学問分野がつながった時のでかい効用:FishOilとRaynaud's syndrome
今日から(ロックダウン以降)ほぼ2年ぶりに、旅行!
来年のグラントに向けて準備する中で、Don Swanson という人の 1986: "Fish oil, Raynaud's syndrome, and undiscovered public knowledge." Perspectives in Biology and Medicine という論文に出会った。
1)魚油 Fish oil には血行をよくする作用がありそう(omega-3 脂肪酸のおかげ)
2)レイノー病 は身体の抹消で血行が悪くなる時に生じる病気
という、当時は、全く別々に行われていた研究を、このSwansonという情報系の科学者がつなげた(1986)。その後、このアイデアは1989にちゃんと医学的に検証されて、いまも役に立っているっぽい。
オリジナルなSwansonの論文は1000回以上引用されている。面白いのは、この論文のそもそものきっかけ。彼は、関連していることをやっているはずなのに、全くインタラクションがない学問をつなげたら新しいことが生じるはず、という仮説の検証として上のアイデアを提案した。でうまくいった。
その後、二匹目のドジョウ狙って失敗したのも多かったかもしれない。が、この方向性の研究は、新しいアイデアを機械的に生むための方法などに繋がり、今もかなり情報科学の分野で研究されているみたいだ。
自分のこれまでの研究を振り返ると、意識してやったわけじゃないが、こういうことをやり続けてきているなぁと思う。
最初の論文(2005)の連続フラッシュ抑制CFSという新しい手法の発見は、当時、誰もつなげていなかった両眼視野闘争(16世紀以降知られてきた現象)と1900年に発見され1980以降広まったフラッシュ抑制をつなげたものだった。
意識と注意は別々の神経メカニズムに支えられているという主張は私の論文で一番引用されている。これも、意識と注意は、微妙に、別々に研究されていつつも、「〜を意識する」というと実は「〜に注意を向ける」という意味になっていたりという、こんがらがっている経緯があった。それを整理して、別々に系統的に研究スべき、という主張が大きく受け入れられた。
最近やっている数学の「圏論」を意識研究に応用する、というアイデアもこういう系列の考えに近い。
一番直近では、意識研究の中で出てきた現象の説明がつかなくて困っていた。そこで、それをうまく説明するための枠組みとして「量子認知」という分野が使えると思っている。これもまた意識研究に紹介する必要がある。
ここで面白いのは、量子認知は、量子力学の数学の枠組みを認知科学にもってきたものだから、それをさらに意識に輸入するという話になる。
さらにおもしろいのが、歴史的に、量子力学の数学の枠組みをつくるきっかけとして、当時の心理学がかなり貢献したという話。
From Busemeyer 2015 "What Is Quantum Cognition, and How Is It Applied to Psychology?" より引用。
"It is interesting to note that Niels Bohr, who introduced the concept of complementarity to physics, actually imported this concept from psychology, where it was first coined by William James. It was Edgar Rubin, a Danish psychologist, who acquainted Bohr with the idea (Holton, 1970)."
こういう学問横断は、やっている側としては、一々大変だ。新しい分野のことを学ぼうとすると、自分が今までやってきた分野の最新情報などを追っている時間がなくなる。しかも、新しいことを論文として出そうとすると、最初はレビューワーからかなり反発をくらう。
というか、ちゃんとレビューできる人っているのか? という状態で論文を出すことが最近増えた! 最近もらったレビューは、量子情報・哲学者・圏論の専門家から「私にはよくわからないが」的にはじまっていた。
だけど、そうやってリスクとらないと、大きなリターンは取れない。と信じて楽しんでやっていく。