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ゴールデンウィークになると想いを馳せるロンドンでの二週間。

まず「できます」と言え。やり方は帰り道で考えろ。

庭園デザイナー 石原和幸

こんばんは、佐々木です。
今年のゴールデンウイークは、天気が安定していて気持ちの良い気候でしたね。風が気持ちよかった。5月から7月の青葉を揺らす南風を"青嵐"と言うらしいです。

コロナの規制も穏やかになり、観光のお客さんもかなり戻ってきたように感じる活気でした。
特に、寸又峡は紅葉の時期並みにたくさんのお客さんが来ていたようですね。

私はというと、先週のnoteに書いた通り、「お弁当」と「宿泊施設での料理提供」の仕事が忙しく、てんやわんやしておりました。
献立の決定、買い出し、仕込み、調理、盛り付け、配達のループ、そこにファミリー要素やその他諸々が絡むので、なかなかにばたばたでした。
無事に乗り越えられて本当によかった!
合間合間に打ち合わせや会合が入りつつ、色々な人と未来の話ができたことはリラックス&パワーになりました。
どうもありがとうございました。

今回は、この時期になると思い出す、2014年のロンドンでの経験について書いてみようかと思います。
それは私の人生において、色んな意味で大きな出来事でした。

きっかけは店長をしていた飲食店でのボヤ騒ぎ

私は2011年から東京都足立区の北千住という町で、60席くらいの規模のダイニングバーの店長をしていました、
ある日、外のネオンサインから発煙してしまい、慌てて119番して、近所が騒然となるという出来事がありました。

ボヤ騒ぎ

結果的には大事に至らなかったのですが、ネオンが使えなくなってしまいました。

その件では火災保険により、まずまずまとまったお金が入金されたこともあったので、さて新しい看板はどんな風ににしようかと考えたりリサーチしていると、『壁面緑化』というものが目に留まり、これだ!ってことで施工業者を探している中で、ひと際かっこいいデザインの壁面緑化をしている会社を見つけました。

世界一のガーデナー石原和幸さんとの出会い


初対面の日

それは「株式会社石原和幸デザイン研究所」でした。
なんでも、社長である石原さんは世界一のガーデナーとのこと。ふむふむ、それは素晴らしい。よし、なにはともあれまずは見積もりをとってもらおう!ということで、さっそくアポをとって渋谷にある会社へ。
着くと、たまたま事務所にいらした石原和幸さんご本人にも同席していただけて、こちらの希望を伝えたり、色々な話をすることができ、そうしたら「その予算だと壁面緑化で大きなインパクトを出すのが正直難しい。代わりに、店全体を"ジブリの森"にしちゃうのはどう?!」という提案。
壁面緑化は水関係の工事も多く、工事も高額で、なおかつ維持も大変なので個人店にはあまりおすすめはしないとの話で、代わりに店内とファサードを"ジブリの森"にするのはいかが?と。

えー、なんですかそれはー!
となるじゃないですか。
話を聞いてみると、
当時公開されていたスタジオジブリのドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」に合わせて、新宿バルト9という映画館を"ジブリの森"をイメージして造花で緑化したんだけど、それがもうすぐ撤収になる。
すごい量の造花だから、それを転用すれば店全体を"ジブリの森"にできるよ!とのことでした、
しかも、施工には石原社長ご本人が来てくれる上、店外表には木も何本か植えてくれるという話で、これはヤバい!素敵すぎる!と思って、その場で即お願いします!と返事をして、日取りまで決めちゃいました。

それがまた人生に動きを出す決断になろうとは。

新宿バルト9の装飾

えっ!会社から費用が出ないだとう!

当時私は飲食店の店長という立場で、オーナーは別にいました。
オーナーは三宅島と新島いう離島でホテルとパチンコ屋を経営している人です。
私はリゾートバイトでそのオーナーが経営する三宅島のホテルで数か月働いていたことがありまして、そのときにそのホテルの従業員のあまりの仕事のレベルの高さに心が震えて、「いつか必ず戻ってきます!」と言って契約期間を終えて去ったのですが、約一年後に戻り、"本当に戻ってきた面白いやつ"ということで可愛がってくれて、毎晩死ぬほど飲みながら色々と教えてくれました。
ホテルではレストランでホールの仕事をやっていたのですが、ある日オーナーに「東京の飲食店の店長が辞めるからお前に任せるわ、よろしく」との突然の命令。当時、包丁も握ったこともないおれが飲食店の店長!まじか!と思いながらも「わかりました!」と即答。
早朝のレストランで、野菜の切り方を板前さんに教わるところからのスタートでした。
夜のレストラン終了後に明け方まで飲んで、そのまま早朝のレストランで自主練、少しだけ寝て、昼のレストランのホール、少し寝て、夜のレストランでホール、深夜まで、時には明け方まで飲んで、、というループを三か月、そして東京の店舗の店長になりました。
(ホール担当のただのアルバイトに店舗を任せちゃうのって、オーナー、なかなかすごい判断ですよね。。)

話がそれましたが、そんな感じで60席くらいの比較的大きな店、しかも繁盛店でアルバイトが10人くらいいて、どう考えても自分が一番料理もドリンカーもホールもできないという状況の中、それでも気合と根性の試行錯誤で売り上げを伸ばしたので、オーナーはほぼすべてのことを私に任せてくれましたし、それによって私も一層のびのびと色々なことを試したり、また、勉強のためにおいしいお店に食べに行きまくったりしていました。

そんな状況下での"ジブリの森"化への決断だったので、オーナーには事後報告でも「お前がそう判断したならそれでいこう」的な反応かと思っていたのですが、なんとその件は「うーん、今回は見送ろう」でした。
あれー!!なんてこったいー!!日取りまで決めちゃったよー!
となったのですが、そのとき私がした判断は「オーナーに黙って、自費でやる」ということでした。
そう、自分のお金を出して店内を森化することにしたのです。

え!チェルシーフラワーショーのスタッフになっちゃった!

そんなわけで無事に(?)店も森のようになり、訪れるお客さんが入った瞬間に「ジブリみたいー!」と感激されていたんですが、前述したとおり、まさにジブリの森をイメージした装飾を転用したものなので、本当に"ジブリみたい"な雰囲気でした。

店内バーカウンター
ファサード

その後も、店内で石原さんとクリスマスリースを作るワークショップを開催したり、石原さんが経営する飲食店で話をしたりと、ご縁は続き、
ある日、「今度参加するロンドンであるチェルシーフラワーショーにスタッフとして来てみるか?無報酬&旅費、宿泊費は自腹だけど。」と話をいただき、それもイエスと即答。
庭仕事もやったことなければ、花も買ったことないよー状態でしたが、来た波には乗るってことで、ロンドン行きを決めました。

石原さんにの経営する店の前で

他にも同じように"チャレンジスタッフ"という枠で15人くらい参加者がいましたが、みなさん選考で選ばれた植物系のプロフェッショナルの方々で、私だけ本当にど素人で、さすがに恐縮しました。

世界一の仕事を間近で見られたこと、世界一になる瞬間に立ち会えたこと

世界一のガーデナーが何故世界一かというと、
チェルシーフラワーショーが世界で最も歴史と権威のあるガーデニングの祭典だからです。
1913年から続き、主催はRHS(王立園芸協会)、会期5日間で世界中から16万人もの人が訪れる、いうなればガーデン業界のパリコレですね。

そこに参加するだけでもスーパーハードな難易度で、ゴールドメダル受賞なんていうのは夢のまた夢、まさに世界最高峰のガーデン技術・センスを競う大会なのですが、石原さんは2014年当時で、銀メダルにあたるシルバーギルドを1回、ゴールドを4回獲得しており、文字通り世界一のガーデナーです。

さて、私がスタッフとして参加させてもらった2014年での結果はというと、
「ゴールド」とその中でもトップである「ベストガーデン」を受賞しました。すげえ。

ショーに向けての庭造りの期間は一週間程度。
その短い期間で、まっさらな土地に庭を作ります。
日本時点での段取り、イギリス到着後の段取り、現地での仕入れ、現場の指示など、すべてが完璧なイメージのもとでの的確で素早い指示。
不測の事態でも右往左往せず、即次の策へ移る判断と決断。
そして現場でどんどん湧き上がる"もっとこうしたら面白そう"という探求心、好奇心。遊び心。
それを見事にひとつの世界へとまとめ上げる集中力。
仕事のどこを切り取っても石原さんの本気や魂を感じることができ、ほんとうにシビれる経験でした。

(石原さんの仕事術で"これぞ世界一!"と感じたことがあって、
採点にまったく関係のない、「表から見えない部分」についても完璧に装飾する、というところです。
見えないところだし、時間もかなりシビアなので、多くの参加者は裏側についてはノータッチの中、石原さんは裏側までしっかり世界観を表現していました。
審査員は見にこないし、見ても評価には影響しない部分だけれど、そこまで手を抜かない精神性こそが、世界一たるゆえんだと思いました。
映画の巨匠、黒澤明監督はたとえ映画に映らなくとも箪笥などの小道具の中はきちんと詰めていたらしいですが、それと同系のプロフェッショナルの精神性だと思います。)

そんなわけで、この時期になるとチェルシーフラワーショーで行ったロンドンに想いを馳せるのです。

チェルシー会場
何もないところに庭を作る
作業風景
完成した庭前で
裏側
授賞式
ゴールドメダル受賞記念

余談ですが。

前述した「クリスマスリース作り」に参加したお客さんの中で、ちょうどその時期に語学留学でロンドンに滞在中の方がいました。
雑談で、同じ時期にイギリスにいるらしいということはわかってはいたので「向こうで乾杯出来たらおもしろいねー!」なんて言っていたのですが、イギリスと言っても広いし、難しいだろうなーと思いつつ、連絡してみると、なんと地下鉄で数駅の距離。本当にロンドンで乾杯できたし、それどころか毎日のように飲み歩きました。
後に、その人と結婚して、一緒に川根本町に来て、今に至るというお話。

こっそり会場に入れてもらってるところ
庭の前で

この物語のきっかけはボヤ騒ぎ。
人生なにがどうなるかわからないですね。
ビバ!怒涛の人生。

佐々木直也

” Do your best, and it must be first class. ”
「最善を尽くせ、そして一流であれ」

ポール・ラッシュ

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