数学者じゃない人が圏論を学ぶ時の勘どころ その2 ー 圏論における図の書き順について
今週Monashでのシンポジウムで、「随伴 Adjunction」という圏論の概念が、意識研究に使えるのでは? というトークを行った。そのトークスライドを準備している時にいくつか気づきがあったのでNoteにまとめておきます。
書き順なしでの随伴の説明
まず書き順なしに随伴を説明してみる。それがこのNoteの最初の図だ。
目標は、2つの圏が随伴関係にあるとはどういうことかを説明すること。
ここでは2つの圏として、[R,<=]と、[Z,<=]を考える。(圏論にはじめて触れる人にもわかりやす書いた一般向けの説明はここでダウンロードできます)。
それぞれの対象は、実数(R)と整数(Z)だ。そして圏を定義する時に超重要な射は、=<、つまり[左] が [右]より小さいか同じ。
もうこの時点で、2つの圏が「全く同じ」ではないことはわかる。
だが、「なんとなく似ている」気もする。
このモヤモヤをズバっと表すのが「随伴」!
そして、随伴は2つの関手と一つの自然変換からなる。(関手と自然変換についての説明もここを参照)。
関手1.Fは、圏[R,<=]を圏[Z,<=]にうつす。
関手2.Gは、圏[Z,<=]を圏[R,<=]にうつす。
重要なのは、2つの関手は、対象と射の整合性をたもつということだ。つまり、FもGも<=という関係性がある2つの対象を、そのまま保つということ。
上の図で言うと、X=2.3, 4.0 という実数の組が、Fという対象を「繰り上げ」、射は「そのまま」に保つ関手によって、F(X)=3とF(4.0)=4にうつり、かつ2.3<=4.0 が3<=4にうつることがわかる。
上の図で言うと、X=2.3, 4.0 という実数の組が、関手Fによって、F(X)=3とF(4.0)=4にうつり、かつ2.3<=4.0 が3<=4にうつっている。関手Fは、対象を「繰り上げ」、射は「そのまま」に保つというのが正体だ。
では、Gの正体はなにか? 「そのまま」だ(ただし、3は3.0として扱う)。上の図で言うと、3は3.0に、4は4.0にうつり、このときも 3<=4が3.0<=4.0にうつっている。
さて、このときの「自然変換」と何か? これがなかなか附に落ちない。直感的にわかりたい人は、ブログでこれについては書いたのでそこを参考にしてみてください。
この場合のくだけた説明としては、次のようになる。まず、Rの中の対象を何でもいいからとってくる(X=2.3)。これをFで移す(F(X)=3)。そして関手Gを使ってもう一回実数の世界に戻ってくる(G(F(X))=3.0)。このときに、絶対に整合的に、もとのX(=2.3)から、出戻りした対象への射がある、ということだ。この場合で言えば、X(=2.3)<=3.0(=G(F(X))だ。
この「ゆるい、が整合的な、同じさ」が随伴だ。
書き順ありでの随伴の説明
ここではかなり噛み砕いたから上の説明で十分かもしれない。が、以下のGIFの図を、じーっと眺めて欲しい。
これをずーっと眺めていると、上で文字で説明したことがより実感を伴って理解できるのではないだろうか?
1)Fで実数から整数に行って、Gで実数に帰ってきた時に(G(F(X))=3.0),最初のX(=2.3)からそこへの射(<=)がある、つまり、それが自然変換であること。
2)X(=2.3)から、f:X<=G(Y)となる、どんなG(Y)(例G(Y)=4.0)をとってきても、圏ZにおけるF(X)からYへの射:gがユニークに決まり、そしてそのg をGで移したG(g)によって、いつでも f=tx;G(g) が成り立つこと。つまり、X=2.3<=4.0=G(Y) が(fの部分)、X<=(G(F(X))=3.0<=4.0 (tx; G(g) の部分)になっていること。
この2つがなるほどね〜、と思えるのではないだろうか? どうでしょう?
(注:G(Y)は、YというZの対象をGでうつしたものじゃないとだめなので、2.1とかはだめです。)