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友達のお父さんが、男の人になった日
子どもの頃、うちの近所に住んでいた家族がいて。わたし達きょうだいと同じくらいの子どもがいたもんだから、家族ぐるみで仲良くしてもらっていたんだよね。
そこのお父さんとお母さんは、子ども心には少し厳しい人に見えたけれど、ヨソの子であるわたしや弟には優しかった。友達のお父さん=おじさんは、あの頃わたしにとって、自分の家族と同じように信頼できる大人でしかなかったのだ。
その後わたし達は引っ越し、その家族との交流は途絶えたのだけれど、なんやかんやとあって数年後に再会をはたす。
あの夏の日、わたしはいくつだったろう。中学生くらいだったのかな。暑い日で、デニムのショートパンツを履いていた。
ドアのチャイムを鳴らすと、数年ぶりに会うおじさんが立っていた。「やあ、なおちゃん。久しぶりだね」と、にこやかな笑顔で…と、そこまでは良かったのだが。
わたしは気づいてしまった。おじさんが、わたしの顔を通り過ぎて、ショートパンツから伸びた脚をチラチラチラチラ見ていることに。記憶の中の厳格なおじさんからは想像できないような、にやけ顔で。
男の人はそういうものなんだと、知識としては持っていた。けれど実際にそういう目にさらされたのはあれが初めてで。わたしはすごく、ショックを受けた。
ああ、おじさんも男の人なんだ。小さい頃から知っているわたしのナマ足を見て、そういう顔しちゃうんだ。って。
自意識過剰だと思おうともした。男の人ってそうなんだよね、仕方ないんだよねと思い込もうともした。けれどたぶんあれは、見てたよなぁ…ヨコシマな目で。じゃなきゃ、あんな嫌な感じはしないはずだもの。
だからって、おじさんが嫌いになったとか、それこそニュースになるような事件を起こしたとか、そういう話ではなくて。ただただ、「うわ、ショック…」って記憶が蘇ってきた。ってだけなんだけど。