知らせた。

「今ひま?これから店に来ない?」

繁華街でバーテンダーをしている恋人だった。

「行く」と二つ返事を返し
パジャマから着替えて軽く化粧をし
既に就寝している母には声もかけずに家を出た。

自転車にまたがり駅へ。

改札に向かう途中で
関西弁のお兄ちゃんにナンパされた。
睡眠導入剤で朦朧としている上に
恋人に呼び出されてご機嫌な私は
「声かけてくれてありがとう!!」と
満面の笑みを浮かべて手を振った。

電車に揺られ、目的の駅へ。
どうやってバーに辿り着いたのか覚えていない。
というか、何も覚えていない。
ただ、「ナオ、なんか眠そうだね」と言う恋人に

「睡眠導入剤飲みすぎちゃったかも」と答えると

「今まだ持ってる?ちょうだい」
と言われた。


翌々日くらいに家に帰ると母に
「自転車は?」と聞かれた。

「停めたとこわかんなくなっちゃった」と伝えたが
私の心の調子が悪いことを家族は把握していたらしい。
誰も責めなかった。

後日、「見つかったー!見つけたよー!」と
祖父が自転車を引いてきた。

その嬉しそうな笑顔を見た時

(全部精算しよう。心を壊すものとは離れよう)と決意をした。

あの人と付き合っていれば、
まちがった場所につづくと知っていたので
私は上手く笑えなかった。

祖父の、あの、笑顔。

祖父の前で一点の曇りもなく笑える自分に戻りたくなった。

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真っ当がどういうものか分からない
けど壊れていく感覚はもう要らない

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