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一流を経験 トレーナーとしても成長【インタビュー④】
ここでは、先日公開したショート版では書ききれなかった金子直矢の「パーソナル」な部分をさらに掘り下げたいと思います。 金子と、記事を担当する清水は、互いに東京都江東区・深川が地元でバスケットボールを通じ切磋琢磨した30年来の付き合い。ここからはより“カネ”の生身の部分が見えるよう、私たちの関係そのままの言葉でやり取りを記したいと思います。地元民の間では「お不動さま」と呼ばれている深川不動尊の仲見世にて、話を聞きました。(聞き手・清水泰斗)
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金子 直矢(かねこ・なおや)。スタジオ ノヴァークス代表取締役社長 1987年生まれ。詳しいプロフィールはこちら。
インタビューシリーズ
①ノヴァークスで成し遂げたいこととは
②手探りの日々、見えてきた理想を追う
③トロントでの生活、広がった視野
⑤悩んで耐えたその先 継いだ「新星」
⑥つなぐ点と線 「えん」持ち星は飛ぶ
ショート版はこちら
衝撃受けた新天地 ホテルフィットネスの世界
――トレーナーとしても人間としても見聞を広めるため、ツールとしての英語力を高めるために海外に行って、その帰路でホテルフィットネスという、それまでのカネの中にはなかったトレーナーの働き方を初めて知った、というところまで聞きました。結局この道を選んだということは、その新しいカテゴリーでまた何かを得ようと思った?
うん。昔からリッツ・カールトン東京のフィットネスは日本有数の会費が高いスポーツクラブ、フィットネスクラブ、て言われていて。と、いうことはそこに来られる人たちって限られた人たちで。自分の知らない世界があるというのをそこに感じた。2、3ヶ月だけでもいいからバイトできたらまた新しい発見があるかなと思っていた。結局足掛け8年在籍することになるんだけど笑。
――ラグジュアリーホテルの内実を知ることは、これまでも述べている「一人ひとりに向き合う」て考え方に厚みをつけることにも結果的につながっているね。ホテルフィットネスを全く知らないでポンっと飛び込んでいるけど、それまでの自分の仕事とは全然内容が違ったのかどうか。衝撃はあったの?
衝撃どころか、すぐ辞めようと思った。トレーナーの仕事はここにはなくて、ホテリエの仕事しかないように見えた。お客さまが来館して、ご案内をする、という。
――てことは、ホテルのフロントとかコンシェルジュに近かった感じ?
圧倒的に。プライベートでリラックスできる空間を目指しているから「混雑しない」ていう部分も大事なのよ。だから当時はスタッフ側も1日中せわしなく働いているというよりは、空き時間が結構あった。入った当初は「お客さまの来館が落ち着いている時間だからタオル畳んで備えておこう」「ジムに誰も来ていないうちに掃除しておこうか」みたいなことが多かった。
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だから「これじゃだめだ、辞めよう」って思って。11月くらいに入社したんだけど、とりあえずその年は越そうかなと。ホテルでの仕事にエナジーを注ぎ切れていないのも、逆に言えば自分個人のお客さまにより力を入れられるとも思って。
でも、その個人でやっているトレーナーの発想の延長で、ホテルのジムを利用されている会員のお客さまにも、トレーナーとしてこちらから売り込んでみようって考え方になったんだよね。「今度、一緒にトレーニングしてみませんか?」と。今までやってきたことと同じことを実行してみたというか。
――リッツのジムを利用するお客さんに、一ホテルスタッフとして接するだけじゃなくて「実はわたくしトレーナーをやっていて、、、」て売り込んだってことね?
そうそう。所属がスパ&フィットネスフロアだったから。主にそこを利用する宿泊ゲストや会員さまに向けて、能動的に声をかけ始めたんだよね。
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プールも担当だったんだけど、俺がトレーナーって知ってる人に対してですら、ホテリエの目線だけで接しちゃっていたんだよね。ホテリエを否定するものではなく、「自分はその上でトレーナーです」というのを出してみた。当時、トレーナーをつけてトレーニングしている人は誰もいなかったから、その時に出会ったお客さまからは「金子君、新しい動きをしていたと思うよ」と今でも言われる。
それまでにも何人かはトレーナーとして動こうとした先輩はいたらしいんだけど、ポツポツ、て感じで、ちゃんと継続してやっている人はいなかったみたい。
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――一流ホテルでも、フィットネス/トレーニングの充実度は盲点というか、活性化していなかったんだ。
「トレーナーとしての自覚」を前面に出す前の自分自身もそうだったけど、「トレーナーとして働きたい」て思っている人は「ラグジュアリーホテルで働こう」とはならなかったんじゃない?後に俺もマネジメントを担当するようになって、採用も担当したんだけど、全然応募が来ないの。だから結局、お客さまも専門的なトレーニングを受けられないって連鎖が起きていた。
「すぐ辞めよう」から発想の転換 鍛えられた力
――面白い。そこにやっぱりカネの独自色が出てくる素地があるというか。「ホテリエでトレーナー」を経験できたことが強みになっている訳じゃん。
そうであってほしいよね。当時の職域は、あくまで宿泊部でしたから。宿泊部、フィットネストレーナーの順。来られるお客さまたちもマナーや所作とかの面で当然、一定以上のものを身につけているから、“振る舞い方”が分からずに入社してすぐに激怒させちゃったこともある。
一流のホスピタリティに触れ、学び、実践できたことは一個人として本当にいい経験だった。チームで色々なイベントを打ち出してみたけど、そういうのに「毎年(イベントを)楽しみにして、来ています」という手紙をいただけたりしてさ。プールの施設で子供向けにガチャガチャとか塗り絵のイベントをやった時は、プールに入らずそれだけをやりに毎日来る子もいたり、そういう反応を見れたのは嬉しかったし勉強になった。
コミュニケーションスキルとして学んだことを、ある程度トレーナーとしての自分に還元できているかな?と思えるようになったのは7年強の勤務期間の大分後半だったね。
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――②で話していたころの経験が活きていると思った。ラグジュアリーホテルのフィットネスの場に、カネのその考えとか振る舞いを持ち込んだところにブレイクスルーがあったのかもね、今思うと。全く新しい環境で、それまで培った自分のできるスタイルを続けてみた、と。
アジア1位の結果を出す過程で固まった将来像
トレーナーをつけるお客さまは徐々に増えていった。で、同僚たちもお客さまへの売り込みを始めたのよ。当時、ホテルでゲストに自らセールスをすること自体が少なかったんだけど、マネジャー曰く、マリオットグループのフィットネス部門でアジア1位の成績を取ったらしくて。系列ホテルの中では「リッツの東京はフィットネスがすごいらしいぞ」ってなっていたらしい。自分自身に役職はついてなかったんだけど一応、リーダーのような形でやらせてもらっていた。
その経験の中で気づいたことがあって。「そうか、自分の価値を高めるために入社したけど、マネジメント能力も今後必要になってくるだろうし、チームで評価を上げる喜びも体感した。自分が目指すトレーナー像として、これもありかな」と感じるようになった。
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――「顧客とファストじゃない付き合い方をする」ために自分の価値を上げる、「チームで取り組む」。カネがノヴァークスでやろうとしていることの輪郭がはっきり見えてきている。
同じようなことを他でやってる人も非常に少なかったし、今辞めて以前のようにフィットネスクラブに戻るよりも、自分自身のブランド力を高めるためにも1、2年で辞めずちょっと続けてみよう、と考えるようになった。
――「かかりつけ医のトレーナー版を作りたい」ていうのは、一流ホテルの顧客への向き合い方とも確実に通底しているね。入社時と大きく考え方が変わって、能動的に働く中でコロナ禍の時期に入っていった。その後の話を次回、聞いていきたいと思う。
⑤に続く
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WRITER
Taito SHIMIZU / 清水 泰斗
1987年、東京の下町・深川生まれ/育ち。新聞社で4年半、地方記者を経験。日本中の工芸やニッチな特産品の取材、アイヌ文化、サウナや銭湯、エスニックタウン、アンダーグラウンドカルチャー、マタギ文化、プラナカン文化などにも食指。日本語教師としても活動。
メディアもファストな時代ですが、丁寧に、あらゆる分野に飛び込んで文章を書いていきたいです。
I was born and grew up in downtown Tokyo and now live here.I'm writer who wanna write substantial article. Also working as a Japanese private lesson teacher.
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