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夢の描き方
「40代の間に『エッセイスト』って呼んでもらえるようになるのが夢」と友人に語った日のことを、今でもおぼえている。あらためて書くとかなりはずかしいが、当時は本気だった。
あれはちょうど10年前、38歳のとき。はじめて自費出版のエッセイ本を出した(500部限定で制作して完売)後のことだった。
それまで15年もの間、雑誌の編集ライターとして主にファッションページを担当しながら忙しく働いていたため、仕事としてエッセイの執筆依頼をいただくことなどなかった。キッズ誌のサイトのブロガーに誘われ、子育てブログを書き始めたことをきっかけに、「自分のことを自分で書くってこんなに自由で楽しいのか」と知った。
もちろん、自由さの代償として、ネタが自分のなかにしかない、つまり自分が空っぽだと書くものもつまらなくなるという現実を容赦なく突きつけられるのがエッセイだ。それでも、誰かの顔色を伺うことなく、そのとき書きたいと思ったことをのびのびと書けて、自分が発した言葉や内容に共感してもらえることもある。「文章を書くことが好き」という原点にも立ち返らせてくれる。この楽しさを知ってしまった以上、エッセイを書かずにいられる体には、もう戻らないかもしれない。
最初の著作から10年、地道に執筆活動を続けるなかでエッセイ本もいくつか出版したが、自分から「エッセイスト」という肩書きを名乗ることには、いまだにどうも気が引ける。そもそも、しっくりくる(気恥ずかしくない)肩書きが見つからないまま、フリーの年月だけが相変わらず積み重なっていくのだけれど。
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