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正義は必ず生きている〜ミュージカル「三銃士」感想

芸術が持つ1番の力って、見聞きする人の人生を肯定してくれることだと思うんです。
それも、"そのままでいい"という自己受容じゃなくて、これから進む道は明るい・正しい、そうでなきゃいけないんだ、と思わせてくれる力。どんな過去を経てどんな今を生きていようが、その場に居合わせる人等しく、皆にとってね。

本日待ちに待ったミュージカル「三銃士」を観劇してきました。真っ先に出てきた感想は「私のこれから先をもずばっと美しく照らしてもらったような気がする」です。

だって
正義は必ず生きている、
のですから。


というわけで観劇レポというよりいつもの如くただの感想と個人的な日記です。とはいえネタバレとなる部分もかなりあろうかと思いますのでお気をつけてください…🙏!



ばたばたで大して観劇の予習もできず、でも漠然と「ちゃんとしていこう」と心に決め、普段の生活では身につけないような服装で、一切のオタクムーブを排して席につきました。
何も知らないなりのプライドとこだわりですが、アイドルを見に行くのとは違うんだ、という心持ちでいたくて。もともとミュージカル音楽や映像は好きで舞台も行ってみたいな…とかねがね思いつつきっかけを探していたので、本当に楽しみにしていたんです。


客席が暗くなり、序盤、坂本昌行くん演じる三銃士のリーダーアトスが語り手として出てきます。最初っから引き込まれて。舞台特有の抑揚で、深みのある声と語尾の音の抜き方がなんともいえずセクシー。目線の落とし方、首の振り方すべてから目を離せませんでした。そしてアトスの鮮やかな紫の服から伸びる脚がずっっとかっこよくて見惚れました。コンサート衣装のような、でも派手すぎず大人の煌びやかさをまとっていらっしゃったな。


一幕:ダルタニャンと末澤誠也

回想シーンが終わって下手から出てきたのがダルタニャン!髪を後ろに束ね、アトスと比べるとシンプルな茶色のベストで登場します。

「僕、パリへ行きます!」とお父様のお墓の前で語るダルタニャン。その後パリの街で歌い踊り決闘を申し込みヒロインコンスタンツといきなり恋に落ち……とあれよあれよとダルタニャンによるオンステージが繰り広げられます。歌って踊って戦って。お、お、お?おお!!??と、ずーーーーっと浴びていましたよ、すごい量のダルタニャンを。よく生きてるよ私。
いやしかし末澤担というバイアスを外してもなお、ここからの一幕はダルタニャンのものだったといってもいいんじゃないだろうか。

思ったことはみっつです。

まず、これまで言われてきたように、しっくり役がはまっていて、ところどころいつも私たちが見る末澤誠也だなあという感じがすごくありました。
ダルタニャンは父のような銃士になるため田舎からパリにやってくる、天真爛漫・向こう見ず・まっすぐな青年という設定。跳ねるような無邪気なリズム、高音が少し鼻にかかる・力を入れると喉が鳴るあの彼の声がピッタリ合っている感じがしました。特に三銃士に「ガキじゃないです!」と抗議する、ちょっとしたツッコミを入れる後輩ムーブシーンは、まさに等身大の末澤くん。
三銃士、大元の出典はダルタニャンが主人公でありつつ今回は三銃士のアトスにフォーカスを当てるストーリー。ダルタニャン、主人公ではないのに主人公感の生き様が溢れ出ていて、そもそもそれって末澤誠也なんだよなって今振り返りながら思っています。



そしてダルタニャンといえばすぐ決闘を申し込むところ、その時の低く構えるポーズ。低い。ものすごく低い。重心が。後輩からどうでした?とラインが来て、真っ先に「ダルタニャンの重心が低い!」と返してしまうくらい印象的でした。

左胸(心臓)を守るように右胸を前に、前に出した膝が90度に曲がるくらい腰を落とし、剣を前に突くような姿勢。フェンシングでいうと構えっていうかもう突いてる段階の姿勢じゃないか?これをね、シュタッ!と客席に横のラインを見せるように綺麗に…本当に綺麗に低く構えるんです。とにかく剣から逆の手まで伸びるこのラインの美しさに私は息を飲みました。そう、私は末澤くんの美しいラインのダンスが大大大大好きなので。
あまりに機敏にやってのけていて、何か見覚えあるなと思ったら実家の犬が追いかけっこしたい時に構えるやつでした(すみません)。それくらいエネルギッシュでもあった。


しかし他の三銃士も、敵役であるジュサックやその周りの銃士もそんな低い姿勢とらないんですよ。ダルタニャンだけです。なんかこういうところに、「父の教えが染み付いてる」ダルタニャンを感じてしまって。
私はスポーツの動作解析の研究をしてるんですけども、一流アスリートから昔部活を頑張ってたレベルの人まで、所作や重心の置き方にやっているスポーツの流儀が染み付いているということがよくあるんですね。だから、ああダルタニャンは決闘決闘と無謀に口にはするけれども動きの基礎は当たり前のようにしっかりしているんだな、アトスもそこにダルタニャンの本物感とか、剣さばきに父親の影を見る(ダルタニャンの父がアトスの師匠)んだなとか、感動的なリアリティを覚えたんです。


最後に歌ですが、お芝居の声とは違って常に低太く音を響かせる感じ。末澤くんの歌声といえば中高音をばちーんと当ててくるのが特徴で、低い声といえばPRIDEのAメロのような息を含んだ繊細なイメージがあったので意外でした。

その低く太い声に慣れてきた頃に、元々の末澤くんの声の良さを私は感じたと思います。彼って違和感を与えない程度の音の揺らぎがあって、ほんの少し高さが足りないところにあどけなさを感じさせたり、力を入れるところでやや上擦ってピュアさを感じさせたり、声に永遠の無邪気さがあると思いませんか。
他のキャストの方ほど安定した歌声ではないんだけど、だからこそ勢いで物語を展開させていくダルタニャンらしさが特に一幕では光っていたように思いました。


二幕:アトスとミレディ

二幕は完全にこの2人の物語でした。
アトスとミレディ。

三銃士のリーダーでダルタニャンの面倒を見るアトスと、第一幕では敵役・美しい悪女であったミレディ。実はかつて恋人だったことが一幕の最後の方でわかるのですが、第二幕でその2人の過去と現在が描かれます。

「天使だー!」と手を取り合い勢いで突き進む若いコンスタンツとダルタニャンの恋を一幕で見てきたので、もうこの2人の大人の恋愛っぷりにもう情緒がおかしくなる。
アトスがミレディと過去を回想するシーンの描かれ方がとても美しかった。舞台の左右に立つアトスとミレディの後ろに、若かりし2人がそれぞれいて、アトスが過去を語り出すとともに舞台の真ん中で踊るんですね。空には星が広がって、愛し合った2人があの日見た流れ星も表現されます。
ここの映像美がすぎる。ララランドで愛する2人はタップダンスを踊っていましたが、ここではバレエ。そのまま、なぜ2人が引き裂かれミレディが悪女になってしまったか…というシーンに繋がります。その後も切ないんですが、個人的には「同情しないで!」が響いたな…。

そんな"悲恋"がメインでありつつダルタニャンは、クライマックス戦闘シーンの盛り上げにめちゃくちゃ重要な働きをしていました。自分の父がアトスの師匠、相対するジュサックがその父を手にかけたと知った時のダルタニャンの感情の動きがないとこの物語の読後感はなかったと思います。

ラストで銃士の服を着せてもらい、アトス・コンスタンツに誇らしそうな顔を向けるダルタニャンも可愛らしくてなんだか嬉しかった。
ダルタニャンはまだ、コンスタンツとの恋も銃士としての仕事も夢も全部一緒で100%全開のエネルギーで表現するんですよね。の割には一幕で大事なところでコンスタンツから目を離しアトスたちと酒を呑んじゃうし、最後のシーンももっと彼女と絡んでやれよと思わなくもなかった。
一方アトスは、ミレディに向ける顔と銃士としてダルタニャンたち向ける顔が若干違うんですよね。ミレディに対する憂いの中に甘さ、真っ直ぐなピュアさを思い出していたいもどかしい感じ、ダルタニャンに対するいい上司かつ相棒感。この使い分けが大人の男性すぎてセクシーすぎるし、その背景には使命か恋人かという残酷すぎる2択があったと思うともうなんとも言えんっす。アトスっっっ!!!


正義は必ず「生きている」

この物語の主題は…と考えるのも野暮な気がしますが、何度も繰り返された言葉は「正義は必ず生きている!」というダルタニャンの父の信念であり弟子アトスと息子ダルタニャンの合言葉、そして銃士としての「僕たちはひとつ!」だったように思います。

この「正義は必ず生きている!」という言葉がよくぞこの和訳で表現されたなという気持ちが強い。
普通、正義と聞くと必ず勝つとか、死なない、とか未来形の言葉じゃないかな。そうじゃなくて「生きている」。現在完了形で、当たり前の形としてそこにあるよと。一直線に正義を信じるダルタニャン、二つの正義の中で苦しみながらも進むアトス、どちらにとってもこの言葉が支えになっていて、実際に彼らの行動や剣さばきの中に父親の正義は生きているわけでしょう。

ダルタニャン、アトス、敵役と呼ばれる人たちも皆、混乱の世の中、自らの正義に対してどれだけ心を砕いてきたかというすべての、ひとつひとつの表現が胸に迫ってきます。
正義は、必ず、いきている。末澤くんダルタニャンが口にするとと前に向かうリズム、坂本くんアトスが口にすると言い聞かせているような深みを感じます。正義は必ず生きている、と私も心の中で繰り返してみました。

そして、やっぱり印象的なあの、ダルタニャンの低く構える姿勢、剣から反対の腕まで綺麗にすっと力強くも美しく伸びるライン。
それも含めて冒頭の「自分の人生をも肯定してくれるような感覚」、私にとっての正義も必ずこの道の先で生きているんだ、と勝手に感じ取った次第です。

カーテンコールの末澤くんはラストのシーンの延長戦さながら誇らしい笑顔を客席に向けてくれていて、また胸が熱くなってしまいました。もう30分くらい拍手できたな。余韻がすごくて、道ゆく人に決闘申し込みたくなる気分でした。MBSスカイシアターと大阪駅がもう少し遠かったら危なかったです。

素敵なミュージカル「三銃士」でした⚔⚔⚔

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