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おしゃれの優先順位
今週、思い立ってクローゼットの見直しを行った。朝ドラの流れでなにげなく見た『あさイチ』に刺激されたのをきっかけに。
20代から30代までファッション誌のエディターをしていたころに比べたら、今は服を買う頻度も数も明らかに減っているし、整理も定期的に行っているつもり。それでも、このたびの見直しで「もう手放していい」と選んだ服は、大きな段ボール2箱分もあった。それらを洗ってアイロンをかけて、古着として買い取ってもらう手配をしたら、クローゼットだけでなく気持ちもずいぶんさっぱりした。
買い物スタイルの変遷
服の選別をしながら、ここ数年で、おしゃれや洋服に対する自分の価値観が、いつのまにか大きく変わっていたことに気づく。
20代前半で出版社のファッション誌編集部に配属されたばかりのころ、セレクトショップのセールで買い物したことを同僚に話していたら、そばにいた上司からぴしゃりとこう言われた。
「ファッション編集者なら、服はブランドの展示会で買うものよ。シーズン終わりのセールなんかで買い物しちゃダメ」。
そのときのショックと、恥ずかしかった気持ちは今でも鮮明に覚えていて、「年2回、新しい服をいち早く買うことは、わたしの仕事の一部になったんだ」と心得るようになった。以来、ファッションの仕事をしている間は、基本的に服を買うのは、お付き合いのある好きなブランドの展示会で個人オーダーをするのがメインだった。
そうした買い物の仕方に、だんだん居心地の悪さを感じはじめたのは、40代に入ったころ。
郊外の古い家で、子育てと執筆を中心に暮らしている身に、シーズンを先取りするおしゃれと買い物が、なんだかちぐはぐに思えてきた。
ファッション編集者はおしゃれの情報を発信する立場だから、どこに住んでいようと、それを仕事としてやる意味がある。でもわたしの場合、仕事内容がファッションや雑誌以外の領域に移っていったこともあり、展示会を回って半年先に売り出される服を見て、それを予約して関係者割引の価格で購入することに対して、「いったい何のために?」という自分へのクエスチョンと、後ろめたさのような感情が少しずつふくらみはじめた。
もちろん、古いつながりがある好きなブランドの服であれば、応援の意味もこめて買い物して、ブログやSNSでそのお知らせをするのもいい。
でも、そうしたことをするときの、仕事と好意の境界線ってすごくあいまいだ。定価で手に入れた上で、これはいいと思ったものを人に勧めるのが本当の意味での「おすすめ」じゃないのか。毎回割引価格で買わせてもらっているものを、ファッションを専業にしている立場でもないのに「これいいよ」と言うのは、専属モニターみたいじゃないか。そんなことを考えながら悶々とする数年を送った。
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