成就しようのない恋をしている

20年前、高校2年生。

そのころから現在に至るまで、私はずっと一人の人を想い続けている。


恋、と呼べるものなのかといえば不明。

関係性が複雑なんだ。


その人とは部活が同じだった。演劇部。

その当時は全くその気はない。私には別の恋人がいた。

恋人とその人が親友だった。大体遊ぶときは3人だった。

やたら背が高くて、線は細いのに筋肉はあって、見た目はぱっとしないもっさりしたオタク風少年。

時々ふと突拍子もない言動をしたり、何を考えているのかわからない時がある。よく言えばミステリアス、悪く言えば変人。

高校を卒業してからもその人とはずっと縁が続いている。



その人はゲイだ。

それを打ち明けられたのは成人してからだった。

高校の時、あろうことか私の恋人に好意を寄せていたという。そして私に嫉妬していたとも。

思わず笑ってしまったと同時に、納得した。だから彼はいつも、私たちカップルからつかず離れずの距離にいたのか、と。

もちろん当時の恋人とは別れて久しく未練もなく、そういったセクシャルへの偏見もなかった。だからためらいもなく「そうだったのか」と返した。

同時に私も打ち明けた。バイセクシャルであると。

マイノリティ同士の奇妙な連帯感で、彼とは友人から親友になった。


私は彼を「兄」と慕っている。

お互いを、2人だけがわかる名前で呼びあう。

親友で、兄妹で、ライバルで、師弟で、とにかく色々表しきれない関係。それが彼と私。

私は、気が付いたら彼を想っていた。

恋愛感情なのか、家族のような愛情なのか、憧れなのか。今でもわからないが、彼との未来をどこかで期待している自分が常にあった。

だが、彼はゲイだ。

私が女である以上、彼とそういった関係には絶対になれない。諦めが9割、かすかな希望が1割。


「お互い35を過ぎても相手がいなかったら、老後のために友情結婚をしようか」

彼が軽率に言った。

私の1割が突然きらめいて見えた。息が止まりそうになった。そんな素振りは出さぬよう、極めて冷静に、何ともないことのように、「そうだね、そうしよう」

約束をした。


34になった。あと数ヶ月で約束が果たされる。矢先。

彼に恋人ができた。


海外に住む同性の恋人だ。


彼は恋人に会いに、一年に一度渡航する。

お土産と旅行話を私にくれる。恋人の話も添えて。盛大な惚けを味付けに。

複雑だった。今もだけれど。

あきらめてはいなかった。もちろん、結婚したとしても形だけだから、お互いの恋愛面や夜の面に口出しはしない。形式上夫婦になっても、別で恋人がいても構わない。その前提は了承済。


35を過ぎた。「大事な話がある」、いよいよか。

「僕、アメリカに行くよ。向こうで正式に彼と結婚したい」

私はあの日のことを一生忘れない。


泣いた。そりゃあもう泣いた。恨み言をたくさん吐いた。困らせてやった。

好きな奴が結婚するときに言う「幸せになれよ」なんて言えなかった。あれはフィクションだから言えるのだ。

幼児のように、メンヘラ女のように、駄々をこねた。ひたすらに泣いた。

私が泣き続けて、彼がずっと気に病めばいいのに、と思っていた。

十分にメンヘラ的な思考をしていたと反省はしている。


その年のGWに、彼は渡航して立会人に会い、手続きの詳細を聞いてくる、同時に永住に必要な書類等を日本でも準備するんだ、と楽しそうだった。

結果、行けなくなった。新型感染症で渡航がストップしたから。

しょぼくれている彼を見て、少しだけ「ざまぁ」と思ったのは内緒だ。


そして、今日に至る。

彼はまだ渡航できずじまい。けれど恋人とは連絡を欠かさないと聞く。

私は… 何一つ変わっていない。

何度か、恋人を作ろうとした。彼と比べてしまったり、何か違和感を感じて、ダメだった。

あきらめきれていないんだ。あの日、現実を突きつけられて、それでもまだ、彼を想っている、未練がましくも。


彼とはもちろん変わらない関係を保っている。時々遊ぶし、互いの家を行き来することもある。

時々淋しそうな、浮かれているような顔で「早く海外行けるようになるといいなぁ」なんてぼやく。ちょっとだけ腹が立つから言ってやる。

「お兄ちゃんはいつも、私のことを置いていくんだね」

彼の一番苦しむ言葉。


おそらくこれから先も、私はきっと変わらないだろう。

彼が本当に行ってしまったとしても、ずっと彼を想い続けるのだろう。そしていつまでも子どもの嫌がらせみたいなことをしてやるのだろう。

愚妹でごめんね、お兄ちゃん。



そんな恋を、しています。

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